耳が空いている時間はたいてい、ラジオと一緒にいる。当たり前のようにかけていて、一字一句逃さないように耳を澄ましているわけでもないが、たまに強く残る言葉がある。この日は、和田ラヂヲさんが低音ボイスでつぶやいたそんな疑問が耳に残った。
ああ。着地点含め、どうでもいい。なんてことのない会話だ。コシヒカリ。お米も、それを原料にしたせんべいだって人生で何度となく食べてきたのに、私は「コシヒカリがどういう意味か」を考えてこなかった。その後続いた話題「ひとめぼれ」の名前は公募で決まったらしい、という情報まで含めても結局わりとどうでもいい。知りたいのは答えではない。だけど私はこういう会話が聞きたくて、ラジオを聴いていると言っても過言ではない。
聴いていたのは、『ニンジニアネットワーク 和田ラヂヲの、聴くラヂヲ2』。漫画家・和田ラヂヲさんがディレクターさんと一緒にトークしつつ、投稿のネタをひたすら読み上げていくゆるいバラエティ番組だ。エフエム愛媛、エフエム香川、岡山エフエム放送で放送されているが、ポッドキャストでも聴くことができる。
実はかなり久しぶりに聴いたら、いつのまにか『聴くラヂヲ』は『聴くラヂヲ2』になっていたし、2になってからすでに4年半も経っていた。しかし4年半ぶりに聴いた番組は、当時のディレクター九官鳥さんが、ピスタチオさんとゆうとさんという2人に代わっていた、という点以外はほとんど何も変わっていなくて驚いた。もちろん構成やネタ募集のコーナーは変わっているけれど、一社提供の「ニンジニアネットワーク」さんの変わらない不思議なラジオCMも、和田ラヂヲさんの淡々とした低音つぶやきのキレも全く変わっていない。
ラヂヲさんの低音ボイスは本当に良いのだ。なんだか胎教にも良さそうな気がするくらい、産んだこともない私にも、心地よく響いてくる。しかも5分に1回くらい、そのボイスで、ラヂヲさんの漫画に描かれる世界、そのままの発想のさりげない一言が胸を、いや耳を刺してきて、クスッと笑ってしまう。
「調味料が余って困ります」というリスナーからのお便りに対し、ラヂヲさんが答える。
「一滴単位で売ってほしい」――聴きながら、我が家の冷蔵庫に眠る、1年前に数滴使ったきりのナンプラーを思い出す。今日はエスニックな気分、でもそこまで本格味にしたいわけじゃない、なんちゃってエスニックの日にほしいナンプラーは、たしかにせいぜい5滴くらいだ。スーパーの一角に、一滴単位のナンプラーを販売する自販機があったなら……という想像まで和田ラヂヲさんの漫画のタッチで勝手に脳内再生されてしまうのだから、世界観が徹底している。
番組はネタコーナー以外に、通常のおたよりを読み上げる「ラージメール」コーナーがある。ここではスタッフさんがリスナーさんからのお便りを読み上げる中で、ラヂヲさんが随時反応しながら会話をしていく。
「頑張って入退院繰り返してください」―これもまた、この日、妙に耳に残ってしまったフレーズの一つだ。そこだけ変に切り取ったら炎上してしまいそうな際どいフレーズだけれど、その響きに愛を感じる。今までに聞いたことがありそうで、ない。「入退院を繰り返す病気になった」のはリスナーさんの直面する現実。その現実を「聴くラヂヲ」とともに生きているリスナーさんに対する、ラヂヲさんの敬愛のことば。こういう温度が何年も続くからクセになって、みんな聴き続けては、戻ってきたりするのだろう。
「最近困ってることありますか?」という質問に対して、番組最後に差し込まれた話。
なんて社会派のラジオなのだろう。
意味もない、他愛もない、隣の誰かの会話。そんなものを聴くために、私はいつも、ラジオといる。
文・イラスト:あまのさくや