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#25. 鯖の味噌煮定食


お馴染みのファミレス


私には中学時代からの仲良し3人組がいて、年に一度は必ず集まる。話す内容といえば、毎回「今、何してる?」「どこ住んでる?」みたいな、初対面でもできる会話のオンパレード。それでも、久しぶりに会った彼女たちの変化に驚いたり、変わらない性格にホッとしたりして、なんだかんだで毎回楽しい時間を過ごしている。

そんな4人で集まる時、必ず行くのがいつものファミレス。お決まりコースだ。

みんなが「どれにしようかな〜」「これ美味しそうじゃない?」とメニューをめくっている間、私はすぐに「決まった!」と一言。「え、早くない?」「てか、いつも同じじゃん」なんてツッコミを受けるが、
そう、私の答えはいつだって一つ。鯖の味噌煮定食だ。

他の定食や期間限定メニューなんか、目にも入らない。ファミレスのドアを開けた瞬間、私の頭は鯖の味噌煮でいっぱいになる。これを食べずにどうする、くらいの勢いだ。


本当は・・・他も・・気になる。

でも、実際のところ、本当は他のも食べてみたい。だけど、もし他の料理を頼んで「やっぱり鯖の方が美味しかった…」なんて思ってしまったらどうしよう、とビクビクしている自分がいる。



そんな私に、3人のうちの1人が言った。

「鯖の味噌煮しか食べないなんて、人生損してるよ。もっといろんなの試してみなよ。苦手なものがあってもいいし、これは結構好きかもって発見があるかもよ。初めから手をつけないなんて、他の良さを知らないなんて、もったいないじゃん!」

むむ、確かにその通りかもしれない。いや、その通りだわ。

私はこのファミレスで失敗したくない一心で、10年以上も同じメニューしか食べたことがない。どれだけメニューが豊富でも、私が知っているのは鯖の味噌煮の良さだけ。他の可能性をまるで無視してきたのだ。

その友達が放ったひと言が心に刺さり、その日は、勇気を出して初めて鯖味噌以外のものを頼んだ。実は気になっていたまぐろたたき丼とおそばのセットを注文。ワクワクよりも、鯖を裏切ってしまったような何とも言えない罪悪感の方が大きくて、胸がザワつき始める。

鯖 VS マグロ


そして注文が通った途端、頭の中で奇妙な戦いが始まった。
マグロ vs 鯖のアニメーションが私の脳内で繰り広げられている。鯖が巨大な体でマグロにアタックし、マグロは華麗にかわして反撃の刺身カウンターを放つ。そのカウンターを受けて、鯖の目に涙がポロリ。

そんな意味不明な妄想に没頭していると、隣から「ねぇ、聞いてんの?」と友人の声でハッと我に返った。どうやら、私が鯖とマグロの壮絶なバトルに集中している間に、会話は進んでいたらしい。

そして、念願のまぐろさんが到着。食べてみると驚きの連続。まぐろたたき丼の美味しさに心が躍った。「やっぱり鯖にしとけばよかった…」という後悔は一切なかった。むしろ、私はずっとこんな美味しいものを見逃していたのかと衝撃を受けた。(鯖には申し訳ないけど)

選択肢を増やすことで、世界が広がる

友人が言った通り、私は「失敗したくない」という恐怖で選択肢を狭めていたのだ。だけど、ちょっと勇気を出せば、世界は一気に広がる。私の好きなものリストにも新しいメンバーが加わった。

あの日から、鯖の味噌煮もまぐろたたき丼も、私の大切な「好き」のひとつ。人生のメニューも、もっと広げてみようって思えるきっかけになった。

あの時友達がかけてくれた一言がなかったら、私はおそらく、ずっと鯖の味噌煮だけを選び続けて、広いメニューの世界を知らずに生きていただろう。

他のものを選んでもいい。
失敗してもいい。
それに気づけた瞬間、
私の世界は少しだけ広がった。

そして、ふと感じた。これまで私がこだわりすぎていたのは、鯖の味噌煮だけじゃなかった。人生そのものでも、失敗が怖くて、選択肢を狭めていたのかもしれない。たとえ「好き」や「安心感」にしがみついていたとしても、それだけでは新しい喜びや発見に気づけないこともある。

次は何を頼もうか。

期間限定メニューに手をつけようか、
和食じゃなくイタリアン系に挑んでみようか。
悩み始めながら、もうすでにワクワクしている。





                No.25


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