
よしおのつぶやき 猫と定年おじさんの日々
僕は猫です。
名前はちゃんとある。
よしお。5才と11ヶ月。あっ、もうすぐ6歳なんだ。
2017年5月1日(推定)生まれで、渋谷の動物病院で保護されてたけど、縁あって定年になったばかりのおじさん一家に引き取られた。
今日はそんな僕と定年後おじさんことえびさんとの日々を記したいと思う。
よしお、えびさんちへ
僕がまだ幼い頃、どこかでもう一匹の兄弟と一緒に拾われたらしい。気が付くと渋谷のとある動物病院で若いスタッフたちからエサをもらったり、遊んでもらったりしていた。

そんなある日、おじさんとおばさん、その娘らしい若い女子の三人で動物病院にやってきた。どうやら僕との面接だったらしい。僕はなんとなく愛想を振りまいた方がいいような気がして、若い女子の膝の上に乗ったりした。
「わぁ、かわいい。でもでかッ。」
「そうなんです。ちょっと太めで。でもまだ生後5か月くらいなんですよ。」と病院スタッフ。
僕はどうやら大きめの子猫だったらしい。

病院スタッフの言葉で3人は笑っていたが、すぐ声をひそめて何やら話しだした。でもそれも僅かな時間。おじさんの方が「この猫引き取ります」と言ってくれた。
そうしたら病院スタッフから以外が返答。「ありがとうございます。でもこの子出べそですよ。」
おいおい僕の悩みをばらさないでほしいよ、と一瞬ドキッとしたけど、おじさんは笑いながら「大丈夫ですよ。これも縁ですから」と言って意に返さなかった。
それから約1ヶ月後、今度はおじさんが一人でキャリーバッグを持ってやって来た。僕を引き取りに来たのだ。その間、僕は出べその手術、不妊手術、ワクチン接種などをしていた。
ここで動物病院の人たちとはお別れ。いつも遊んでくれてありがとう。また一緒に保護された兄弟ともお別れ。元気でな。
僕はキャリーバッグに入れられ、周りが見えないように囲われ、おじさんと一緒に電車に乗った。どこ行くんだろう?ちょっと不安で鳴いた。そうしたら近くで「あっ、猫ちゃん」という幼い声が聞こえた。

30分ほど電車に乗っただろうか、おじさんと一緒にある駅で降りた。そして今度は車に乗せられた。
声からどうやら車の運転をしているのはこの前来たおばさんのようだった。「結構重かったでしょ」なんておじさんに声を掛けていた。
よしおという名前になったわけ
10分ほどでおじさんちに着いた。
そこには先住猫が二匹いた。怖そうなおばあさん猫のみゅうさんと可愛いおばさん猫まるさん。これから彼女たちとの生活が始まる。まるさんから、いろいろ教えてもらった。ここの人たちはえびさん一家だそうだ。

夜になると若い女子が二人帰ってきた。
一人はこの前来た女子。もう一人はその女子の妹のようだ。
妹の方が僕を見るなり「えっ!?これで子猫なの?でかっ!」と驚いていた。
姉の方が、ねえねえ名前どうする?と言い出した。そうしたらえびさんが病院からもらった書類を見ながら「この子、病院ではヨシダって呼ばれたみたいだな」と言い出した。
僕にはヨシダって呼ばれた記憶はないけど、どうやら僕ら兄弟を保護した人の名前らしい。
「じゃ、ヨシダでいいんじゃない?」
「いやいやそれは可哀そう。」
「そうだ、よしおがいいよ!」
「ああ、よしお。なんかこの猫っぽくていいね」
という感じで僕はよしおという名前でえびさんちの一員になったのだった。

定年おじさんの一日
えびさんの朝は早かった。5時過ぎに起きて僕たちにエサをくれた。トイレ掃除をして、ブラッシングもしてくれた。僕らの世話が終わると、えびさんはパソコンに向ってなにやら作業を始めた。ヘッドホンで音楽を聴きながらなんか資料を調べながら、時々、うーんとか言いながら作業をしていた。
7時になると自分で朝食を作り、いつも8時なると「じゃ、よしお行ってくるね」と言って出て行った。
この一家、えびさんだけが早起きでおばさんや女子たちはえびさんが出て行ってから起きてきた。
えびさんの帰りは夜の8時から10時くらい。
僕は嬉しくてよく肩に飛び乗ったものだ。「わぁー、スーツが!」と困ったようにいうが顔は笑っている。そう、僕が何かやるとみんな笑っている。

夜はえびさんの布団に潜り込んだり、おばさんや女子たちの布団に入ったりと、これはこれで気を使っているのだ。特に冬になると僕の取り合いが始まる。
えびさんが家にいるようになった
僕がえびさんちに来て1年ほど経ったある日、えびさんが思い詰めてような表情をしていた。「よしお、会社辞めようと思うんだけど、どう思う?」
僕はどう返事していいかわからないので、じーとえびさんの顔を見ていたら、「わかったよ、もうちょっと続けてみるかな」と言って、僕の喉を撫でてくれた。
そんなことがあってから、結局、えびさんは、1年ほどで会社を辞めてしまった。
そして家にいることが多くなり、午後になるとアルバイトに行くようになった。
でもサラリーマンの時よりずっと僕と一緒にいる時間が増えたので、僕にも今まで以上に関心が来るようになった。
そう恐怖の“よしおダイエット作戦”が始まったのだ。
発端は、ある日僕の体重を測った妹女子が、「ぎゃー、よしお、6.5kgもあるー」と叫び、おばさんが「よしおには長生きして欲しいわ」と、えびさんを見ていうので、えびさんが「わ、わかったよ。俺が責任持って、よしおのダイエットやるよ」と答えた。
僕はダイエットをする気は全くなく、毎日美味しいものが食べられればいいのに、その日からは、ダイエット食になってしまった。
しかも、それまで適当にくれていた食事の量も、えびさんがちゃんと測ってくれるようになった。

しばらくは、エサの後もお腹が空いたが、そのうち慣れてきた。しかもダイエットエサも結構美味しかったし。
おかげで、1年後には5.5kgまで体重が減り、自分でも体が軽くなった感じで、えびさんが寝ているシステムベッドの上まで一気に駆けあがれるようにもなった。
でも相変わらず、口の悪い妹女子が、僕のことを「デブリアン」とか「でぶまんじゅう」なんて呼んでるけど。
飼い主のつぶやき
よしおの飼い主です。
よしおが、たまには僕のことも書いてよというので、出会った頃のことを中心に書いてみました。
猫との生活は、今年で25年目になります。よしおとはまだ5年ほどの付き合いですが、それでも書き始めたら軽く5000字を越えたので、適当にはしょりました。
猫との生活は、家族にとっても思わぬ効果がありました。我が家は結構ばらばらですが、猫のことになるとまとまることが出来たのです。今晩誰エサやるから、トイレ掃除誰やるとか、夫婦で僕の実家に帰省する時も東京にいる息子がエサやりに来たり、特に何も言わないのに協力体制がすぐできました。

養老孟司氏が、愛猫まるとの18年間の思い出を綴った本『まる ありがとう』があります。東京大学名誉教授の養老先生が、たかが猫でどんなことを書いているんだろうか、と思って読んでみると平易な文章に関わらず深い内容です。まるの存在が、養老先生の思索をより深めているように感じます。わかりやすい哲学書のようでもあります
面白いのが、まるだったらなんて言うだろうって、考えるところです。
自分の考えに行き詰ったら、〇〇さんだったらどう考えるだろう、どう動くだろう、と違う角度から考える手法があります。
それを養老先生ほどの教養人が、猫のまるだったらどう考えるだろう、というのが面白いです。
またまるとの付き合いから「自足」という考え方に至っています。自足とは「足る」ことを知るということです。
僕が養老先生の考え方に共感するのは、開発、再開発と言って、どんどん世界的に恵まれた自然を持つ日本を破壊してきたことです。目の前の利益を優先するあまり、昔から受け継いできた恵みをいとも簡単に手放しているのです。
つまり「自足」の考えがないのです。
最後に養老先生がこんなことを書いているので引用して終わりにします。
"今、猫がブームだそうだが、あまりにも居心地の悪い世界をつくってしまったから、どこかで「猫のように生きられたらいいな」と思う人が増えたからではないだろうか。
よく「老後が心配だ」という人がいるが、まるがしゃべったらこう言うに違いない。
「自分がいつ死ぬかも分からないのに、何を心配してんだよ」"

これでおしまいです。ここまで読んで頂きありがとうございました。