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「ラジオといるじかん 」Vol.7 「聴くラヂヲといるじかん」

絵はんこ作家でエッセイストとしても活躍するあまのさくやさんの連載企画「ラジオといるじかん」の第7回。今回は、ギャグ漫画家としてカルトな人気を誇る和田ラヂヲさんの『ニンジニアネットワーク 和田ラヂヲの、聴くラヂヲ2』について。エフエム愛媛で名前を変え、約10年近く続いている番組で、コミックの作風となんとなく近いような声と乾いた呟きが独特な趣を醸しだす……。その魅力をつぶさに語るあまのさんの視点に、ラジオ愛を感じずにいられません! 

「コシヒカリってあれ、どういう意味なの?
“コシ”が、光ってたのかなぁ?」

『ニンジニアネットワーク 和田ラヂヲの、聴くラヂヲ2』(エムエム愛媛)より(以下同)

 耳が空いている時間はたいてい、ラジオと一緒にいる。当たり前のようにかけていて、一字一句逃さないように耳を澄ましているわけでもないが、たまに強く残る言葉がある。この日は、和田ラヂヲさんが低音ボイスでつぶやいたそんな疑問が耳に残った。

スタッフ「(コシって)つやのこと?」
ラヂヲ「お米のコシ?が、光るの?」
スタッフ「(調べた情報によると)あ、北陸地方はかつて、「越の国」だから……」
ラヂヲ「ああ、越が、光ってたのか」

 ああ。着地点含め、どうでもいい。なんてことのない会話だ。コシヒカリ。お米も、それを原料にしたせんべいだって人生で何度となく食べてきたのに、私は「コシヒカリがどういう意味か」を考えてこなかった。その後続いた話題「ひとめぼれ」の名前は公募で決まったらしい、という情報まで含めても結局わりとどうでもいい。知りたいのは答えではない。だけど私はこういう会話が聞きたくて、ラジオを聴いていると言っても過言ではない。

 聴いていたのは、『ニンジニアネットワーク 和田ラヂヲの、聴くラヂヲ2』。漫画家・和田ラヂヲさんがディレクターさんと一緒にトークしつつ、投稿のネタをひたすら読み上げていくゆるいバラエティ番組だ。エフエム愛媛、エフエム香川、岡山エフエム放送で放送されているが、ポッドキャストでも聴くことができる。
 実はかなり久しぶりに聴いたら、いつのまにか『聴くラヂヲ』は『聴くラヂヲ2』になっていたし、2になってからすでに4年半も経っていた。しかし4年半ぶりに聴いた番組は、当時のディレクター九官鳥さんが、ピスタチオさんとゆうとさんという2人に代わっていた、という点以外はほとんど何も変わっていなくて驚いた。もちろん構成やネタ募集のコーナーは変わっているけれど、一社提供の「ニンジニアネットワーク」さんの変わらない不思議なラジオCMも、和田ラヂヲさんの淡々とした低音つぶやきのキレも全く変わっていない。

 ラヂヲさんの低音ボイスは本当に良いのだ。なんだか胎教にも良さそうな気がするくらい、産んだこともない私にも、心地よく響いてくる。しかも5分に1回くらい、そのボイスで、ラヂヲさんの漫画に描かれる世界、そのままの発想のさりげない一言が胸を、いや耳を刺してきて、クスッと笑ってしまう。

「調味料が余って困ります」というリスナーからのお便りに対し、ラヂヲさんが答える。

「困るよねぇ。ナンプラーとか。ナンプラーは一滴単位で売って欲しいよねぇ」

 「一滴単位で売ってほしい」――聴きながら、我が家の冷蔵庫に眠る、1年前に数滴使ったきりのナンプラーを思い出す。今日はエスニックな気分、でもそこまで本格味にしたいわけじゃない、なんちゃってエスニックの日にほしいナンプラーは、たしかにせいぜい5滴くらいだ。スーパーの一角に、一滴単位のナンプラーを販売する自販機があったなら……という想像まで和田ラヂヲさんの漫画のタッチで勝手に脳内再生されてしまうのだから、世界観が徹底している。

 番組はネタコーナー以外に、通常のおたよりを読み上げる「ラージメール」コーナーがある。ここではスタッフさんがリスナーさんからのお便りを読み上げる中で、ラヂヲさんが随時反応しながら会話をしていく。

「ラジオネーム、「個室最高」さん(よりお便り)。ラヂヲ先生、ピスタチオさん、ゆうとさんこんばんは。以前からずっと楽しく拝聴していたのですが、このたび、入退院を繰り返す病となったことで、聴くラヂヲのありがたさをひしひしと感じました。
重い内容がほぼないので聞き流すにはもちろん…」
 
ラヂヲ「ええっ!? あるつもりでやってるのにな、社会派なんだけどな
 
リスナー「こちらも中身を忘れているため、何度同じ内容を聴いて何度も同じ回を聴いて楽しめるし、先生方の声のトーンが心地よいです。ときどき入院された方が愛聴されていると投稿されていますが私も身をもって経験中です。私の心身が救われます」
 
ラヂヲ「ぼくも入院経験あるからね。なんだっけ。整形じゃないよ。胆のう摘出手術して。胆汁というのを出す器官なんだけど、油物とか食べたら胆汁で油を分解して。おなかをくださないようにする器官なんだけどね。それがちょっと」
 
ディレクター「え、大丈夫なんですか?」
 
ラヂヲ「うーん。大丈夫じゃないね。帰ろかな(笑)。両親が胆のうやってたら気をつけたほうがいいですよ。聞いたほうがいい。「胆のうやってる?」「やってるやってる!」って。(笑)うちなんか2人ともやってたから超エリートなんだ。だいたい親がやってる病気は、気をつけたほうがいいですよね。まあ、頑張って入退院繰り返してください。そんなこと言ったらダメだけど(笑)、頑張ってください。アーカイブいっぱいあるんで」

「頑張って入退院繰り返してください」―これもまた、この日、妙に耳に残ってしまったフレーズの一つだ。そこだけ変に切り取ったら炎上してしまいそうな際どいフレーズだけれど、その響きに愛を感じる。今までに聞いたことがありそうで、ない。「入退院を繰り返す病気になった」のはリスナーさんの直面する現実。その現実を「聴くラヂヲ」とともに生きているリスナーさんに対する、ラヂヲさんの敬愛のことば。こういう温度が何年も続くからクセになって、みんな聴き続けては、戻ってきたりするのだろう。

「最近困ってることありますか?」という質問に対して、番組最後に差し込まれた話。

ラヂヲ「この間俺、すごいこと考えたんだよ。綿菓子あるじゃん、お祭りの屋台とかで売ってる。あれにヘリウムガス入れて、浮かしたら売れるんかな。ひらめいたんだよ、綿菓子のこと考えてたら」
 
スタッフ「夏っぽいですね(笑)」
 
ラヂヲ「あれ、もしかしてこれ浮かしたら売れるんちゃうかなって。浮かないやつと浮くやつあったら浮くやつ買うよね」
 
スタッフ「味が変化なければ」
 
ラヂヲ「調べたんだけど、ないんだよね、浮く綿菓子。ヘリウムと綿菓子が、メントスとコーラみたいな感じで、爆発したらやばいけど。なんかあんのかなぁ、できないのかな。一応Googleで調べても出てこないんだよね。でもこれって難しいじゃない。儲けれるようで儲けれないじゃん。真似されたらそれで終わっちゃうから。こういうのはどういうことになるんだろうね。さっそくこれ聴いて真似されたらアウトだよね」
 
スタッフ「じゃあオンエアまでにどうにか」
 
ラヂヲ「無理だろ。つまり最近困っていることといえば、これをどうしたらいいか、ってことかな」

 なんて社会派のラジオなのだろう。
 意味もない、他愛もない、隣の誰かの会話。そんなものを聴くために、私はいつも、ラジオといる。

「ラシンクゥ?」は、一度でも「聴くラヂヲ」を聴いたら耳から離れなくなる魔法の呪文。

文・イラスト:あまのさくや

【著者プロフィール】
あまのさくや

絵はんこ作家、エッセイスト。チェコ親善アンバサダー。カリフォルニア生まれ、東京育ち。現在は岩手県・紫波町に移住。「ZINEづくり部」を発足し、自分にしか作れないものを創作し続ける楽しさを伝えるワークショップも行う。著書に『32歳。いきなり介護がやってきたー時をかける認知症の父と、がんの母と』(佼成出版社)、『チェコに学ぶ「作る」の魔力』(かもがわ出版)ほか。
SNSは、Twitterアカウント(@sakuhanjyo)、Instagram(https://www.instagram.com/sakuhanjyo/)、また、noteで自身のマガジンも展開中。

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