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樹海ミステリー 生を紡ぐ森と生を終える者 第十四話
【樹海内の遺体と遺留品】
樹海に眠る自殺遺体のほとんどが「首吊り」によるものだ。
『富士の樹海=首吊り遺体』
このようにいわれるほど、樹海に対する首吊りのイメージは強く、私が遭遇した自殺遺体もほぼ首吊りによるものだった。
そして、樹海の遺体はほとんどが白骨化している。
動物や虫に食い荒らされ、徐々に白骨化していく遺体……
近くに落ちている遺留品も、時代の流れとともに変化している。
【樹海の奥深くには首吊りの大木がある?】
「樹海の奥深くには首吊りの大木がある」という都市伝説が存在するほどだ。
樹海に興味を持つ人の多くが、木にロープを巻き付けて「首吊り」をしている姿をイメージするのではないか?
首吊りの大木は存在しないが、樹海内にある自殺遺体のおよそ8~9割は首吊りによるものだ。
私が初めて聞いた樹海の怪談も、首吊り遺体の話だった。
深夜に肝試しをしようと数人で樹海の中に入っていく。
懐中電灯で足下を照らしながら進んでいくと、頬に冷たいものが当たった。
何かと思い、上を見ると首を吊った遺体の足だった。
中学のときに通っていた塾の教師が話してくれたのだが、思い返すとその時に、初めて樹海の存在を知った気がする。
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【首吊り】
そもそも首吊りとは、どういうことをいうのか?
ロープや紐状のもの(ベルト等も含まれる)に首を掛け、本人の体重で頸部を圧迫する。
誰もが知っている死に方であり、飛び降り自殺に並ぶ世界共通の自殺の方法である。
一般的な認知としてはロープで首が締まることによる窒息死と思われているが、より正確な説明をすると……
ロープで首を絞めることで、主気管などが強く圧迫され、血液と酸素が脳に供給されなくなる。
それにより中枢の機能が停止し、絶命に至ると考えられている。
警察庁の統計には、自殺の手段として“首吊り”を選ぶ人が圧倒的に多いとある。
いつどのタイミングかは忘れたが、私はいつの間にか首吊りという死に方を理解していた。
刑事ドラマやサスペンス系の番組でも首吊りの登場率は高い。
それほど我々にとって身近な死に方の一つなのだろう。
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【発見する遺体の状態】
樹海の中で発見する自殺遺体の割合は
「白骨化したもの8割」「体が残っているもの2割」
ぐらいだろう。
圧倒的に白骨化したものが多いのだ。
季節によって異なるが、遺体は死後2時間ほどで硬直がはじまり、およそ20時間で硬直は強度になる。
48時間が経過したあたりで硬直は徐々に解け始め、それと同時に腐敗が始まる。
腐敗した首にロープが食い込み、体の重さに耐えられなくなることで首が切断される。
その後、腐敗臭を発しながら遺体は分解されていく。
動物による遺体の損壊や周囲の環境にも強く影響されるが、遺体の白骨化までにかかる時間は、夏では1週間から10日、冬では数か月以上といわれている。
冬場は雪が降り積もっているため探索はできない、夏場は腐敗が早いためすぐに白骨化してしまう。
つまり、体の残っている自殺遺体を見つけるには短期間で探さないといけないため、遭遇する確率はとても低くなってくる。
私が発見した遺体も白骨化したものがほとんどであり、形を留めているものは数えるほどしかなかった。
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【首吊りに適した木が少ない】
樹海の中にある首吊り遺体は、木にぶら下がっている状態のものは少ない。
過去の記事で解説したが、樹海の地面は溶岩のため、木が地中深くに根を張ることができない。
そのため、多くの木が成長できずに倒れてしまい、人間の体を支えられるような大木は少ないのだ。
大木を見つけたとしても、ロープをかける枝がない、もしくは枝が高くロープが届かない。
そのため、樹海内の首吊り遺体は、座ったまま、立ったままの姿勢で首を吊っているものがほとんどだ。
樹海を彷徨った末に、諦めてそのような姿勢を選ぶのだろうか?
事前に調べてくるのだろうか?
その詳細は不明だ。
樹海の中で死に場所を見つけるのは容易ではないのだ。
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【自殺遺体発見場所の共通点】
「樹海で自殺遺体を探すときは『五感』を使って探せ」
過去の記事で書いたことだが、茶色と緑を中心に形成されている樹海の中では、人工物である赤や青などの原色がとても目立つ。
衣服やビニールシート、寝袋やテントなど。
そのような、自然界に存在しない色を探すことで遺体に近づく。
また、死臭を頼りに場所を特定もする。
樹海探索をする際は歩き続けるだけではなく、立ち止まることも重要になってくる。
ある程度歩いたら立ち止まり、周囲を見渡して何か変わったものはないか目を凝らす。
ハエが飛び回っていたり、鼻をつく臭いがすれば遺体は近い。
五感が研ぎ澄まされている者は樹海探索に向いているだろう。
木々の間に垂れるロープも、樹海の中では大きな目印となる。
ロープは白や黒など地味な色が多く、風化することで茶色くなるため、自然に溶け込んでしまいそうだ。
しかし、真っ直ぐな線を描くロープの様は樹海内では逆に不自然なため、折れ曲がった木々に混じると意外と目立つのだ。
そのような真っ直ぐな線を探すのも、樹海探索では重要になってくる。
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【自殺者の気持ちになって探す】
「五感」の他にもう一つ重要になることが「自殺者の気持ちになって探す」ということだ。
これはある樹海探索家の話だが、自分自身が死を決意した者の気持ちになって探すと、自然と自殺遺体にたどり着くという。
自殺遺体の発見される場所には共通点が多い。
それは「開けている場所」や「月や太陽の光が射し込む場所」がそうだ。
自殺遺体やロープのぶら下がっている場所は、暗い樹海の中でも、他の場所に比べて光が射し込んでいることが多い。
自殺者の多くは、樹海内に入ってから死に場所を選ぶのだろう。
無意識に心が落ち着く場所を選んでしまうのだろうか?
そのような場所を意識して探索すると、自殺遺体に近づいていく。
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【ネズミと虫による遺体損壊】
樹海の都市伝説の中には「野犬の群れが存在する」というものがある。
実際には野犬の群れなど存在しない。
樹海ツアーガイドが、一度だけ柴犬のような野犬を目撃したことがあると話していたが、私自身は樹海内で野犬を目撃したことは一度もない。
2024年のはじめに、知り合いの探索家から熊の糞の目撃情報を教えてもらったが、それまでは熊の目撃情報は私の知るかぎりではなかった。
環境の変化で熊が樹海に生息するようになった可能性はあるが、少なくとも2024年より以前の遺体を熊や野犬が損壊した可能性はとても低いだろう。
目撃した遺体もネズミにかじられた跡があっても、熊などの大型動物にかじられたものは見たことがない。
私は目撃したことはないが、鹿が遺体を食べている現場に遭遇した人がいる。
鹿は草食動物のため人間の肉を食べるということは考えられないが、その人は嘘をつくタイプではないので本当の話なのだろう。
鹿は樹海内で、ねずみに次いで個体数の多い動物だ。
適応性が高く、環境によって食べるものを変えるため、遺体を食べる種が生まれたのだろうか?
樹海の新たな都市伝説だ。
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【時代と共に変化する遺留品】
樹海内に落ちているもので一番多いもの。
それはロープでも薬でもなく、ビールやウィスキーなどの酒の容器だ。
樹海で遺体を見つけた際に、遺体のそばに必ず落ちているといっても過言ではない。
最後にどのような気持ちで酒を飲んだのか?
遺体の横に転がる酒の容器は、死後もその人に寄り添っているように思えた。
そして、樹海内に落ちている遺留品も、時代の流れと共に変化している。
スマホやハンド扇風機などは、昔はなかっただろう。
そのようなものを見ると時代の流れを感じる。
酒の容器でも最近多く目にするようになったのは、ストロング系のものだ。
アルコール度数が高く短時間で酔えるため、選ぶ人が多いのだろうか?
10年前には存在しなかったものが、現在の樹海には落ちている。
それとは逆に、かなり昔のものを発見する場合もある。
昭和のデザインだろうか?風化した細長い飲料の缶を見つけたこともある。
樹海内に落ちている遺留品は、おおよその時期を読み取ることができるため、私にとっては木々の成長よりも年月の経過がわかりやすい。
落ちている遺留品は、その時代に樹海で命を絶った人たちの墓標のようにも感じられる。
遺留品の考察については、また別の記事で語らせていただくとしよう。
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【電話やSNSによる相談窓口】
・# いのちSOS(電話相談/毎日24時間受付、WEB相談/毎日8時~22時まで受付) TEL. 0120-061-338 https://www.lifelink.or.jp/inochisos/
・生きづらびっと(SNS相談/毎日8時~22時まで受付) https://yorisoi-chat.jp/
厚生労働省「まもろうよ こころ」では上記以外にも悩みや年代によって選べる様々な相談窓口が紹介されています。
・まもろうよ こころ https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/
文・写真:ココペリコ
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