樹海ミステリー 生を紡ぐ森と生を終える者 第三話
LIVE配信での遺体発見率
私には「LIVE配信をすると遺体を見つけてしまう」というジンクスがある。
今回はその中の1つを話していこう。
◯◯◯◯年◯月◯日
日時は書かないでおく。
私のSNSにて樹海探索のLIVE配信の告知をした。
普段は動画を編集して載せているだけなので、リアルな探索の臨場感は伝わりづらい。
いつも見てくれている視聴者に、樹海探索の雰囲気を少しでもリアルに味わってもらうため、樹海内でのLIVE配信を決意したのだ。
その時の私は「樹海の奥深くは電波状態が非常に悪い」ということを考えていなかった。
告知していた時間の30分前から準備を始めたのだが、電波が悪すぎてアプリがいっこうに起動しない。
スマホのキャリアによって差はあるが、私の契約しているキャリアは樹海との相性がとても悪い。
(参考までに、私の使用しているスマホのキャリアはソフトバンク回線)
事前にもっと調べておけといわれればそれまでだが、とにかくダメ元で配信をしようとLIVEをスタートした。
『LIVEが配信されているのかいないのか?』
フリーズした画面状態で配信を始めたものの、確認が取れないままいつものように遊歩道から少し外れた道を、樹海の奥深くへと進んでいく。
自殺者の遺体が多い場所
途中で自殺者のものと思われる遺留品がいくつか落ちているのを確認する。それらを写真におさめていく。
自殺者の遺体を見かける場所は、遊歩道から100メートル以内の場所が多い。
遺留品とロープが落ちている場所で、遊歩道を歩く人の声が聞こえることもあったくらいだ。
樹海の中では、実際にはそれほど進んでいなくても、奥深くまで入ってきたと錯覚してしまうことがある。
遺体は意外とあなたの歩いている近くにいるのだ。
かといってすぐに遺体に辿り着けるかというと、そうでもない。
前回の記事でも話したように、樹海の地面は溶岩でできているためとても歩きづらい。
舗装された道と同様にスムーズに歩くことができれば、100メートルなどあっという間だ。
しかし実際は、凹凸が激しく足場の悪い溶岩の上である。さらには立ちはだかる急斜面や、迂回せざるを得ない崖もあるため、まっすぐに進んでいると思っていても道を大きく逸れているのだ。
結果的に遊歩道から近い場所で見つかる遺体でも、迂回を繰り返しているため、すぐには辿り着けないことがほとんどだ。
LIVE配信中に見つけてしまった遺体
話は逸れたが、私はLIVE配信をしながらも奥へ奥へと進んでいった。
時間にして40分ぐらい歩いた頃だろうか?
もう少し進んで何もなければルートを変えようと思っていたそのとき。
10メートルほど先、少し開けた場所に白いロープが垂れているのが確認できた。
私は、その場でLIVE配信を止めた。
「遺体を見つけてしまったのでこれ以上は配信できません」と伝え、LIVE終了のボタンを押した。
視聴者が求めている場所に辿り着いた瞬間に配信を止めるというのは矛盾しているが。
死体やそれに付随するものをSNSに流すわけにはいかない。
2017年12月末にアメリカのYoutuber、ローガン・ポールの配信で、樹海内の死体が映り大炎上したのは有名な話だ。
今のSNSでは、それが現実とはいっても、何もかもをそのまま流してしまうことはできないのだ。
それは遺体の件だけとは限らない……
酒好きの遺体と大量のクリアファイル
そこで首を吊ったであろうロープの前には、酒瓶がまるで大切なもののように、折れた木に立て掛けられていた。
木に巻きつけられ薄汚れた白いロープは、自分も木の一部だと主張するように、静かに風に揺れている。
警察に回収されたのか、遺体こそ見当たらないが骨の破片と白いドロドロとしたものが落ちている。
首吊り遺体が腐敗していくと、最初に落ちるのは首だ。
ロープの位置から考察すると、骨の破片と白いドロドロは頭蓋内のものだろう。
茶色い地面に残る白い跡は、この森ではとても目立つ。
首を吊る際の感覚を和らげるためだろうか、木の陰には某有名製薬会社の鎮痛剤の空箱が落ちていた。
スポーツ飲料の容器も落ちていたので、それで薬を飲んだのだろう。
睡眠薬が落ちているのはよく見かけるが、このように市販薬が落ちていることもあるのだ。
近年、医薬品や市販薬の過剰摂取により、眠気を催す、気分を落ち着かせるなど、違法薬物と似た症状を体感しようとする行為が増えている。
この鎮痛剤も多量に服用すると「ふわふわした感覚になる」という症状がネットには書かれていた。
薬+酒
この組み合わせは自殺の教科書と呼ばれる『完全自殺マニュアル』でも推奨されている。
(自殺を推奨する本がよく出版されたものだ)
詳しい内容を書くわけにはいかないが、同書には「同時にアルコールを飲むことは必須条件」と書かれている。
その影響もあるのだろう、樹海内の現場には必ずといっていいほど酒の空き瓶が落ちている。
パッケージは剥がれてしまっていたが、ここに置かれていた酒の銘柄は有名メーカーのウィスキーのようだ。
このお酒も、他の人が購入していれば飲み会の場を盛り上げたり、一人の時間を楽しむために飲まれていたのかもしれない。
まさかこのような使い方をされるとは、メーカー側も思っていなかっただろう。
この現場で最も不可解だったのは、ロープ周辺に落ちていたたくさんのクリアファイルだ。
何に使用したのかは不明だが、クリアファイルが散らばっている現場は初めてだった。
新品をこの場所で開封しているのだ。
ビニールシートの代わりに使ったのだろうか? それならばビニールシートを持ってくればいいと思うが……。
突発的に決意して樹海に来たため、準備ができなかったのだろうか?
富士の樹海の自殺現場は、当然なのだろうが、状況が謎なものが多い。
この現場の主が何を思いこの状況を選んだのかはわからないが、樹海での死に方は人それぞれだ。
自分なりの死に方を考えて、この状況に落ち着いたのだろう。
酒も薬もロープもスポーツ飲料も、使い方は人それぞれだ。
使い方で凶器にもなる。
名もなき孤独な遺体
富士の樹海を探索するようになってから、名前も知らない誰かの死と向き合う機会が増えた。
自殺は現代の日本が抱える深刻な社会問題である。
2023年の日本国内の自殺者数は2万人を超えており、そのうち20歳未満の若年層が大幅増となっている。
誰とも顔を合わせたくないほど精神的に追い詰められる。
樹海の奥深くで最期を迎える、それがどれほど孤独なことか。
この場所で一人の人生の幕が閉じたことは紛れもない事実だ。
誰とも向き合わずに死を迎えた人間と、今私は向き合っている。
次回
「9月1日に自殺が多い理由」
8月23日に更新予定
文・写真:ココペリコ
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