見出し画像

「ラジオといるじかん」Vol.8 平日休みに聴くラジオ

絵はんこ作家でエッセイストとしても活躍するあまのさくやさんの連載企画「ラジオといるじかん」の第8回。今回は、裏方さんがラジオの向こう側を紹介するという、岩手のローカルラジオ局、IBCの『おしゃべり技術くん』のお話から。ラジオ好きには興味津々な番組です。また、radikoのタイムフリー聴取を活用できる昨今ですが、平日休みの日に生で楽しむラジオの愉楽についても語っています。 

 平日に休みをとった。通常、自分が出勤しているべき時間に家にいるというのはなんとも言えないうれしさと、背徳感がある。そんな日は、朝からラジオを聴きたい。勤め仕事についている今はなかなかラジオをつけっぱなしというわけにいかず、最近はタイムフリーで好きな番組をさかのぼって聴くのが当たり前になりつつある。だからこそ平日の日中にリアルタイムで聴くラジオに特別感を感じるようになった。

 最近の朝のおともである『パンサー向井の#ふらっと』(TBSラジオ)を、今日はリアルタイムで聴ける!と喜び勇んでいつもより贅沢な朝食を用意して、パジャマのままのんびり聴く。ああ、みなさんはきちんと着替えて出勤しているというのに、なんだか私だけすみませんねと、海辺のホテルでモーニングしてるくらいの優越感には浸れる。

『#ふらっと』の放送が終わり、今日はなんとなく、今私が住んでいる岩手のローカルラジオを聴きたい気分になり、IBCラジオを聴くことにした。

 お昼休み最後の時間帯に放送していたのは、『おしゃべり技術くん』(IBC岩手放送 木曜12:45~13:00)。この番組は、実は私が初めて岩手で聴いたラジオ番組だ。忘れもしない、移住前に岩手を訪れたとき、ホテルで「岩手ではどんなラジオがやっているのだろう」と辿っていた時に見つけ、タイトルが気になりすぎて思わずクリックした。番組のゲストはIBCの技術系スタッフさんで、長谷川アナウンサーのナビゲートで進行されていく「ラジオやテレビの放送技術の裏話を紹介する」番組。サムネイルがゆるいドット絵であるところもちょっと推せる。

 この日の放送では、「radikoの機能にオンエア曲が表示される機能が追加されている。曲が流れるとどうやって楽曲名が反映される仕組みですか?」というリスナーからの質問を紹介。それに対しては「第二スタジオのスタッフの方が手打ちしてます」という驚きの回答にちょっと笑ってしまった。AM局でも対応している局が限られているのはそういう手間の問題のようだ。時代とともに進化しているラジオの裏側で、ぽちぽちと入力する若手スタッフの姿を想像してみる。今後radiko画面を見る目が変わりそうだ。

「正しい業界用語講座」という由緒正しきコーナーもある。今回の用語は、「巻きでお願いします」。AIのような話し方で長谷川アナが読み上げていく。

「これは、急いで番組を進めてくださいという意味です。スタッフが出演者にジェスチャーなどで伝えます。その動作は人差し指を立てて手首をくるくるまわすので、とんぼをつかまえるときの動きに似ています。少し急いで欲しい時はゆっくり回しますが、本当に切羽詰まっている時は手首を回すスピードが速くなりスタッフの顔も必死になります。日常でも放送でも時間を守ることは大切ですね」

(『おしゃべり技術くん』2023年10月5日放送より)

 この番組のとても心地よいところは、マニアックな話で突き放すことなく、淡々としたユーモアがあるところ。IBCラジオは岩手県内のラジオ局の中で常に全放送時間帯トップの聴取率を誇るという放送局。木曜の午後12:45という時間は、公務員や会社員などきっちりとしたお昼休みをとる職種の人や、朝の早い農家の方にとっても、お昼がてらお昼寝するようなリラックスタイム。好きな人は聴き込むだろうし、リラックスモードの人にとっても「今の話なんかちょっと面白かったな」くらいの聴きやすい情報量。

 Podcastなどで過去回を聴き返せるアーカイブは見当たらず、毎週更新されているtwitter(X)で放送内容をさかのぼってみた。すると「廃車寸前だったIBCのテレビ中継車を買い取ってくれた企業の担当者に、中古中継車の活用法を聞いた」とか、「IBC社屋の上に建っている鉄塔に付けられたパラボラアンテナはどこに向けてなんの電波を出しているのか。実際にてっぺんまで登って確かめた」、「放送局が番組をお休みする「放送休止時間」、月曜午前1時から4時に生でリクエスト曲を募集する試み」など。長谷川アナがかなり体を張っていることがわかった。すごいぞ長谷川アナ。がんばれ長谷川アナ。

 放送休止時間の放送は、自らしゃべり、レコード室へCDを捜索しに行き、放送後の返却作業など含めすべてワンオペで行ったという。リクエストは事前募集せず、リアルタイムで放送を聴いている人のみだったというその設定がもうラジオ好きとしては祭り感を感じて燃えてしまう。楽しかっただろうなぁ。岩手に移住して以来、岩手県民はみんな早寝早起きなのではないかという偏見を抱いている夜型人間の私は、この祭りに参加した方たちとちょっとお友達になりたいなと思った。レポ記事によると「メールやウェブサイトからの書き込みは合計270件寄せられ、7割は岩手県外からだった」とのことだったけれど、この3割の岩手県民とは、どうやったら出会えるのでしょう。

 ここ数年は、ラジオもテレビも「裏方」ブームだし、もれなくそういう話は好きだ。もはやまったく裏方とは呼べない出役となっている佐久間宣行さんのラジオを筆頭に、プロデューサーやディレクター、放送作家など演者と極めて近いところにいる、スタッフサイドの裏話を聞ける番組も増えてきた。たとえばAudeeというプラットフォームで聴ける『向井と裏方』では人気ラジオ番組の裏方さんとパンサー向井さんが話す贅沢コンテンツで大好きな番組だった(現在は終了しているが、アーカイブは無料で聴取可能)。

『おしゃべり技術くん』は、本当に本当の裏方の方とのトークだ。ゲストの技術系スタッフさんのおしゃべりも達者というわけでもなく、危うく放送事故かというくらい間があくスリリングな瞬間もある(でも長谷川アナがいるから大丈夫)。スタッフルームのような会話の味わいも良き。「○○市でラジオが聞こえにくいのは電波のせい?」「この間、IBCに落雷ありましたよね?」など、リスナーからのご近所感ある素朴な疑問にも応えてくれるところも推せる。専門的でニッチな話を聴く視点ならばPodcastで1時間番組になるだろう。だけどIBCラジオのお昼に15分のローカル放送で流れている親しみやすさとマニアックな話題のギリギリのバランスがこの番組の魅力だなと思う。

 平日の慌ただしい時間帯だったら聴き逃してしまいそうな話に耳を止めてしまうのも休みの日ならでは。俳句番組『夏井いつきの一句一遊』(南海放送 ※IBCでも放送中)でふと聞こえてきたおたよりに耳が釘付けになった。

「私の娘はいま3歳。毎日朝起きた時、夕方のお昼寝から起きた時、夜眠る前の時間帯に大好きな友達と出会うらしいんです。その友達とは、眠気です。娘は眠気のことを「ねむいさん」とよんでいて、とても仲良くしているというのです。「今どこにいるの?」と聞いたりすると、「今はあんよのところ」とか「めんめのところにきたから悲しくなっちゃう」とかそんなふうにいうので、ねむいさんってどんなの?と聞くと
 
「まんまるまんげつなの よるのねむいさん」
 
「娘にとって、夜の眠気は満月なのです。ちなみに朝起きるときのねむいさんはお星様で、夕方のお昼寝から起きる時のねむいさんは線香花火だそうです。ずっとずっとねむいさんと仲良く暮らしてほしいと願う父でした。」

(『夏井いつきの一句一遊』 2023年10月5日放送より ラジオネーム:TV12さん)

 ねむいさんが、今あんよにきているという感覚。言われてみたら、少しわからなくもない。近づいてきているけど、足元で一緒に戯れながら、絵本でも読んでいるのかな。でもめんめまでくるともう少しでお別れになるから、悲しくなっちゃうのか。寝たくないのに寝させられちゃう、ねむいさんは敵!とならずに、彼女とねむいさんは楽しく遊んで、そろそろねというころにめんめにくる。ねむいさんと仲良くなれるかどうかが、人生の明暗を分けるのではという気すらしてきた。

 休日は、もっぱらねむいさんと仲良しの私。お昼を食べ終わった後、出かけようか、家でダラダラしていてもいいなと迷った結果、車で15分のところにある近所の温泉に出掛け、マッサージを受け、温泉とサウナを堪能した。


 結論。「平日に休みとると人生の豊かさに気がつける」。現場の岩手県からは以上です。

(ラジオを聴きながらはんこを彫っている時間が一番好き)

文・イラスト:あまのさくや

【著者プロフィール】
あまのさくや

絵はんこ作家、エッセイスト。チェコ親善アンバサダー。カリフォルニア生まれ、東京育ち。現在は岩手県・紫波町に移住。「ZINEづくり部」を発足し、自分にしか作れないものを創作し続ける楽しさを伝えるワークショップも行う。著書に『32歳。いきなり介護がやってきたー時をかける認知症の父と、がんの母と』(佼成出版社)、『チェコに学ぶ「作る」の魔力』(かもがわ出版)ほか。
SNSは、Twitterアカウント(@sakuhanjyo)、Instagram(https://www.instagram.com/sakuhanjyo/)、また、noteで自身のマガジンも展開中。


いいなと思ったら応援しよう!