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湊かなえ「サファイア」-その2-|読書のすすめ
お世話になっております、こめこむぎ。です。
前回の記事では、湊かなえさんの短編小説「サファイア」の概要と、表題作の「サファイア」について解説させていただきました。
今回は、その後の話について綴られている続編「ガーネット」の内容について、紹介させていただきたく思います。
「サファイア」は、幸せになれるはずだったのに、残酷な運命が待ち受けており、とても切なく悲しい終わり方となっていました。
「ガーネット」では、主人公の紺野真美の10年後の姿が描かれています。
人生で初めて心を開いた最愛の恋人・中瀬修一が亡くなってから、彼女はどのような人生を送るのか、過去とどのように向き合うのかに注目して、読んでほしい物語となっています。
小説の紹介、前作「サファイア」のあらすじと解説はこちらから👇
※前回と同様に、物語の結末まで書いているので、知りたくない方はご遠慮くださいますよう、よろしくお願いします。
「ガーネット」-あらすじ-
ある小説が世間で話題になっており、ネット上の口コミサイトではその感想について、読者からの書き込みが寄せられていました。
ところが、ここ最近は悪評が目立つようになり、中には作者の名前を出して人間性を批判するようなコメントが書かれていました。
ネットに書かれた小説の作者の名前は、 —―—「紺野マミ」。
そして、その悪評ばかりの口コミを三日に一度ほど検索している人物がいました。それは、この小説の作者である紺野真美、本人でした。
彼女は作家となっており、デビュー作である長編小説「墓標」は、発行部数が三十万部を突破するほど、大きな話題を呼んでいたのです。
最愛の人を失った女の復讐劇を描いた作品で、その結末が賛否両論をもたらしており、少しずつ数字を伸ばしていました。
真美の編集者からは「ネットは見るな」と言われるものの、彼女は悪評を読んで傷付いたり落ち込んだりすることはなく、ある目的のために自分の作品の感想を検索しているのでした。
本を読んだ人たちの、自分の中に留まる声を、捜しているのでした。
「墓標」は来年の春に映画化されることが決まっており、ファッション誌のインタビューで、その主演を務める麻生雪美という女優との対談が来週に迫っていました。
編集者からそれに関するメールが届き、その内容には「自分の人生を変えた品」「これだけは手放せない品」を一つずつ持ってくるように、との連絡が書かれていました。
自分の人生を変えた品。
真美にとっては考えるまでもなく、右手の薬指にある指輪です。
二十歳のときに最愛の恋人・中瀬修一が用意してくれたプレゼントで、生まれて初めて自分からおねだりした品です。
しかし、それがきっかけで修一は帰らぬ人となってしまい、真美は十年経った今でも、その過去を乗り越えられずにいました。
*****
ここからは過去の回想となり、時は修一が亡くなった直後に遡ります。
その時の彼女は、彼のいない現実を受け入れることができず、彼が存在する夢の世界に居続けたいと、睡眠薬を大量に飲んで自殺を図ったことが、一度だけありました。
しかし、アパートの隣人であるタナカに発見され、未遂に終わります。
修一が亡くなることとなった原因は、悪質商法のアルバイトに関わってしまったことにあり、それを紹介したのがタナカでした。
真美はタナカのことを許すことができずにおり、それなのに彼のもとへ行くことまでも邪魔をされたと、病室のベッドでこう叫んだのです。
「彼を返してくれないなら、もう二度と、わたしに関わるな!」
それ以来、タナカの姿を見ることはなく、退院した後、彼が住んでいた部屋は空室となっていました。
真美の部屋のドアには、「生きろ」とだけ書かれた山の写真が貼ってありました。
ただ、真美が今も生きているのはそのメッセージを受け止めたからではなく、三日間も意識を失っていたにも関わらず、夢の中に修一が一度も現れなかったからです。
自ら死を選ぼうとしたから、こちらからは会いにいけないのか。
死んでも彼には会えないのだと悟った夜、夢に出てきてくれたのです。
修一は酷く辛そうな顔で自分を見ており、心配しているようでした。
大丈夫、もう馬鹿なことはしない、そう笑顔で伝えると、彼も笑顔を返してくれました。それが夢の世界で初めて見る、修一の笑顔でした。
再び生きる決心をした彼女は、その後も大学に通って単位を取り、就職活動を行って、不況だった中で、地方の小さな食品加工会社から内定を得ることができました。
内定通知書を受け取った日の夜、夢の中でもそれを手に持っており、修一に差し出すと、彼は嬉しそうに受け取り、頭を撫でてくれました。
*****
入社して最初の仕事は、単純作業が主でしたが、真美にとって嫌いではありませんでした。心を空っぽにしたままでいられるからです。
しかし、仕事は一人でしているわけではないため、常に自分の世界に籠っていられるわけではありませんでした。
一緒に働く他の従業員たちは全員女性で、作業中はただ黙々と手を動かしているだけでしたが、それ以外の休憩中や仕事終わりの場面では、女ならではの嫉妬や羨望というものが飛び交う環境だったのです。
ある時、恋人にもらったペンダントを自慢した女性がそれを盗まれ、その場で判明した犯人の女性は認めたものの、明日から来ないと言って現場を去っていく、という出来事がありました。
そのような女を見ると、真美は心の中で「彼を殺したのは、こういう女なのだろう」と考え、恨みとも憎しみとも言えるような、黒く濁った思いに支配されてしまうのです。
一度そのような感情が頭の中に広がってしまうと、なかなか取り除くことができず、しかもその間は彼が夢に出てくることもありません。彼に会えない寂しさで、今度は自身から黒い思いが湧き上がってきてしまい、どうしようもない負のスパイラルに苦しめられることになります。
ただ、生産ラインで心を無にして作業しているうちにだんだんと濁りは浄化され、きれいになると彼が現れてくれました。しかしその幸せも束の間で、真美の心を黒く濁らせる女は定期的に現れるのでした。
*****
三年が経過して、真美は広報部に異動となり、CMの制作を担当することになります。ある事情から、社内公募で新しいCMの企画をすることになり、義務感のつもりで作った真美の企画書が採用されたのです。
まさか選ばれるとは思っておらず、頭を抱えたい気持ちだった真美ですが、その夜の夢には修一が現れて、頭を撫でてもらうことができました。
真美が企画したCMは、自身の評価とは裏腹に好評を博して、全国から注文を受けるようになり、社内で表彰されることになったのです。
夢の中で修一に賞状を渡すと、中が真っ白の革表紙の本を手渡されます。
翌日、どこか胸騒ぎがして書店に行ってみると、それとよく似た本が置かれていて、「あなたが作る世界でたった一つの本」と書かれており、迷わず買うことにします。ついでに「新人賞受賞作」という帯がつけられた文庫本も手に取ります。
子どもの頃から本を読むのが好きだった真美ですが、修一が亡くなってからは、一冊も読んでおらず、音楽を聴くことも、映画を観ることもありませんでした。
ようやく、心に余裕を持てるようになったということか、と感じます。
しかし、そのようにして何年がぶりに手にした本は、真美にとって恐ろしくつまらないものでした。愛という言葉を軽々しく使って、感動を呼ぼうとしている内容に怒りを覚え、自分でもこれ以上のものが書けるのではないかと思ったのです。
そんな気持ちから原稿用紙に向かい、かつて一人旅に出かけたとき、初めて修一と出会ったときの景色を思い出しながら、短編小説を書きます。
無鉄砲とは思いながらも、とある文学系の新人賞に応募してみると、入選して文芸誌に掲載されたのです。
夢の中で、修一にその文芸誌を手渡すと、抱きしめて背中をトントンと叩いてくれました。「よくがんばったね」と褒めてくれているようでした。
しかし、出版社から次回作を期待されることも特になく、また真美本人も彼に褒められたことで十分に満足していました。
仕事も順調で、成功したCMも登場人物の設定を変えるだけでよくなり、落ち着いた日々が続いていたものの、彼は夢に出てこなくなります。
そして、再び真美の心を蝕むような出来事が襲い始めます。しかも今度は、真美自身が攻撃されるようになってしまいます。
CMで成功し、社内で少し目立っていたことに加え、小説で受賞したことが広まって騒ぎになったことで、反感を買う原因となってしまったのです。
仕事に支障が出るような嫌がらせを受けるようになり、誰が犯人か感づいていたものの、直接文句を言うことも憚られたため、精神を平穏な状態に戻すのにかなり時間が掛かってしまいました。
ようやく彼と夢で出会えたのは受賞してから一年後でしたが、以前のように褒められることはなく、寂しそうに笑うだけでした。
真美は目が覚めた後、自分が情けなく思えてしまい、あの小説を書いて以来自分は何も成長していない、胸を張って彼に報告できることが何もないことに気付き、また小説を書くことを改めて心に誓います。
ところがそんな矢先、指輪を盗まれる事件が起こってしまいます。
この時こそは、面と向かって今まで嫌がらせをしてきた先輩に、指輪を返すように言い放ちます。
警察を呼ぶと脅すと、先輩はふてくされた様子で床に指輪を投げ、そのうえ真美を侮辱する発言をしたので、思わず殴りかかろうとしますが、面倒見の良いパートの女性が仲裁に入ったことで事態は収まります。
しかし直後、同じ先輩によって階段から突き落とされてしまい、ついに黒いの負の感情が真美の中で爆発するのです。
その感情をエネルギーに、原稿用紙ではなく以前購入した白地の本に向かい、人間の醜さを書いて、書きなぐって、ある一つの小説を書き上げます。
それが、後に話題となる「墓標」の誕生だったのです。
書いた作品をそのまま出版社に送り付けたところ、編集者から興奮した様子で電話が来て、「一つの本として正式に刊行したい」という申し出を受け、もちろん真美はその場で承諾します。
夢に出てきてくれた修一に、文字で埋め尽くされたその本を手渡すと、また頭を撫でてくれ、抱きしめてもらうことができました。
それから半年後に、初版で八千部という、新人のデビュー作としては滅多にない数字をたたき出し、近所の書店にも平積みされるようになります。
自分や修一とどこかですれちがった人々も読んでいるかもしれない、そして修一の命を奪った女もその一人かもしれないと、真美は思うのです。
*****
ここで、時は現在に戻ります。
そのような経緯から作家となった真美は、女優との対談の日を迎えます。
未だにすっぴんで過ごす真美もこの日はプロのメイクを施され、編集者から「普段もきれいにすればいいのに」と揶揄されながらも、かつて修一が化粧をしなくていいと言ってくれたことを思い返します。
編集者が自分の恋人の好きな部分について話すのを聞きながら、ふと真美は修一が自分のどこを好きになってくれたのか疑問に感じます。
こんなに重要なことをどうして今まで考えずにいたのか、どうして彼が生きているうちに訊かなかったのだろうと、後悔します。
今となっては、もう知ることはできないのだと。
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いよいよインタビュー本番が始まり、真美は目の前で見る女優の麻生雪美の美しさに圧倒されます。
ライターのスミダさんの進行のもとで、最初に「自分の人生を変えた品」を出すことになります。
真美は「墓標」が10万部を突破した記念として出版社から贈られた万年筆を出し、昨夜から用意していた答えを話しますが、ふと麻生雪美が真美の右手の指輪に視線を落として、人生を変えてくれなかったのかと尋ねます。
その問いに対し、真美は「人生そのものだ」と潔く答えるのです。
真美の答えを聞いて、麻生雪美は満足そうに微笑むと、「自分も本命の方を出す」と言って、ある指輪を見せるのでした。
いくらに見えるかと尋ねられ、それほど高価そうに見えないデザインの指輪を前に、スミダさんと真美はそれぞれ、10万円、1万円と答えるのですが、「正解は59万円だ」と聞かされ、二人は驚きを隠せません。
中途半端な金額な上、どこかで聞いた憶えのある数字に、真美は嫌な予感が込み上げます。
麻生雪美は「これは悪質商法で買わされたものだ」と言って、その指輪について語り始めるのです。
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麻生雪美は女優としてデビューする以前、一般のOLとして働いていました。休日に出かけた時、とある青年に声を掛けられ、「アクセサリーに関するアンケートに答えてほしい」と言われます。
勧誘をしてきた青年は、感じが良くて誠実そうな印象でした。
彼女は当時自分に自信がなく、自分はどんなものが好きなのか、本当の自分の姿がわからないことに、悩みを抱いていました。
アンケートに答えながら、その青年との会話を重ねる中で、彼が自分の思いに共感してくれることを嬉しく感じたのです。
青年から勧められた指輪はオーダーメイドで、その人本来の美しさを分析してデザインを施し、職人が丹精込めて作るというもので、麻生雪美は青年に好印象を抱いたこと、そして本来の自分の美しさを知りたいという思いから、その59万円の指輪の購入を決めたのでした。
話の内容から、真美は麻生雪美に声を掛けた青年がタナカだったのではないか、と想像します。
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指輪のエピソードを聞いて、スミダさんから効果はあったのかと尋ねられると、「そんなわけはない」とはっきり否定します。
どんな自分になれるのか期待し、心待ちにしていたにもかかわらず、実際に届いた指輪を見て、その思いを裏切られた気分になり、とても悔しかったと語ります。
ただ、「一番悔しかったのは、この指輪が当時の自分によく似合っていたことだ」と言い、なりたくない自分の姿がわかったために、その反対を目指した結果、今の自分がいるのだと、女優になったいきさつを明かしたのです。
その話を聞いていた真美は、いつの間にか自分が涙を流していたことに気が付きます。
指輪を買ったことで幸せになった麻生雪美の姿を見て、修一から指輪を買った女性もそうであったらいい。彼女に指輪を勧めたのが、彼だったらいいのに、と複雑な感情を抱きます。
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最後に「これだけは手放せない品」を紹介することになります。
真美は、いつも使っているカバンを出します。
実はこれは、修一の誕生日にオーダーメイドで作ってもらいプレゼントしたもので、「一生これを使うよ」と喜んでもらった思い出がありました。
彼が亡くなった後に形見として受け取り、使い続けていました。
自分のものではないが、使い勝手が良く、借りたままでいると説明します。
麻生雪美をカバンを見て、センスが良いと絶賛し、カバンの持ち主はサファイアの指輪をくれた人なのだろう、という質問に、真美はただ頷くことしかできません。
一方、麻生雪美が紹介したのは外国の山の写真が印刷されてあるポストカードです。「山に登ったときだけ、送ってくれる人がいる」と話し、真美たちは裏に書かれているメッセージを見せてもらいます。
そこには、「ガーネット」という言葉が入ったメッセージが書かれており、最後に「T」とだけ記されていました。
差出人は書かれていないものの、山の風景と見覚えのある字から、送り主はタナカではないかと予想します。
いつ自分のことを書いてくれるのか、悶々とした様子を見せる麻生雪美に、真美は「ラブレターではないか」という言葉を発します。
麻生雪美の指輪に使われている宝石がガーネットであり、アンケートにみずがめ座と回答していたことから、誕生日は1月ではないかと指摘します。
「そうだったらいいのに」と、彼女は寂しそうに笑います。
彼女の表情からタナカに想いを寄せていること、そしてタナカも同じであることを見抜いた真美は、タナカが麻生雪美と距離を取ったままでいるのは、修一をアルバイトに誘ったことを今でも後悔しているからだと考えます。
インタビューも終了の時間となり、最後に真美は麻生雪美に対して、「ポストカードの送り主と幸せになってください」と伝えるのでした。
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少し時は過ぎ、対談インタビューの記事が掲載された後のことです。
「ファンより」とだけ書かれた手紙が出版社経由で真美宛に届いたのです。最初は開封を少しためらったものの、自分の手で開封することにします。
書き手は掲載誌の読者からで、内容はこのようなものでした。
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その人は自身もかつて、麻生雪美と同様の手口で指輪を購入した経験があると説明します。当時は今の自分から抜け出したいと思っていたことと、その時に声を掛けてきた人から勧誘を受ける中で、自分の恋人の話を聞かされたと言います。
「一本の口紅をプレゼントしたことで、見違えるようにきれいになった」と最初に話し、その上で「彼女を好きになったのに外見は関係ない」とはっきり言いました。
彼女を通して見える世界が好きだということ、同じ景色を見ていても、自分一人では気付くことのできない、世界の向こう側を教えてくれる存在なのだと、言ったのです。
その話を聞いて指輪を買うことにした書き手の女性は、ものの見方を変える意識を持ち始め、その結果些細なことでも物事の良い面に気が付くようになり、世界が少しずつ変わって見えるようになった、と語ります。
おかげで今は結婚して幸せな家庭を持つことができ、その時の指輪は自分にとって「人生を変えた品」であると言います。
さらに書き手の女性は、真美のカバンの話に触れます。
雑誌に載っていた写真のカバンが、指輪の勧誘の人が持っていたものと同じだと言うのです。
オーダーメイドには少し抵抗がある、と不安を見せた際に、そのカバンのことを教えてもらい、背中を押されたそうです。
カバンのエピソードから書き手の女性は、勧誘の男性が話していた恋人が紺野真美なのではないかと思い、初めて「墓標」と読むことにします。
一晩で読み切ったその小説は、怖くて、気持ち悪い感覚になった、と語ると同時に、それは物語の中に昔の嫌いな自分がいたからだと話します。
しかし、その感覚を浄化してくれるような穏やかな気持ちにもなり、変わることができてよかったと心から感じ、いつもの日常もたまらなく幸せに思えるようになったのだと語ります。
これが紺野マミという作家を通して見える世界なのだ、と。
手紙の終わりの方で、真美に作家になることを勧めたのはカバンの持ち主なのかと質問し、自分が変わるきっかけを与えてくれた人と、世界の向こう側を見せてくれた真美に、感謝を伝えたくて手紙を書いたことを明かします。
そして、真美の今後を応援する言葉で締めくくられていました。
*****
手紙を読み終えた後、作家になってから今まで自分の心に留まる声を捜していた真美は、「ようやく出会うことができた」という思いを胸にします。
その夜、夢の中に出てきた修一に、抱えていたカバンを手渡します。
光が溢れる世界の中で、彼はそれを肩から掛けると、真美の頭を撫で、強く抱きしめて、にっこりと微笑み、消えていきました。
真美は、もう夢の中で彼に会うことはないのだと悟りながら、それでも新しく書いた本をカバンの中に入れておけば、読んでもらえると思うのでした。
「ガーネット」-感想-
「サファイア」の悲しい終わり方から喪失感は消えず、さらに恨みと憎しみは膨らみ続け、まったく予想の出来ない展開と結末が待ち受けていました。
数年の時を経て事態は動きだし、さまざまな疑問が解き明かされることとなります。
人生の中でいつ、どのような形で誰と出会うのか、想像などできない。
きっと、何度か夢に出てきた修一は、真美に過去を乗り越えて、自分の力で幸せになってほしいと願い、彼女の背中を押し続けていたのでしょう。
真美に作家になるきっかけを与え、努力をして結果を出したときはちゃんと褒める、一方で現状に甘んじ何も変わっていない時は寂しそうに笑うだけだったことから、真美の才能を信じて、これから違う世界があることを教えているようでした。
またタナカから指輪を買った麻生雪美の話を聞いて、彼を縛っている後悔と真摯な想いを知り、心から幸せになってほしいと願っています。
誰かの幸せを願えるようになった場面が、すごく感動的です。
そして最後にファンから届いた手紙によって、真美がずっと背負ってきた過去への執着、経験してきた苦しみ、作家になるまでの努力が、そのすべてが報われる形となりました。
修一の話を聞いて指輪を買った女性が今とても幸せに暮らしていること、そして修一が自分を好きになった理由を初めて知ることもできました。
真美は、修一と出会うことができてよかった、努力して作家になって本当によかったと思います。
そして、真美が書いた作品によって誰かの心を動かすことができ、自分自身の存在に大きな価値があることも自覚できたのではないかと思います。
過去の思い出に別れを告げ、前を向いてこれからの人生を歩むであろう真美は、もう二度と夢の中で修一に会うことはないのでしょう。
それはとても切ないことで、この先また壁にぶつかって、辛い思いをするかもしれません。でも、今の真美はもう彼の存在がなくても生きていける強さを手に入れたので、幸せを掴むことだと思います。
まとめ📖
「サファイア」「ガーネット」の2作品を通して、人生における出会いと別れは、時には突然で、時には切なく、そして温かいものであること。
思いがけない出会いによって、大きく価値観や人生が変わることから、それはとても不思議で大切なものなのだと、考えさせられる作品でした。
私も、これからの人生がどう進んでいくのか、どんな人と出会うのかは全くわかりません。
でも自分を好きになる努力をして、自分の価値を知った上で、自分が信じた道を歩いていける人になりたいと感じています。
自分に関わる他人や物事に対しても、良い面を見つける目と、思いやることができる心を持っていたいです。
今後辛いことがあったとしても、頑張っていればいつかは幸せになれる。
そんな希望を感じさせてくれる、湊かなえさんの作品でした。
美しい宝石が不思議な出会いをもたらし、時には人生を変える。
宝石の名前があしらわれた、綺麗なタイトルが興味を惹きつける短編集。
「サファイア」―— 忘れられない一冊になりました。