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樹海ミステリー 生を紡ぐ森と生を終える者 第五話
【富士の樹海の都市伝説】
富士の樹海について、前回までは主に樹海の持つ「死」の部分に触れてきた。
「富士の樹海=自殺の名所」というイメージが強いだろうが、死のイメージと並んで有名なのが「富士の樹海にまつわる都市伝説」だ。
「コンパスは狂うのか?」
「樹海の奥深くには謎の宗教施設がある?」
「自殺遺体の下に咲く花『死体の花』が存在する?」etc...
数えたらキリがないほどに、富士の樹海にまつわる都市伝説は数多く存在する。
今回は数ある都市伝説の中から
「コンパスは狂うのか?」
「自殺者の下に咲く花『死体の花』が存在する?」
この2つについて解説していきたい。
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【コンパスは狂うのか?】
上記で述べたように、樹海にまつわる都市伝説は数多く存在する。
「コンパスは狂うのか?」は、樹海の都市伝説で最も有名で、知りたいことでもあるだろう。
「The 樹海都市伝説」と言っても過言ではない。
やはり多くの人が興味を持っているのだろう。
私もこの質問を何度もされてきた。
結論から言う。
森の中でコンパスが狂うことはない。
これは樹海にまつわる書籍やSNSでも紹介されているが、樹海の森の中でコンパスがクルクル回るという現象は、残念ながら起こらないのだ。
クルクル回るどころか、コンパス自体が少しでも狂うことは、私の樹海探索史では1度もなかった。
しかし、厳密なことを言うならば、一部狂う場所はある。
樹海ツアーに参加すると、コンパスが狂う様子を見せてもらえる。
これはインチキではなく、ある条件を満たした溶岩にコンパスを近付けるとコンパスが狂うのだ。
そもそもなぜ、溶岩に近付けるとコンパスが狂うと言われるのか?
それはマグマが冷えて固まる際、磁気を帯びて固まる「残留磁化」という現象である。
それがコンパスに影響を及ぼすと言われているが、樹海の中にある溶岩からコンパスを狂わすほどの磁場は出ていない。
ただ、ごく一部の溶岩に「残留磁化」が強く残り、コンパスを狂わすことがある。
そういった溶岩に出会える確率はどれくらいかというと、樹海探索ツアーのチームが数週間、溶岩を一つ一つくまなく探して、やっと一つ探せたレベルである。
樹海の洞窟探索ツアーに参加すると、最後にその溶岩を見せてくれる。
案内してくれたガイドの話では
「ツアーを立ち上げた当初、数人掛かりで毎日探してやっと見つけた!」とのことだ。
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手に持ったコンパスをその溶岩に近付けると、クルクルと激しく回るとまではいかないが、確かにコンパスが狂っている様子が見てとれた。
樹海ツアーを立ち上げるに際して、都市伝説として有名な「コンパスがクルクル回る」という現象を、ツアー参加者に見せてあげたい……
その強い想いから探し出したという。
樹海は深い森なのでくまなく探せば、コンパスがクルクルと激しく回る場所があるかもしれない。
しかし、私が知っているコンパスを狂わす溶岩は上記で紹介した1つだけである。
世の中で噂される、「樹海に入るとコンパスが狂って出てこられなくなる」という現象については、完全な都市伝説と言っていいだろう。
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【死体の花】
自殺遺体の下に咲く花、通称「死体の花」
この噂を聞いたことがあるだろうか?
この他にも……
「遺体が埋まっている場所を教えてくれる」
「自殺遺体を分解し、それを栄養にして育つ」
「引き抜くと悲鳴が聞こえる」
その噂の内容はどれも恐ろしいものである。
【銀竜草】
その花の正体は銀竜草「ギンリョウソウ」という白い菌根植物(腐生植物)である。
透き通るように白いキノコにも似た見た目をしており、樹海の茶色い地面の上では特に目立つ。
葉が「鱗」のように見え、竜が鎌首をもたげているような姿から「銀色の鱗を持つ竜の草」から、銀竜草と名付けられた。
柔らかそうな見た目に反して触ると硬く、葉緑素を持たないため茎も葉も銀白色で光合成をしない。
ギンリョウソウの写真を撮るためだけに樹海を訪れる写真家もいるので、樹海内では意外と人気の植物である。
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恐ろしい噂話は事実ではないが、実際に遺体のあった場所に生えていたこともある。
「死体の花」と認識されてしまってもしかたがないだろう。
私も樹海でこの植物を初めて見かけた際に、近くに遺体があるのでは? と身構えたものだった。
【死者の多い時期と開花の時期】
樹海で命を絶つ者は春先(特に5月)に樹海を訪れることが多い。
いわゆる五月病の時期で、樹海に限らず月別の1日平均自殺者数においても、男女ともに5月、6月は最も多いというデータがある。
「五月病と自殺には強い相関がある」という研究もあるほどだ。
4月になり環境が変わり、新しい職場や人間関係に期待をする。しかし、現実はシビアで思い通りにならないことも多い。
希望を抱いて新生活を始めるが、現実とのギャップに落ち込んだ頃にゴールデンウィークを迎える。
連休明け、現実に戻ることへの恐怖から自殺を決意するのだろうか。
ギンリョウソウの開花時期は6月〜7月。
遺体の数がピークを迎える時期と開花時期が重なるため、「死体の花」という印象がついたのだろう。
5月に多くの死を迎え入れ、まるでその死を糧にしたように樹海内で開花し始めるギンリョウソウ。
これまで何人の最期に立ち会ってきたのだろう。
死後の世界については様々な説があり、正しい答えを見つけるのは難しい。
「自ら命を絶った者はあの世へ行くための扉が開かない」
「死の瞬間を永遠に繰り返す」
「魂が成仏できずにこの世を一生彷徨い続ける」
そもそも死後の世界などなく、死んだ後に残るものは何もないただの「無」なのだろうか?
自ら命を絶った者を待っている場所、その予想されるイメージのほとんどが光の差さない暗い世界だ。
ギンリョウソウの花言葉は「そっと見守る」
樹海の中にはいったいどれだけの人の魂が彷徨っているのか。
銀色の竜と呼ばれる白い姿が、暗い樹海を彷徨う魂を導く光になることを願う。
ギンリョウソウはその白い見た目から別名「ユウレイソウ」、「幽霊茸」とも呼ばれている。
薄暗い樹海の中に寄り添うように咲く白い花は、まるで樹海内で命を絶った者たちの生まれ変わった姿のように見えた。
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次回につづく
【電話やSNSによる相談窓口】
・# いのちSOS(電話相談/毎日24時間受付、WEB相談/毎日8時~22時まで受付) TEL. 0120-061-338 https://www.lifelink.or.jp/inochisos/
・生きづらびっと(SNS相談/毎日8時~22時まで受付) https://yorisoi-chat.jp/
厚生労働省「まもろうよ こころ」では上記以外にも悩みや年代によって選べる様々な相談窓口が紹介されています。
・まもろうよ こころ https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/
文・写真:ココペリコ
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