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小説「恋愛ヘッドハンター」⑤

三年前、れいかと智也がそれぞれ中学一年生の時のことだった。れいかの母と智也の父が結婚し、二人はきょうだいになった。二人の誕生日は二日ちがいで血液型まで同じだった。
「まるで双子ね」
 両親ともに茶化して言ったが、二人は双子になれなかった。
智也の父はヘッドハンターであり、その秘書を務めていたのがれいかの母だった。智也の父は妻の浮気が原因で離婚していた。智也の母は父の秘書だったが、離婚をきっかけに退職した。智也の父が求人を出したところ、応募してきたのがれいかの母だった。夫を病気で亡くしたれいかの母は正社員の職を求め奔走していたのだ。
れいかの母は秘書として採用された。やがて智也の父とれいかの母は、公私ともにパートナーとなり、結婚へと至った。
両親が多忙であるため、智也とれいかは協力して家事をこなした。主にれいかが料理や洗濯、智也が片づけと掃除を担当した。家事をこなすうちに、どんどん距離が近づいていく。両親が意気投合したのと同じように、智也とれいかは惹かれ合ってしまった。
家族で車に乗って出かける際、二人は後部座席に並んで座った。父が運転し、母が助手席に座る。何気ない会話を四人で交わす。
赤信号で車が停止し両親が見つめ合って笑う。智也とれいかは後部座席で手をつないでいた。穏やかな時間が車中に流れていた。
あの事件があったのも、車に乗っていた時だった。智也とれいかが中学三年生に進級した春。郊外のショッピングモールで買い物を済ませ、家族全員車に乗って家へ帰っている途中だった。前方からパトカーのサイレンが鳴り響いてきていた。
「何かあったのかな」
 父が遠くを伺っていた。
「ねえ、前から車来てない?」
 母が前のめりになった。後部座席から智也が上半身を乗り出した。
「逆走してる!」
 智也の声に父は急いで路肩に車を止めようとハンドルを切ったが、暴走してきた車を完全に避けることはできなかった。
 智也とれいかは大けがには至らなかったが、両親と加害者である初老の男性は意識不明の重体となった。加害者は運転免許証を携帯しておらず、乗っていた車は盗難車であり、その上、顔に大けがをしたため、身元が不明だった。
両親と加害者はそれ以来、ずっと病院のベッドに繋がれたままだ。

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