恋愛ヘッドハンター2 砂時計③

「うっ」
賢太郎は思わず唸り声を上げてしまった。
ステンドグラスのランプが灯る暗がりの部屋。ベッドで微動だにしない妻・恵里菜の横顔が浮かび上がる。

恵里菜は、かつてガラス工芸作家として活動していた。作品が雑誌に載り、一時期人気を博した。暖かみのある滲むような色合いが人々を魅了した。ただ、それがきっかけでずっと可愛がってくれていた師匠に嫉妬されてしまった。度重なる嫌がらせに心を病み、3年前に仕事をやめてしまったのだった。

それ以来、恵里菜はほぼ家の中で過ごしている。家事も徐々に出来なくなっていた。
結婚当初の明るい性格はいつの間にか消え失せ、見た目は痩せさらばえ、口数は少なくなり別人のようになっている。

また、嫌がらせをした上司が男だったことが祟り、強烈に異性へ嫌悪感を示すようになった。もちろん、賢太郎と恵里菜の間に性交渉など無い。
賢太郎は恵里菜の気持ちを慮り、手さえ触れないようにしており、父親、または兄のような存在として家族を続けていた。かつて恋人であった女の姿はもう、どこにも見当たらない。

賢太郎はごくりと唾を飲み込んだ。
「君は、僕のことを色々知っているの?」
恐る恐る訊くと、智也は目を伏せた。
「依頼主の方からのお願いで、少しは」
「そうか」
賢太郎は肩を落とした。
料理が次々と運ばれてくるが、食欲は減退する一方だ。
「あの、依頼主の方が来るんです、ここに」
「はい?」
「すみません、合間合間に連絡取ってて。たぶん、そろそろ来るんじゃないかな」
賢太郎は、智也が移動中にちょこちょこスマホを取り出しいじっていたことを思いだした。額に汗が滲む。
「いや、その、僕は会うとはまだ決めていないし」
「失礼します」
二人の席に女性が一人現れた。
「あ、あの」
「久しぶりね」
目の前にいたのは、大学時代の同級生でかつて付き合っていたひかりだった。

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