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樹海ミステリー 生を紡ぐ森と生を終える者 第十六話
YouTubeやインスタなど、SNSの広がりと盛り上がりに比例して、樹海を探索する人は増えてきた。
樹海内に張り巡らされた色鮮やかなポリエチレン製のテープは、探索に不慣れな者が立ち入ったことを意味する。
また、警察や樹海パトロールによる活動の結果、樹海内での自殺者は年々減ってきている。
しかしながら、樹海パトロールの呼びかけが賛否両論なのも事実である。
命を守るための正義「樹海パトロール」
自殺志願者とそうでない者を見分けることは簡単ではないだろう。
【年々増える樹海探索家】
警察による自殺遺体の一斉捜索がなくなったこともあり、樹海内で見つかる遺体の数は減った。
特に2024年は警察が自殺防止に力を入れていたこともあり、例年に比べても自殺遺体の発見は少なかったのではないだろうか?
とても喜ばしいことである。
SNSの影響もあり、近年はYouTuberやインフルエンサーが樹海を探索することが増えてきた。
富士の樹海は自然公園法の特別保護地区に指定されているため、むやみに立ち入ることは禁止されている。
そのため、チャンネル登録者数の多いYouTuberほど、アカウントBANをおそれて樹海の探索を諦めているように感じる。
【樹海内に張り巡らされたカラフルなポリエチレン製のテープ】
茶色や緑の自然色で構成されている樹海内が、赤や黄色などカラフルなポリエチレン製のテープで彩られている。
探索者が迷わないように張り巡らせた目印としてのテープだ。
木に吹き付けられた赤や白の塗料も目立つ。
探索に慣れていない者はGPSを使わないため、このような原始的なやり方で探索をすることが多い。
確実といえばそうだが、樹海に放置されたテープは自然に還らないため、環境破壊に繋がりかねない。
このようなやり方で探索をした際には、後片付けを徹底してもらいたい。
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自殺者と思われる人に加えて、YouTuberや上記のような探索者も近年では厳しく取り締まられている。
その役割の一部を担っているのが、「樹海パトロール」なのだ。
また、遺体を見つけて警察に通報したところ
「今度、樹海に入ったら逮捕する」
と言われた人もいるようだ。
探索をする際には
“迷わない”
“怪我をしない”
これらは当然注意しなければならない。
加えて、警察や樹海パトロールにも気をつかわなければならない。
今回は樹海の見回りをしている「樹海パトロール」について書いていこう。
【樹海パトロール】
数年前の7月頃の話だ。
この日は樹海に咲く「銀竜草」や遊歩道に設置された看板などを撮影するために樹海を訪れた。
いつものように鳴沢風穴の駐車場で準備をし、道路を挟んで反対側にある、自殺防止を記した看板を撮影するために道路を渡った。
看板の写真を撮り、左手にある野鳥観察道へ入る。
この先には借金の返済を助ける旨が書かれた看板が立てられている。
この看板も撮影したかったので、さらに奥へと入っていった。
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写真を撮り、駐車場に戻ろうとしたとき……
最初に撮影した自殺防止の看板近く、野鳥観察道入口のところに作業服姿の60〜70歳ぐらいだろうか? 男性が立っていた。
何となく嫌な予感はしたのだが、その予感は的中することとなる。
車の途切れるタイミングを見計らい、道路を横断しようとしたところ後ろから、
「こんにちは!」と元気よく声を掛けられた。
振り向くとすぐ後ろに、先ほどの男性が笑顔で立っている。
「何をしているんですか?」
「人のいない方に行くから心配になって(笑)」
ここまではいい。
「お仕事は何をされているんですか?」
「お一人で来たんですか?」
随分と強引に世間話をしかけてくる。
話には聞いていたが、正直これはかなりきつい。
首から監視員証をぶら下げた「The監視員」が真横について歩くのだから、周りから見ても何かあったのでは?と不審に思われるだろう。
あまり刺激を与えたくないので、なるべく愛想良く受け答えをした(と思う)。
私は登山家のような服装をしていたのだが、一人でうろうろしていたことで目を付けられてしまったのだろう。
それとも本当に自殺しそうに見えたのか?
あまりにしつこいので
「私自殺しそうに見えますか?(笑)」
とストレートに聞いてしまった。
「そんなことないですよ(笑)」
と即答してくるが、50メートル以上隣をついて歩いてくるのだから、そんなことあるのだろう。
終始笑顔だが目は笑っていない。
撮った写真を見せて、植物や遊歩道の撮影に来たことを伝えた。
世間話を少しして、死ぬつもりは全くないと伝えたことで、やっと安心したのか……
「今の時期は日が暮れるのが早いので、あまり遅くならないようにしてくださいね」
と言い残して、駐車場の方へと去っていった。
この間のやり取りで、その日に使うエネルギーの、30%ぐらいを奪われた気分だ。
鳴沢風穴や氷穴の駐車場をはじめ、樹海の周りにはこのような「樹海パトロール」の存在がある。
1人で訪れる際は注意してもらいたい。言い争いになると警察を呼ばれてしまうこともあるので、穏便に済ませることをオススメする。
(実際に警察を呼ばれ、連行された者もいる)
気を取り直して探索を始めたが、彼らの監視はこれだけでは終わらなかった……
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【探索終了後】
2時間ほど探索をして、車を停めてある鳴沢風穴の駐車場に戻った。
車に乗って帰ろうとしたところ
「遅かったじゃない!!」
と声を掛けられた。
振り返ると、先ほどとは違う樹海パトロールが鬼の形相で立っている。
「樹海に入った時間を計っていたけど、2時間も入ってたよ!」
「靴も汚れてるし、汗もかいてるし!」
はっきり言って大きなお世話である。
山道を歩くのだから靴が汚れたり汗をかくのは当然だと思うが、彼の怒りの矛先が私に向いていることはよくわかった。
私は樹海に行く際は仕事で使う軽バンを使用しており、車には荷物が多く積まれている。
「車中泊をしているのか!?」
「アパートを引き払ってきたのか!?」
(おいおい……)
いくらなんでも先入観が強すぎる。
強い口調で話すため、周囲に人が集まってきた。
これはさすがにきつい。
この状況で「アパートを引き払ってきた!?」と言われたら、そのように見えてしまうだろう。
何よりも周りの視線が私には痛い。
樹海内で撮ったキノコや植物の写真も見せ、時間をかけて説明した後に、ようやく話は終わった。
改めて車に乗ろうとしたところ、また後ろから声が聞こえた。
「あいつ正義感強くてさ(笑)」
振り返ると、最初に話し掛けてきた男性が笑顔で立っていた。
「誤解を招いてしまったようで、ご迷惑おかけしました」と伝えて帰ろうとしたところ……
「随分遅かったね、靴も汚れてるし」
先ほどと同じ流れのやりとりを、また最初からすることになった。
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樹海パトロールは必要である。
実際に警察と彼らのおかげで自殺者は年々減っており、樹海の自殺率を下げることに貢献をしているのは間違いない。
しかし、彼らの声掛けに賛否両論があるのも事実だ。
「友人と2人で遊歩道を歩いていたら話し掛けられて、なかなか解放してくれなかった」
「1人で風穴に行くとパトロールについてこられるので自殺者と間違われる」
など、声掛けが少しばかり過ぎている気がしてしまう。
自殺者を守るための声掛けが、一般の人には負担となっているケースがあるのも事実である。
誤解を招く可能性があるため言っておくが、私は樹海パトロールを否定しているわけではない。
樹海パトロールの活動には賛成しており、自殺者が減っているのは間違いなく彼らの功績でもある。
しかし、一般の登山客が必要以上な声掛けに迷惑をしているという情報がある以上、声の掛け方にはもう少し配慮が必要なのでは?というのが正直な意見だ。
私は遊歩道で呼び止められて、荷物検査をされたこともある。
背負っていたバックパックを下におろされ、中を確認された。
「撮影の道具しか入っていないですね、なら大丈夫です」
と言われて素っ気なくバッグを返されたが、やり過ぎではないだろうか?
私は男性だからいいが、1人でいる女性の登山客にも同じことをしているのだろうか?
彼らの正義感は間違ってはいない。
自殺者を止めるということは責任があり、とても重要な任務である。
その一方で、悪い印象を与えてしまっては観光地のイメージも崩れてしまうのではないだろうか?
樹海パトロールの人たちは、人の命を守るために従事している。
とても責任感があり心の優しい人であるのは間違いない。
自殺者とそうでない者を見分ける確実な方法があればいいのだが……
富士の樹海での自殺者がいなくなれば、彼らの負担はなくなるだろう。
そうなるためには自殺を考えてしまう根本的な原因を消さなければならない。
今の日本を見ている限り、そうなる日はまだまだ先になりそうだ。
自殺をするのは富士の樹海だけに限らない。
次回は私が過去に経験した、自宅で自殺をした方の現場処理の話をしよう。
壮絶な現場の真実を語ることで、自殺を減らすための一助になればと思う。
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【電話やSNSによる相談窓口】
・# いのちSOS(電話相談/毎日24時間受付、WEB相談/毎日8時~22時まで受付) TEL. 0120-061-338 https://www.lifelink.or.jp/inochisos/
・生きづらびっと(SNS相談/毎日8時~22時まで受付) https://yorisoi-chat.jp/
厚生労働省「まもろうよ こころ」では上記以外にも悩みや年代によって選べる様々な相談窓口が紹介されています。
・まもろうよ こころ https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/
文・写真:ココペリコ
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