いい塩梅 #いちまいごはんコンテスト
6月某日
車内いっぱいに広がる梅の香り。
梅干し用の梅を受け取りに車を走らせること1時間。
今年もその日がきた。
私はかれこれ20年以上、毎年梅仕事を続けている。
最初の頃は近所の人から頂いたり、スーパーで手に入れたりしていた梅だったが、ここ10年は知人が梅農家さんから大量に購入する梅を分けてもらっている。
これが格別に美味しい南高梅なのだ。
自然落下するまで熟し、樹から落ちるまで待つ完熟梅。
フルーティな香りに誘われて思わずかぶりつきたくなるほど。
収穫する日が決まっていないため、連絡がきたその日のうちに受け取りに行き、早急に漬け込み作業にとりかかる。
新鮮な梅の実を水に漬けると無数の産毛によって空気の層ができ、ガラスの膜が張ったようになってとても綺麗。
完熟梅は柔らかくデリケートなので扱いは丁寧に。
赤ちゃんの沐浴に似ている。
たっぷりの水を張ったボウルに梅を入れ、優しく洗う。傷つけないよう慎重に竹串でヘタを取ったら布巾でひとつひとつ水気を拭き取る。
赤ちゃんの頬をガーゼで拭くように、優しく丁寧に。
下漬け
梅に粗塩をまぶして重石を乗せ、梅酢をあげる作業に入る。
完熟梅なので梅酢はすぐに上がってくる。
昔ながらの梅干しは梅の実の重量の20%の塩で漬けるのだそうだ。しかしこの塩分量で漬けるとかなり塩辛い梅干しになる。口に入れた瞬間きゅっとなって閉じた目が開かないくらいしょっぱい。
かといって塩だけを減らすとカビが発生しやすくなるという難点もある。
私は少し甘い梅干しが好きだ。
減塩方法を調べて自分の好みの味になるよう足したり引いたりした結果、粗塩10%、氷砂糖10%に落ち着いた。
本漬け
梅酢が上がったら本漬けへ。
赤紫蘇を入れる年もあれば、入れずに白梅干しの年もある。
カビが生えないかドキドキしながら土用干しを待つ。
今年は雨が多かったので、7月後半は天気予報をチェックしながら土用干しのタイミングを見計らっていた。
梅干し作りの工程はひとつひとつに手間がかかり、難しい。毎年うまくいくとは限らず、昨年は下漬けの段階でカビが発生して泣く泣く処分した。
そして今年こそはと細心の注意を払っての梅仕事。
やった、今年は最高の出来だ。
ひとつ味見してみる。
ふわっと柔らかく、太陽の光を浴びて少しあたたかい梅。これは手作りでないと食べることができない貴重な出来立て梅干し。
うん、いい塩梅。
お弁当に入れるも良し、素麺に入れるも良し。
「お母さん今日のおにぎり梅干しがいい」
4歳の娘も好きな私の梅干し。
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タダノヒトミさんの「#いちまいごはんコンテスト」という企画に参加させていただきました。たくさんの美味しいエピソード、読むのが楽しみです。
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