見出し画像

アーモンドが咲く頃に

前回
徳島県屈指の美味しいお米の産地「佐那河内村」を五感で体験するために、佐那河内で炭素循環型農法に取り組む鈴木さん夫妻を訪れたコメヤノムスコ。
菌床を使った土づくりで地球にやさしい農法を教わった後、鈴木さんの果樹園へ向かうことにした。

「ここはみかんの果樹を植えてます。」
案内してもらってすぐに気づいたことがある。

あれ、少ないな。果樹園ってたくさん木が並んでいるイメージがあるけど。

数えられるほどしかなかった。

鈴木さんの果樹園

「前まではたくさんあったんだけど、昨年の冷害でほとんどやられちゃって。なんとかしようと思って頑張ったんだけど結局ダメで全部切りました。」

「零下の日が3日くらい続いて樹液が凍ってしまったんです。それも実を採ったすぐ後だったから、木が弱っているところに重ねてダメージを受けてしまったんでしょう。」

人間でいうところの免疫が下がっていたんだろう。人の身体も植物も意外と脆く、環境にも左右される。

そのなかで数本だけ残っている木がある。
「どうしてこの木は残ったんですか?」

「この木は昨年実りが悪くて収穫時期が周りの木より遅れたんです。だからその分パワーが残っていた。だから耐えられたんだと思います」

なんと数奇な運命だろうか。
そんなラッキーみかんが今年も成ろうとしている。

生き残ったラッキーみかん

みかん畑を満喫してそろそろこの場を去ろうかと考え始めた頃、みかんの向こうにまた違った木が生えていることに気づいた。

「あれ?むこうの木、みかんじゃないですよね。別の果物も植えているんですね!」

すると鈴木さんは一言
「あれはアーモンドです」

アーモンド!?あのビールのおつまみでいつも食べてるアーモンド!?
アーモンドって木なの!?

という戸惑いを隠しつつクールに問いかけた。

「どうしてまたアーモンドなんかを?」

鈴木さんは再び説明してくれた。どうやら私の心の動揺は隠せたみたい。よかった。

「アーモンドも少し実験的に作ってみようということになって。実はアーモンドは春になると花を咲かせるんですが、それが桜の花そっくりなんです。しかも桜みたいにすぐ散らない。

ここは車もよく通る道沿いだから、ここを通る人がアーモンドの花を見て少しでも楽しい気分になってくれたら嬉しいなと思って。

自分たちのことだけではなく他の人のことも思いながら楽しく農業をしている。そんなふたりの姿がなんだか羨ましく思えた。
しかもスーパーでよく買う大好きなアーモンドはほとんどがアメリカ産。恐らく大量生産の過程で多くの農薬、防腐剤が散布されているだろう。
鈴木さんのように炭循(たんじゅん)農法に取り組んでいる方がアーモンドを育ててくれていること、なんだか嬉しく思えた。

アーモンドの木

「アーモンドが咲く頃にまた遊びにきます!」

「桜が咲く頃に」みたいなセリフはよくあるけど「アーモンドが咲く頃に」は初めて言ったなと思って少し恥ずかしくなった。

「ぜひ来てください」と言ってくれたので少し救われた。

「さて、じゃあうちで休憩しますか。コーヒーでも飲みましょう。」
と誘ってくれたのでご自宅へお邪魔することにした。

次回、佐那河内編 最終回   つづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?