神仏探偵・本田不二雄が案内する 「TOKYO地霊WALK」 vol.3
東京最古の聖地・浅草寺に秘められた
伝説と秘史をめぐる
【浅草・浅草寺周辺 前編】
浅草観音が出現した原点からスタート
今回の出発点は、都営地下鉄浅草線・浅草駅の真上に位置する駒形堂です。
ここは東京最古の寺院・浅草寺発祥の地。今から約1400年ほど前の推古天皇36年(628)、隅田川のほとりに住む漁師、檜前浜成・竹成兄弟の網に1体の御像がかかり、それを引き上げたのが現在の駒形堂のある湊でした。
これは何なのか。土地の長である土師真中知に聞いてみたところ、「観音菩薩の有難いお像」とのことで、村人らは草庵を編んで観音様を拝んだ……。
これが浅草寺のはじまりと伝わっています。
へんな話です。浅草寺のご本尊(浅草観音)は、漁師の網にかかってあらわれたというのです。
ただし、よくよく調べると、日本で最初に作られた木彫仏像は、茅渟海(大阪湾)に浮かんでいた光輝くクスノキから彫られた(『日本書紀』欽明天皇14年)といい、だいぶ時代は下りますが、川崎大師平間寺のご本尊も漁師の網にかかった弘法大師像だったといいます。
どうやら、「はじまりのホトケは海の彼方(他界)からやってくる」そんな神話的モチーフがここに潜んでいるようです。ではそれがなぜ“浅草”だったのでしょう……。
ともあれ、江戸時代は、川伝いに駒形堂裏の船着き場で上陸し、その本尊・馬頭観音を拝んで浅草寺本堂に向かうのが定番コースでした。そこでわれわれも、ここ浅草の原点を起点とするのです。
「お狸さま」に立身出世を祈る
さて、ここから参道(並木通り)を300メートル歩けば雷門。それにしても、最近の外国人観光客の多さ……。東京のインバウンドを代表する異観ですね。
そこでわれわれは、あえて仲見世通りをスルーして、脇道を伝法院通りで左折、「鎮護大使者」の幟が立つ鎮護堂に寄ってみます。
たまたま紛れ込んでしまった観光客が「はて?」と首をかしげるここは、なんと「お狸さま(鎮護大使者)」を祀るお堂。宝前には招き猫ならぬ招き狸(!)が安置されています。
聞けばこのタヌキ、人に憑いてイタズラをする困り者だったものの、明治16年(1883)、当時の浅草寺の貫首に「自分を祀れば伝法院(浅草寺の本坊)を火災から護る」と夢告したといい、以来、火防・盗難除けの守護神として崇められているお社なのです。
面白いのが、タヌキを“他を抜く”ご利益アイコンとして、落語家や歌舞伎役者など、芸能関係者の信仰が篤いといわれていること。人気者として名をあげるチャンスの神なのでしょうか。また、拝殿脇の地蔵尊のひとつは、破損した頭部をつないだことから「加頭地蔵」と呼ばれ、“首がつながる”ことから熱心にお参りするサラリーマンもいるようです。
もはやまじないやゲン担ぎのノリですが、こういうの、筆者はわりと好きです(笑)。
「踏み付け」のご祭神
参道に戻り、宝蔵門をくぐるといよいよ本堂ですが、その手前右にある久米平内堂にもご注目を。
久米(粂)平内とは、江戸初期に実在した伝説的な人物。有名な剣豪で、何でも、千人斬りの願を起こして多くの殺生をはたらいたのち、悔い改め、みずからの像を刻んで浅草寺境内に埋め、滅罪・供養のために多くの人々に踏み付けてもらうことを誓願したというのです。
しかも、それがのち「踏付け→文付け」に転じ、願文を納めると願いが叶う、恋文の願いが叶うといわれ大人気となったといいます。江戸人のまじない思考にも程がありますが、それもまた、平内さんの奇特な生き様へのシンパシーあってこそ。面白いですね。
では、小堂の透かし扉の奥をよく覗いてみましょう。たくさんの“文”とともに堂内に端座する平内さんの必死なお顔が拝めます(なお、お堂手前には文を投函するポストがあります)。
ついで平内堂の裏に鎮座する見事な二尊仏(観音・勢至菩薩坐像、江戸初期の奉納)を拝すと、その奥に、こんもりとした丘の上に建つ弁天堂が見えてきます。
こちらは、神奈川・江ノ島、千葉・布施弁天とならぶ関東三弁天の一。女神のご本尊が白髪なことから、通称「老女弁財天」と呼ばれています。金運・財運の向上を祈りたい人はぜひここで。「巳の日」には堂内でお参りができます。
さて、穴場の寄り道ばかりでなかなか本堂に進めませんが、浅草寺はいわば神仏のテーマパーク。せっかくですから境内を味わい尽くしましょう。
この近くにも、源頼朝が挿した枝から発芽したと伝え、昭和20年の戦災で大半を焼失しながら今なお葉を繁らせる不屈の神木イチョウ、江戸初期の隠れた名像である二天門の増長天・持国天像など、知られざる注目ポイントがあります。
といいつつ、巨大な堂宇がいやでも目に入ってきますね。いよいよ浅草観音の本堂へと歩を進めましょう。
【以下、後編へつづく】
文・写真:本田不二雄
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【著者プロフィール】
本田不二雄(ほんだ・ふじお)
「神仏探偵」として、全国の神仏方面の「ただならぬモノ」を探索することを歓びとするノンフィクションライター。駒草出版の三部作として好評を博した『ミステリーな仏像』、『神木探偵』、『異界神社』(刊行順)のほか、そこから派生した最近刊『怪仏異神ミステリー』(王様文庫/三笠書房)、『地球の歩き方Books 日本の凄い神木』(Gakken)などの単著がある。Xアカウント @shonen17
『異界神社 ニッポンの奥宮』
本田不二雄 著
2021年8月2日発売
A5変形 214ページ
ISBN:9784909646439、定価 1,980円(税込)
『神木探偵 神宿る木の秘密』
本田不二雄 著
2020年4月10日発売
A5変形 256ページ
ISBN:9784909646293、定価 1,870円(税込)
『ミステリーな仏像』
本田不二雄 著
2017年2月11日発売
A5変形 256ページ
ISBN:9784909646293、定価 1,650円(税込)