#58. いつの間にか
いつの間にか歳を重ねて、
いつの間にか憧れていた女の子と仲良くなっていた。
「いつか話しかけてみたい」とずっと思っていたけれど、勇気が出せなくて、遠くからその子の様子をチラ見するのが精一杯。(…ストーカー?)
クールで、笑顔が可愛いその子。
そんなある日、私が髪を染めた次の日に
「髪の毛染めた?めっちゃ似合うね!」と話しかけてくれた。
まさか彼女の方から声をかけてくれるなんて…!
しかも、褒めてくれるなんて!
どうする?!どう返事する私!?
頭の中はフル回転。
でも、いざ口を開くと、出た言葉はなぜか
「えっ!これはピスタチオベージュ!」
…聞かれてもいないのに、
無駄に色の詳細を答えてしまった。
ああ、絶対「変なやつ」だと思われた…
せっかくの初会話だったのに…
と、心の中で自己嫌悪のスパイラルに陥りかけた私を、彼女は笑いながら「うん、聞いてないけどね」と優しくツッコんでくれた。
なんて優しい世界…
やっぱりこの子、好きだな。
そこから、私たちは自然に仲良くなっていき、気づけば毎日のように一緒にいるようになった。
そして、彼女は美容師になった。
美容師になった彼女は、以前にも増してカッコよくて、綺麗なお姉さんって感じ。
ますます「憧れ」の存在に。
私も「ちょっとでも近づけたら…」なんて思って、ある日それっぽく振る舞ってみたら、「なんか今日、具合悪そうだよ?体調大丈夫?」と真剣に心配されてしまった。はい、即終了。
その時、ふと思った。
憧れの人のように完璧に振る舞えない自分が、どこか恥ずかしかった。
けれど、それって悪いことなんだろうか?
彼女に似合うものが私に似合うとは限らないし、彼女が持っているものをそのまま真似しても、自分らしさが失われるだけなのかもしれない。
憧れって、完璧な理想のように思えるけれど、
実は誰もが心の中に抱いているもので、
彼女だって、自分のことを完璧だなんて思っていないのかもしれない。
誰かを憧れに感じるのは、
その人の中に自分が持っていないものが見えるから。
そしてそのおかげで、自分を見つめ直す機会が増えたり、自分らしさ、みたいなものが見えてくる。
結局のところ、私にとっての「憧れの彼女」は、私が私のままでいられる存在でもあった。背伸びすることなく、自分らしく笑える場所をくれた彼女。そのおかげで、少しずつ自分を愛せるようになり、今では私にとってかけがえのない友人となった。
いつの間にか、という言葉でしか表せないほど、彼女との時間は楽しくて、ふと振り返るとその一瞬一瞬が心に深く刻まれているのがわかる。
彼女と過ごした日々のおかげで、私は今も新しい自分に出会い続けている。
お互いに影響し合い、成長し合える関係。
それがどれほど素晴らしくってありがたい事なのか。
彼女の存在があって初めて、学ぶことができた気がしている。
また近々、美容室に行く予約を入れよう。
髪を染めれることよりも、
彼女にまた会える事を楽しみにしながら。