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樹海ミステリー 生を紡ぐ森と生を終える者 第一話

【第一話:前編】

樹海探索歴10年を超える著者による連載「樹海ミステリー 生を紡ぐ森と生を終える者」。
令和の『富士の樹海(青木ヶ原樹海)』の現実とは?
 
“ドス黒く変色した肌は、まるで人間ではないなにかに姿を変えていくようだった”
“死後まもなく死体は腐敗しはじめ、無数の蝿が体を覆っていく”
そのような死体を目の当たりにした正直な意見をいわせてもらおう
「ここは人間が最後を迎える場所ではない」

富士の樹海探索家
AIクリエイター、TikToker
-ココペリコ-

樹海の中では、何が起きているのか?

2013年4月。初めて富士の樹海に足を踏み入れた。
「富士の樹海は自殺の名所」
「終バスで樹海を訪れる人の7割は命を断つことが目的である」
「肝試しで撮った写真に幽霊が写っていた」
これらのワード、噂の数々が私の好奇心を煽ってきたのだ。それはなにも私だけに限ったことではないはずだ。
怖いもの見たさと自分の知らない世界の魅力。誰しも「あなたの知らない世界」には少なからず心惹かれるものがある。

私は幼いころからオカルトや怖い話が好きだった。
(実際の幽霊や霊障は苦手)
お盆の時期に家族で怪談番組を見たり、友人が話す怖い話を夢中になって聞いたりしていた。
多くの怪談を聞いて、記憶に焼き付いているのが、心霊スポットとしても有名な、「富士の樹海」にまつわる話だった。
富士山の麓にあるため、子供にもわかりやすく、老若男女問わず幅広い層が認知している。
 
人跡未踏の地であることも魅力だった。
しかし、一番の大きな理由は、「自殺志願者が集まる」ということだ。
 
なぜ多くの自殺志願者が樹海に集まるのか?
一体この森の中では何が起きているのか?
富士の樹海は私にとって、恐怖と好奇心の入り混じった魅力的な場所となっていった。
 
「富士の樹海」
このワードは人を惹きつける。

この連載では、私が富士の樹海で体験したことを余すことなく書いていくつもりだ。
自殺の名所と呼ぶと聞こえが悪く、マイナスな印象を与えてしまうのも事実。
しかし、冒頭でも書いたように、“富士の樹海=死”というイメージがある以上、生を終えようとする者に触れないわけにはいかない。
「なぜ自殺志願者は富士の樹海を選ぶのか?」
「なぜ富士の樹海でなければならないのか?」
樹海に興味を持つ人の大半が、樹海の「死」の部分に興味を持つのではないだろうか?
死に対するイメージは人それぞれだ。多くの人の求めているものと違う場面もあるだろう。
グロテスクな表現や気分を悪くするシーンもあるかもしれないが、否定的な気持ちを持たずに読んでもらいたい。

「生を紡ぐ森と生を終える者」
そんな相反する2つの要素が入り混じる森の中で、一体何が起きているのだろうか。
それでは死の森と恐れられている、富士の樹海へ案内していこう。

富士の樹海内部

死の森

生を終える者が集まる森「富士の樹海」

冒頭にもあるが、私が初めて富士の樹海に足を踏み入れたのは今からおよそ11年前、2013年の4月頃である。
富士山周辺の雪が溶け、少しずつ春の訪れが見え始めていた。
富士の樹海を本格的に探索するのでもなく、大げさな目的があったわけでもない。
樹海の噂と知らない世界に惹かれてやってきたとしかいえない。
私が樹海に足を踏み入れる前は、テレビや雑誌でも遺体回収の様子が大きく報道されていた。
ブルーシートに並べられた頭蓋骨や、座り込む形で首を吊る遺体。
年に一回警察と消防、防犯協会の職員などが中心になって、数百人規模で行われる樹海の一斉捜索。
(現在は行われていない)
「今年は○○体の遺体が見つかった」
これらの報道が、私の中に眠っていた「樹海の中を見てみたい」という感情を目覚めさせたのだ。 

富士の樹海とは?

世界文化遺産にもなった富士山。
その麓に位置する樹海はとても広大で、面積は30kmにもおよび、その歴史は約1200年と、森の中ではまだまだ若い部類といえる。
富士の樹海(別名青木ヶ原樹海)は富士山の北西に位置しており、山梨県富士河口湖町・鳴沢村にかけて広がっている。
神奈川県、静岡県、東京都、山梨県にまたがる国立公園「富士箱根伊豆国立公園」に属している。
木々が風になびく様子が波のように見えることから「樹海」と名付けられた。
そのような樹海の中には一体どのような光景が広がっているのだろうか?
そもそも樹海の中にはどのようにして入るのか?

広大な森でも、樹海の奥に入るポイントはある程度決まっている。
(富士の樹海は立入禁止区域に指定されている場所がほとんどのため、むやみに入るのはやめておくことだ)
代表的な場所は、鳴沢氷穴なるさわひょうけつ鳴沢風穴なるさわふうけつ付近の遊歩道から入るポイント。
観光客も多く集まるこの場所は、『富岳ふがく風穴』、『氷穴』とそれぞれバス停もありわかりやすい。さしずめ「富士の樹海入門編」といえるだろう。
私が初めて樹海に入った時は、鳴沢風穴の駐車場近くにある「野鳥の森公園」へ向かう「青木ヶ原遊歩道」から入っている。

野鳥の森公園を示す看板

精進湖しょうじこのほとりにある、老舗のレストラン『ニューあかいけ』の南にある、「富士五湖消防本部 河口湖消防署 上九一色分遣所」裏の道から入るルートも有名だ。
この道を進むと、富士の樹海の都市伝説にもなっている宗教施設『乾徳けんとく道場』がある。
現在は廃墟になってしまったが、数年前まではお坊さん夫婦が住んでいた。
(この乾徳道場については別の回に譲る)
この他にも入るポイントはいくつかあるが、樹海の内部へ入るための代表的な入口としてこの2ヵ所をあげておく。
しかしながら、入ろうと思えばどこからでも樹海の中には入れてしまうのだ。
「富岳風穴」バス停よりだいぶ離れた国道沿いから、直接樹海に入っていくスーツ姿の男性や、人気のない道路から幼い子と手をつなぎ、森の奥へと消えていった人物の目撃情報もあった……。

樹海はなぜ自殺の名所になったのか?

樹海にある遺体のほとんどは自殺によるものだが、そうではない遺体もある。
自殺が目的で樹海に入る人ばかりではないのだ。
(もう一つの目的は察してほしい)
当然だが、観光目的ではない人は人目を気にしながら樹海の奥へと入っていく。
そのため、人のいない夜遅くの時間帯か。もしくは人目につきにくい場所を探すか。
あるいはその両方か……。
死を決意して訪れる人間。別の目的で訪れる人間。
目的は異なるが、いずれにしても重要になるのは、人目につかない時間帯と場所なのだ。

樹海内部にある禁足地

ではなぜ、樹海は自殺の名所となったのか?
理由の一つとして、1959年から雑誌『女性自身』に連載された松本清張の小説『波の塔』の影響ではないかといわれている。
人妻と青年検事の恋愛とその行く末を描く、著者の代表的長編恋愛ロマン。
樹海の奥に消えていく美しいヒロインの姿が、樹海で命を絶つ姿を美化したのだろう。
それに影響されたのか、樹海で命を絶つ人が増えたという説がある(真偽は不明)。

樹海内に落ちていた衣類とバッグ、ペットボトル
薬の容器

死に対するイメージは人によって異なる。
先にも述べたように、私はこの森で命を絶つことを推奨しない。
樹海の中で初めて、観光目的ではない人を目撃したとき……
人が人ではなくなる姿を目の当たりにしたとき……
そのときに私が抱いた印象は、『人間が大自然の中でゆっくりと土に還る』ということとはほど遠いものであった。
『波の塔』のヒロインと同じく美しい女性であっても、死後しばらくすると腐敗しウジに蝕まれ、酷い悪臭を放つのだ。
そのような姿を目の当たりにしたからこそ、もう一度いっておこう。

「この場所は人間が最後を迎える場所ではない。」


後編は2024年7月26日公開予定
「富士の樹海、生を紡ぐ森」とは

【電話やSNSによる相談窓口】
# いのちSOS(電話相談/毎日24時間受付、WEB相談/毎日8時~22時まで受付) TEL. 0120-061-338 https://www.lifelink.or.jp/inochisos/
生きづらびっと(SNS相談/毎日8時~22時まで受付) https://yorisoi-chat.jp/

厚生労働省「まもろうよ こころ」では上記以外にも悩みや年代によって選べる様々な相談窓口が紹介されています。
まもろうよ こころ https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/

文・写真:ココペリコ

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