見出し画像

良い酒造りも米づくりも人の輪から|私と麒麟山:奥阿賀酒米研究会 伊藤郡一さん編 前編

麒麟山酒造の“米づくりから酒づくりまで”の過程に携わっている方々にインタビューする「私と麒麟山」。第5回目は、奥阿賀酒米研究会の伊藤郡一さんにお話を伺いました。

はじめまして、たまと申します。
この夏(2023年9月)、阿賀町にある公営塾「黎明学舎」にインターンとしてお邪魔しまして、事務局長の西田さんの誘いで「米づくり大学」の取材に同行させていただき、酒米研究会の会長を務める伊藤群一さんにお話を伺いました。

伊藤郡一さんと田んぼを見る

消防署長から百姓へ

――郡一さんが、酒米研究会の会長になられた経緯を教えてください。

高校卒業後、茨城の農協で5年、新潟のガソリンスタンドで3年ほど働き、26歳で消防署に入りました。32年勤め、平成18年に58歳で退職後、親父の跡を継いで百姓になりました。酒米研究会の会長になったのはそのタイミングでしたね。「みんながフォローするから酒米研究会の会長やってくれ」と頼まれまして。

(インタビューに同席していた麒麟山酒造アグリ事業部伊藤部長から「群一さんは、消防署長までやったんだ」と教えていただきました。署長から会長へ、郡一さんの人望が伺えますね。)

――米づくりはいつから経験されていたんですか?

26歳で消防署に入ってから、親父の手伝いはしていましたが、本格的につくり始めたのは跡を継いでからですね。

――酒米をつくり始めて、どんな苦労がありましたか?

一番は鳥害(ちょうがい)ですね。「五百万石」も「たかね錦」も早生です。最初はつくっている人が近くにいないもんだから、狙い撃ちのようにスズメやヤマバトが食べてしまう。空が真っ黒になるくらい、2、300羽で来るんです。糸を張ったり、鳥が嫌がる音を出したりして対策しました。

――今、困っていることはありますか?

サルとイノシシによる獣害がひどいです。サルは、1坪ほどのところに稲の株を敷いて、その上に座って米を食べますし、イノシシは寝っ転がって泥遊びしちゃう。そうすると、米には独特の臭いがついて出荷できなくなります。電柵(電流を流してサル、イノシシの侵入を防ぐ装置)を設置しないと。イノシシは2段くらいでいいんだけど、サルは6段くらいまで高く電柵を張らないとダメ。サルは20年くらい前から、イノシシも2011年頃から被害が増えてきていますね。

イノシシ除けの電柵

集落に耕作放棄地がなく、田畑が整備されていること 

――酒米研究会も高齢化していると伺いました。

法人や団体を除いた農家の平均年齢は、69歳になっています。あと10年、続く人が何人いるか……。

――酒米研究会をやっていて印象に残っていることはありますか?

「阿賀野川流域フォーラム」で休耕田再生の機運が高まった時に、齋藤吉平会長が掛け米(こしいぶき)をつくってくれたら6000俵、麒麟山が買いましょうと言ってくださったことです。そこで、休耕田を復活させて掛け米をつくろうということになりました。 やる気が出ましたよね。

――田んぼをやっていて、よかったなと思う瞬間はありますか?

きちんと草刈りされた集落を見て、里山を残せていると実感するときですかね。耕作放棄地がないんです。自分の集落で田んぼを持つ家は12軒ありますが、田んぼをやっているのは5人くらい。「あなたは(会社等に)勤めて、わたしは田んぼを請け負うから」といったように、地域内で分業をしています。

――私が東京から阿賀町にきて印象的だったのは、町のあちこちに広がる黄金色の田んぼと、そのすぐ後ろに広がる緑の山々でした。農家が減少すると、この「日本昔ばなし」のような里山の風景も失われてしまう。観光地としての価値を守るためにも、農業の担い手を増やしていく必要がありそうですね。

若者が根付く地域にするには


――若い人の中でも「農業の力になりたい」という人が増えてきていると伺いました。

百姓側も「やってみたい」と感じてくれる若者に対して、協力してやろうっていう風にならないとね。

――若者が移住し、定着するには、どうしたらいいと思われますか?

土地の人が、入ってくる若者を支援することで定着してくれる方も出てくると思うんですよね。水路の泥上げや、お花見やお祭りといった機会に声をかけ、一緒に時間を過ごすとだんだん顔なじみになります。そうすれば、野菜を分け合ったり、イノシシや熊の肉を一緒に食べたりして関係性ができる。よそ者じゃなく、地域の一員としてまずは声を掛け、行事に誘う。そういうことを繰り返して関係をつくっていくことが大切ですね。

――田舎への移住を考える上で、地域の人に受け入れてもらえるかどうかは不安になります。郡一さんのように、地域の一員として声をかけてくれる方がいれば、安心して移住できそうですよね。山間部でしか味わえないジビエの数々も気になります。

インタビューに答える伊藤郡一さん(中央)。右は麒麟山酒造アグリ事業部 伊藤部長

(後編につづく)

いいなと思ったら応援しよう!