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「ラジオといるじかん 」Vol.3 『たまむすび』ロスは静かに訪れる / あまのさくや

 絵はんこ作家でエッセイストとしても活躍するあまのさくやさんの連載企画「ラジオといるじかん」の第3回。中学生の頃から、あまのさんの生活の中に必ずあり続けてきた「ラジオ」にまつわる話をメインに、出身地の東京と現在の拠点である岩手県紫波町を行き来しながら仕事をはじめ、さまざまな活動を展開する彼女の視点で感じたこと、思ったことを綴っていただきます。今回は、あまのさんが特に愛聴しており、先月惜しくも最終回を迎えたTBSラジオの『たまむすび』について。同様に『たまむすび』リスナーだった担当者も感心するあまのさんの番組への思いの深さを感じるととともに、あまのさんが心をこめて彫ったオリジナルはんこの愛らしさにもご注目を。

「僕は専門学校の入学金が総額200万円ほどあったのですが、3月ごろに親がおもむろに僕の部屋に来て、『これはあなたの入学にかかる金額です、一度持ってみてください。これを今から入金してきます』と、200万円の札束を見せられました。お、重い!と思いました…!」
                (東京都町田市・RNウミノケイさん)

TBSラジオ『たまむすび』(2023年3月30日放送分より)

この投稿が、しばらく耳に焼き付いて離れなかった。

 長年愛聴していたラジオ番組『たまむすび』が、2023年3月30日、ついに最終回を迎えてしまった。毎回オープニングトークから何となくその日の投稿テーマを決めるこの番組の、11年の歴史に幕を下ろす最終回のテーマは、「現ナマの話」。 あまりの通常営業、相変わらずの無茶ぶりの設定テーマに、この投稿は見事なまでにマッチしていた。なんと感動的な最終回だろうか。

 そんなテーマになったのは、最終週を迎えてそれぞれの曜日ごとのパートナーが思い思いの贈り物や言葉を用意するなか、木曜パートナーの土屋礼央さん、愛称「れおれお」が赤江珠緒さんに手渡した封筒の中に…家族全員で行けるディズニーランドのフリーパスチケット…ではなく「現金」が入っていた、という事件が発端だ。

れお「赤江さんごめ〜〜ん! 違うのよ〜! 違うの! フリーパス、いま一時的に買えないらしいの〜! だからもう、現金渡すしか方法がなかったの…! 手描きのミッキーでごめん! 全部俺が描いた〜!」
赤江「これ、れおれおが描いたの!? 本当だ、中国のミッキーみたい! ディズニーパークチケット大人二人分と子供一人分の現金(笑)! リアルに400円とか入ってる!」
れお「一番ハイシーズンでも行ける値段がそれだったから!」

*れおれおの声は半泣き声で脳内再生してください。

 100円単位でチケット代を計算する細かさを発揮しながらも、買うタイミングを逃してしまっている、れおれおのその愛らしさに赤江さんも爆笑している。楽しそうな赤江さんの笑い声を聞くと、ああ、この人は本当にれおれおのことが、パートナーのことが好きで、リスナーやスタッフのこと、まわりの人たちのことも本当に想ってくれていると伝わってくる。赤江さんがもたらす時間は、そういう愛に満ちている。

 れおれおについていえば、たまむすびの木曜日・前パートナーのピエール瀧さんから受け継いだバトンは、本当に重いものだったと思うし、最初はどうしても瀧さんロスのなかで違和感を感じる瞬間はあった。なのにいつの間にか、れおれおの考えすぎて何周かしてしまうような空回りを見たり、赤江さんが巻き起こす不思議すぎる行動への生身のリアクションに共感を覚えたり、愛あるものへ急に早口になってしまうあの感じ、そんな人柄にほだされ、いつの間にか周囲のたまむすびリスナーとも「木曜『たまむすび』、いいよねぇ」と話すようになっていた。れおれおは後継番組の『こねくと』でも引き続き木曜パートナーをつとめ、初回のオープニングトークの時点で、メインパーソナリティの石山蓮華さんと軽やかな掛け合いをしていた。この人は本当に、人をほぐすのが上手なひとだ。

 改編期を経たラジオは、惜しまれながら終わる番組があり、新しいパーソナリティを迎えた番組が始まる。その「ロス」の気持ちと、新しく挑戦する人のぎこちなさを初々しく眺める、その交差点で少しもぞもぞしてしまうのが、この4月。

 いつもの番組はいつものように聴いているのだけれど、正直言って、今月はあまり他にラジオを聴けていない。新しい布陣を迎えて、どうだろう、楽しそうだなと思う番組もあって、聴いたりもする。だけどちょっと、耳が疲れる。テレビだって改編期を迎えて、アナウンサーや演者が入れ替わったりもしているはずなのに、思い入れの違いだろうけれど、私はそこに違和感は特に感じない。だけどラジオはあまりに別物だ。音だけで聴いている番組の声が変わるということは、日常がぐるんとひっくりかえる感覚がある。

 『たまむすび』が終了して、水曜パートナーの博多大吉さんが、赤江さんがふらりと戻って来れるような場所を作ろうと、ポッドキャスト番組を始めた。『大吉ポッドキャスト いったん、ここにいます!』という番組だ。第1回目が配信されるや否や食い入るように聞き始めたら、大吉さんの声はすでに懐かしい響きがして、なんだかちょっと泣きそうになってしまった。大吉さんは、赤江さんから「第1回目のゲストに出ましょうか?」という打診があった後、すぐに「先ほどのことは忘れてください」という取り消し連絡があったというエピソードを明かした。その一連の話を聞いて、ホッとした自分がいた。番組が終わったという事実に、赤江さんも慣れていなくて、挙動不審な行動をしてしまっているということに(苦笑)。

 新しいパーソナリティさんたちが新しく日常を作ろうとしている現在進行形の「いま」に、私は、若干ビハインド気味でついて行っている感じだ。「ロス」というのは、「ズドーン!」という形ではなく、気づけば「スッ」とそこにいるものなのね。

 4月後半にさしかかった日、一通のハガキが家のポストに届いていた。リスナーにとってはなじみのあるタッチの、「つきこ」さんのイラストが入ったハガキ。それはなんと、赤江さんからの直筆のお手紙だった。

 番組終了の最終週、きっとリスナーさんからのお便りが殺到しているであろう時期に、私は番組宛に、手彫りのはんこを贈った。

 本当はもっと前に贈ろうと思っていたのに、結局最後に滑り込む形となった。赤江さんやパーソナリティさんが見ていたブース内の景色、そこにあるものを少しでもはんこに残せたら、あの日常をもっとありありと思い出せたりはしないだろうか。そんな思いで、各パーソナリティの似顔絵と合わせて、はんこを彫った。もしかしたら、娘さんのピン太郎ちゃんもぽんぽんと押して遊んでくれたなら、赤江さんと思い出が共有できるのかもしれないし、特に遊ばれなくてもいい。完全に一方的で、自己満足なラブレターだった。なのに赤江さんは、私の住所と名前も丁寧に手書きし、お手紙を書いてくれた。誰に書いて、誰に書いていない、そんな区別をしているのかどうかはわからない。だけど赤江さんのことだから、きっと時間をかけてじっくりと、リスナーさんにお返事をしているのではないだろうか。

 そういう意味でも、赤江さんはまだたまむすびのある日常を完全に終えていないのかもしれない。だけどお手紙を書くことは、きっとピン太郎ちゃんの隣でもできる。じっくりと時間をかけて赤江さんが作っている新しい日常を想像しながら、私も、新番組になにか投稿でもしてみようか、となんとなく思った。

文・イラスト:あまのさくや

【著者プロフィール】
あまのさくや

絵はんこ作家、エッセイスト。チェコ親善アンバサダー。カリフォルニア生まれ、東京育ち。現在は岩手県・紫波町に移住。「ZINEづくり部」を発足し、自分にしか作れないものを創作し続ける楽しさを伝えるワークショップも行う。著書に『32歳。いきなり介護がやってきたー時をかける認知症の父と、がんの母と』(佼成出版社)、『チェコに学ぶ「作る」の魔力』(かもがわ出版)ほか。
SNSは、Twitterアカウント(@sakuhanjyo)、Instagram(https://www.instagram.com/sakuhanjyo/)、また、noteで自身のマガジンも展開中。

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