樹海ミステリー 生を紡ぐ森と生を終える者 第十三話
【新年を迎えられなかった者たち】
【新年を迎えることのない者たちの心の内】
新年を迎えて早くも十日が過ぎようとしている。
今年はあなたにとってどのような一年になるのか?
新たな目標を立て、志を高くする人も多いだろう。
そのような中、無事に新年を迎えられなかった人もいる。
5月に続いて自殺が多い月が12月である。自ら死を決意して、新しい年を迎えたいとは思わない人がいるということだろう。
年末に大掃除をして、綺麗な状態で新年を迎えたいと思うように、自殺を決意する人は年内にすべてを終わらせたいと願うという。
街中でも寒さが増し雪も降り始める頃、富士山周辺は特に厳しいものとなり、樹海探索もオフシーズンとなる。
それでも、樹海内で命を絶つ者は一人静かに樹海の奥深くへと入っていく。
以前、その時期に探索した際、自殺者が最後に食べたであろう、パンの袋とビールの空き缶を見つけたことがある。
パンの消費期限は12月16日となっていた。
この日付から推測すると、12月の14日頃に樹海に入り命を絶ったのだろう。
冬の樹海、極寒の中だ。
クリスマスや忘年会など、12月はイベントが多い。
「師走」と呼ばれるように、12月は多くの人にとって忙しく、同時にとてもきらびやかな一ヶ月でもある。
家族や恋人、仲間と過ごせる人には心躍る日々かもしれない。
しかし、孤独に悩みを抱える人には、その輝きが眩しすぎるのだ。
多くの者が感じる幸せが、孤独に拍車をかける。
まるで自分は、人々の幸せを引き立てる陰なのではないだろうか?
塞ぎ込んだ気持ちはやり場もなく膨れていく。
“また辛い一年が始まる”
その辛い一年を迎えるぐらいなら……
【陰と陽の関係】
世の中はユダヤの法則と呼ばれる、78:22の法則で構成されることが多いという。
都市伝説ではあるが、例を出そう。
世の中の総資産のうちの78%を、22%の富裕層が所有しており、残りの22%の資産を78%の貧困層が所有しているというものだ。
陰と陽がなければ世界は成り立たない。
78%の幸せな人の陰には22%の不幸な人がいる。
もしくはその逆で、22%の幸せな人の陰に78%の不幸な人がいるのだろうか?
自殺者の残したパンの袋を見ながら、ふとそんなことを考えたことを覚えている。
普段ならば道にパンの袋が落ちていても、感情が揺さぶられることはないだろう。
樹海の中に落ちているパンの袋。それが最後の晩餐だったと思うと、パンの袋ひとつとはいえ、とても重いものに感じる。
最後に一人で食べた食事は、何を想い、どんな味がしたのだろうか。
【自殺による死亡者数世界第4位の日本】
2024年に公表された世界の自殺死亡率で、残念ながら日本は第4位となり、女性だけで見ると韓国に続く世界第2位である。
若年層の自殺率も高く、G7各国の死因順位を見ると、第1位が「自殺」となっているのは「10~19歳」では日本のみである。
自殺の死亡率で見ても日本の「10~19歳」及び「20~29歳」はG7の中で最も高かった。
※警視庁「自殺統計」厚生労働省自殺対策推進室作成PDF資料を参照
【樹海パトロール】
自殺は個人の問題ではなく社会の問題である。
新型コロナや長引く不況の影響もあり、正社員として雇われていても安心できない時代となっている。
職を失うリスクや、精神を病んでしまう可能性は誰にでも起こりうる。
最終的な「逃げ場」が樹海にならないことを願うのみだ。
富士の樹海には「樹海パトロール」という警備員が存在する。
樹海での自殺者を減らすために活動する組織である。
普段は鳴沢風穴、氷穴の駐車場で待機しているか、もしくは車で樹海周辺をパトロールしている。
樹海をテーマにした他の書籍にもあるが、このパトロールの対応はいいものとはいえない。
パトロールの様子をすべて見ているわけではないが、単独で樹海を探索する者がいれば見境なく声をかけている印象を受ける。
どう見ても登山客だろうという者にまでしつこく声をかけている。
目をつけられた側はたまったものではない。
首から許可証をぶら下げた「The自殺警備員」という見た目の男性が、100メートル以上も隣を歩いてつきまとってくるのだ。
まわりから見ても「あの人自殺しにきたのかな?」と
誤解されてしまうだろう。
彼らの活躍もあり、富士の樹海での自殺者数は年々減っているのは確かだろう。
しかし、樹海パトロールの目的は“自殺を思いとどまらせる”ことではない。
“自殺をなくす”ことが目的であるはずだ。
声をかけられた者は樹海での自殺は諦めるが、それは「樹海」での死を諦めただけであり、“死”そのものを諦めたわけではないだろう。
引き取り手のない自殺遺体を回収し、納骨堂に無縁仏として納めるまでの費用は1遺体につき約10万円が必要で、それは山梨県の税金でまかなわれている。
パトロールのやり方について私が指摘をする資格はないが、自殺志願者をただ追い返すという姿勢についてはどうしても賛成できない。
2024年には夜間警備用にドローンが使われて、警備のレベルも上がっているが、自殺の根本を改善する方法はないものだろうか?
私自身も何度か声をかけられ、つきまとわれたことがあり、その対応はとにかく酷いものだった。
樹海パトロールについては、話が長くなってしまうため、他の回に譲ることにする。
【まわりの様子に変化はないか?】
2025年がどのような一年になるのか。
新しいスタートが本格的に始まろうとしている。
あなたのまわりに、人知れず悩みを抱えている人がいるかもしれない。
この時期はいつも以上に、まわりの人の様子を注意深く観察してあげてほしい。
あなたの一言が、その人の命を救うかもしれない。
2025年がいい年になり、樹海での自殺者が減ることを祈っている。
文・写真:ココペリコ
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