樹海ミステリー 生を紡ぐ森と生を終える者 第九話
【死臭の先にあった首無し遺体】
【人生で一番怖かった出来事】
皆さんは自身の体験の中で
「あの時の出来事は人生で一番怖かった」
「あんな体験は二度としたくない」
というようなことはあるだろうか?
何を怖いと感じるかは人それぞれだが、怪談や人間の持つ恐怖など、世の中には様々なジャンルの怖い話が存在している。
YouTubeやTikTokなど、動画サイトで「怖い話」と入れて検索すればいくらでもあなた好みの恐怖動画が出てくるだろう。
私も幼い頃から怖い話が好きだった。それがきっかけで、富士の樹海に興味を持ったともいえる。
そういったことが理由なのか、私自身も様々な霊障や恐怖体験をしてきた。
今回は私の人生で最も怖かった体験談を書いていこう。
冒頭にある「あの時の出来事は人生で一番怖かった」というものだ。
この話は長くなるため、1話ではおさまらない。
死体を見つけるまでの前置きも含めて、少しずつ分けていくこととする。
【心霊スポット】
日本には数え切れないほどの心霊スポットがある。
有名なのは「八王子城址」や「旧犬鳴トンネル」だろう。
もちろん、富士の樹海もその中の一つである。
遊歩道があり観光地でもあるため、心霊スポットの中で「富士の樹海」は、初心者向けともいわれている。
しかし、霊能者や霊感の強い者は樹海に近づくのも嫌だという。
私の知り合いの霊能者は、自殺者の霊が他の霊を呼び寄せてしまうため、樹海の中は”魑魅魍魎の巣窟“だと話していた。
その霊能者は私を心配して「入る前に必ず手を合わせて、お経を唱えてから入りなさい」と助言してくれた。
樹海の中では多くの不思議なことが起きている。
自殺願望などない、樹海の取材をしていた者が、樹海内で急に自殺念慮にかられてしまったり、自殺遺体のすぐ側に別の遺体があったりなど(広大な森の中で死に場所が偶然一緒だった)……。
このような出来事は、私には樹海の中にいる霊が、生きている人間を引き込もうとしているとしか思えないのだ。
【富士の樹海での恐怖体験】
樹海探索家の中でも代表格といわれている者の多くは、幽霊や霊障などのオカルト話を信じない。
私がお世話になっている探索家も、霊障や心霊体験は全く信じないという。
私は冒頭で書いたように、霊障や心霊体験を信じている。
私は人から悪い気をもらったり、死体や事故現場にとどまっている霊がついてきているといわれたことがある。
心当たりもあり、それらが原因で悩まされたことが多かった。
正直な話、私は樹海との相性がとても悪い。
だからこそ、他の探索家が話さないような「樹海の心霊体験」について話すことができる。
【遺体のある場所】
私が樹海の中で初めて遺体と遭遇したのは、本格的に探索を初めてから『6度目』である。
月に1度は樹海に行っていたので、半年くらい経った時期だった。
探索を始めようとした頃の私は「富士の樹海=遺体が山ほどある」というイメージが強かったため、入ればすぐに見つかるものだと軽く考えていた。
しかし、実際にはそうはいかないのだ。
富士の樹海はとにかく広いため、樹海探索者が最初に当たる壁は
「どこを探せばいいか?」である。
どこからでも入っていけるのが樹海でもあるため、探すべきポイントが重要になってくるのだ。
これについては、ネットよりも樹海について書かれた書籍を参考にするといいだろう。
私が参考にしていた書籍は
・栗原 亨氏の『樹海の歩き方』イースト・プレス刊
・鶴見 済氏の『完全自殺マニュアル』太田出版刊
の2冊だ。
『樹海の歩き方』には、自殺遺体の多いポイントが地図に記されている。
Xポイント、Yポイント、Zポイントのように、地図にアルファベットでポイントが記されているためとてもわかりやすい。
樹海の教科書と呼ばれており、樹海探索者は必ず読んでいるといえるものだ。
『完全自殺マニュアル』にはあらゆる死に方が書かれている。
私はこの本を読んだときはかなりひいてしまったが、100万部を超えたミリオンセラーである。
自殺志願者が多いのか? それとも自殺という未知の領域に興味があるのか?
私は、この2冊に書かれているポイントで多くの遺体を目の当たりにした。
『完全自殺マニュアル』には樹海での死に方と書かれたページがあり、そこにはどこに入ったら死ねるかもかなり細かく書かれている。
まさに死に場所を記した地図だ。
その場所では多くの自殺遺体を目にしたため、この本の影響があるのかもしれない。
遺留品の中に『完全自殺マニュアル』があることも多い。
本をそのまま持ってくる者もいれば、ページをコピーしてくる者もいる。
コピーしたものをラミネート加工している者までいた。
【樹海内の人工色】
次に、樹海探索で大切になってくるのは「五感を使って探す」ということだ。
中でも“視覚”と“嗅覚”は重要である。
樹海を形成する色のほとんどは茶、緑、黒の3色だ。
その中で人工物の色ともいえる、赤、青、黄などの明るい色は樹海内でとにかく目立つ。
樹海を探索する際には、そのような人工色に目を凝らして探していくのだ。
茶色い森の中で、そのような色を見つけた時は、自殺遺体が近くにある可能性が非常に高い。
また、吊るされたロープの真っ直ぐなラインも遺体を見つけるのに役立つ。
自殺の際に使用されたロープは茶や黒に変色していることが多いので、森の中に溶け込んでしまいそうだが、ロープが描く真っ直ぐなラインは、いびつな木の枝の中では逆に不自然で目立つのだ。
不自然なものに目を凝らしていけば、自然と自殺遺体にたどり着くだろう。
【死臭】
これを読んでいる皆さんは、死の香り“死臭”というものを嗅いだことがあるだろうか?
刑事ドラマなどで死体を見つけた際に「ゔっ!!」っと咄嗟に鼻を覆うあの臭いだ。
糞尿の臭いや嘔吐物の臭いでもなく、生ゴミの臭いとも違う。
全ての悪臭が凝縮された臭い、一度嗅いだら二度と忘れることのない臭い、それが“死臭“である。
樹海内で少しでもこのような臭いがしたらほぼ間違いなく、なんらかの死体と遭遇するだろう。
(鹿などの動物の死体の可能性もあるが)
私が初めて自殺遺体と遭遇した時も、この死臭がきっかけだった。
【遺体は簡単には見つからない】
先にも書いたが、私が樹海で初めて自殺遺体と遭遇したのは、探索を始めてから6度目の時である。
樹海探索をしたことがある者ならわかるだろうが、自殺遺体はそう簡単には見つからない。
自分が死を覚悟して樹海に入ったことを想像してほしい。
歩いて5〜10分ほどの場所を死に場所として選ぶだろうか?
私が樹海内で命を断つとしたら、遊歩道からなるべく奥に入り、少しでも最深部に近い場所を死に場所にする。
初めて遺体を見つけたときに話を戻そう。
仲間と一緒に探索を始めたものの、遺体は一向に見つからない。
遺留品があるので、自殺志願者が来ていることは間違いないだろう。
この時の私は探索に慣れていないこともあり、どれだけ歩いても必ずどこかの遊歩道に戻ってしまうということを繰り返していた。
エリアを変えたり、Google MAPで樹海の奥に印を付けて、そこを目標にしたり、様々な工夫をしてみたが遺体にたどり着くことはなかった。
【死の香りに誘われて】
その日は仲間と樹海でも自殺率の高いと思われるエリアを探索していた。
遊歩道を20分ほど歩いた場所に、遺留品と思われるリュックサックが落ちていた。
遊歩道に遺留品が落ちているのは珍しい。何かの前兆かもしれないと思い、その場所から奥へ入ることに決めた。
樹海の奥に向かって歩き始めて2時間ほどすると、目の前に高さ4〜5メートルほどの崖が立ち塞がった。
乗り越えていこうと崖に手をかけた時、どこからか鼻を刺す悪臭が漂ってきた。
周囲を見渡しても何もない。鹿か何かが死んでいるのか? と周囲の地面を探してみたが何も見つからない。
臭いの元を探すべく、当初登る予定だった崖と反対の場所に位置する丘に登ることにした。
丘に登って辺りを見渡すと10メートルほど先に、黒い服を着た首の無い人がこちらを向いて立っているのが見えた……。
次回につづく
文・写真:ココペリコ
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