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“いつものカフェ”から飛び出して

”いつものカフェ”

会社勤めの頃、仕事終わりにほぼ毎日のように通っていたカフェチェーン店があった。
そこに行けば「お疲れ様です」と笑顔で疲れを労ってくれる店員さんがいたし、「いつものでいいですか」「ハチミツ多めに入れときますね」と私の好みを知り尽くして、得意げにラテを作ってくれるお茶目で可愛らしい店員さんもいた。

駅中のチェーン店なだけあってお客さんはいつも多くザワザワとしていたが、コーヒーは美味しかったし、顔馴染みの店員さんもいて、他のカフェに寄ろうという発想そのものが、私の頭の中からいつのまにか消え去っていた。
"現状維持の居心地の良さ"から脱するのは、当時の私には至難の業だったらしい。


きっかけはエッセイ本

他のカフェにも行ってみようと思い立ったのは、先日読んだある一冊の本だった。

僕のマリさんの著書『常識のない喫茶店』

僕のマリさん著『常識のない喫茶店』。
はじめは小説かと思って読み出したほどに、“事実は小説よりも奇なり”なエッセイだった。ここで内容に関して深く語ることは控えておくが、人にオススメしたいくらい、非常に楽しませてもらったとだけ言っておこう。

読みながら、「こんな喫茶店が近くにもないだろうか」と、いろんなカフェを巡りたくなる冒険心を駆り立てられた。そしてなにより、「この本を素敵なカフェで読みたい」と、その一心で、数年前に徒歩圏内にできていたカフェに、初めて足を踏み入れた。

そのカフェ自体をとても気に入ったわけではなかったものの、そこからのカフェ巡りは“まだ行ったことのないカフェ”を目指すようになった。

そして今日、とてつもなく好みのカフェに出会った。


お気に入りとの出会い

そこは、半年ほど前にできたカフェだった。大通りから外れた路地に入ったところにあり、そこにカフェがあったことすら認識できていないような場所に”それ”はあった。建物からしてお洒落で、入る前から少しワクワクしていた。

いざ中に入ってみると、白とグリーンとライトウッドでまとめられた内装に、オレンジの優しいダウンライトが心地いい、そんなカフェだった。
客席の一部が美術館のような現代アートの個展スペースになっていたり、南国風のイスとテーブルでまとめられたテラス席があったり、私の口角は上がりっぱなしだった。
その中でも私は、小説からビジネス書、中には英書まで並べられた、本棚の前の席を選んだ。

本来は2つの用事の隙間時間で訪れたカフェで、日常の手続き書類を書くつもりでいた私。だけどこんな素敵な場所に来てそうはしていられないと、本を読んだり個展を見て回ったり、思う存分この時間を楽しんだ。

もちろん飲み物も非常に美味しかった。
シンプルだけど最後まで飽きない、丁度いい甘さのコーヒーフラッペ。
また来た時には別のものも飲んでみたいと思う。

BGMも落ち着いた雰囲気の洋楽で私好みだったし、人も多すぎず、店員さんも丁寧なのにオーバーサービスではなくて心地いい。

"オーバーサービス"

私が勝手にそう呼んでいるものだが、「お客様」だからと言って、過剰にぺこぺこされるのが私はどこか苦手なようで。知らない人の貼り付けたような笑顔ももしかすると、少し苦手なのかもしれない。
いい意味で"放っておいてもらえる"。
そんな空間が、とても居心地良かった。

"いつもの"

それはとても安心できる響きだけれど、もしかすると段々とぬるま湯になっていくものなのかもしれない。

そこから脱した先に、また素敵な出会いもあって、また新しい自分にも出会えるのだろうと思う。

今日は幸せな発見をした一日だった。
これからまた色んな場所を巡り歩こう。
その結果もっと素敵な場所を見つけてしまったら、それもきっと、また一興。
だけど、「やっぱりここが一番よかった」そう思った時には、南国家具に囲まれた、あのテラス席に今度は座ってみるとしよう。

“いつものカフェ”から飛び出して、新たな私に会いにゆく。
ここまで読んでくれたあなたの元にも、素敵な出会いがありますように。


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