書評・磯部涼『ルポ川崎』
僕がそもそもこの本を手に取ろうと思ったのは、大前提としてSNSの誕生で住む場所、働く場所、生まれた場所と、どんどん場所から解放されていっている現代だからこそ、ローカリズムが逆に気になってきてる。
どこに住んでたとしてもインターネットがあればどこにでも(知識として)いけるし、SNSにログインすれば誰にでもコミュニケーションができる。だからこそ、ローカルのカルチャーが自分たちの人生にどんな影響を与えるのかっていうのが最近特に知りたかった。
それと川崎区で結成されたヒップホップグループBAD HOPの活躍ぶりと、川崎をレペゼンしてるのを聴いて川崎にすごい興味があった。VICEの川崎特集もエンタメとして、カルチャー紹介としてめちゃくちゃ面白かった。
『ルポ川崎』は川崎の重要人物の証言をオムニバス形式で掲載することで、川崎のローカルカルチャーや表面的なものじゃない川崎の歴史が浮かび上がってくる。
個人的に一番好きだったのが、story7の“スケーターの滑走が描くもうひとつの世界”の章。スケートショップ[ゴールドフィッシュ]の店主である通称コボさんの証言から浮かび上がる、川崎ローカリズム。
「自分たちが住んでる街でやれることなんて限られてるじゃないですか。新しいビルがどんどん建つわけじゃないし、ストリートで滑る際のスポットも昔からあるものを使うしかない。そういう中でレコードを塗り替えていくのが楽しい。ハル君の世代も僕らの世代も飛べなかったステア(階段)で、ある日、新しい世代がメイク(技を成功)する。その光景を見るのは、同じ土地で長くやってることの醍醐味ですよね」それは、路上で積み重ねられていく、川崎のもうひとつの歴史である。
『ルポ川崎』には僕が探している疑問の明確な答えは書いていない。だけど、なんとなく伝わってくるものがある。
それはローカリズムとは、自分とその場所の間に起こる小さな物語だ。場所に根差した、自分と自分の仲間が主人公の物語。
SNSがいくらどんどん浸透していっても、なくすべきじゃないものだと思う。
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