蜥蜴と尻尾
目の前に尻尾がある。
これは随分前に切り離したものだ。
あの時僕は天敵に襲われていて、必死に逃げていた。
そんなこともあったなと、自分だったものを見ながら懐かしむ。
目の前に尻尾がある。
これは少し前に切り離したものだ。
新しい環境に適応するためには、形を整える必要があった。
これこそが、自分が生きていく術なんだと僕は悟った。
目の前に尻尾がある。
これは最近切り離したものだ。
好きな人と一緒にいるためには、これは切り離さなければいけなかったんだ。
今となっては、これはもう僕ではない。
目の前に尻尾がある。
これはこれから切り離すものだ。
上手に生きていくためには、きっと必要のないものなんだ。
自分を切り離す事で、ようやく生きることができる。
そう言って、僕は僕を切り離した。
それは少しの間まるで生きているかのように蠢いていたが、やがて静かになった。
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