あのね、
あの人は窓側、1番後ろの席。
私は廊下側、1番前の席。
それは、まるで私たちを表すようだった。
友達が多いあの人と、
片手もいらない私。
気さくでクラスの中心なあの人と、
引っ込み思案で文字通り端っこにいる私。
「あんまり話したことなかったよね?」
わかってる、あなたはそういう人だ。
何が頼み事があった訳でもない。
まぬけかと思ってしまうくらい純粋な顔で話しかけてきて、気づけば相手を笑顔にしてしまう。
あなたのお陰で、私が周りにどう言われているのかも知らずに。
クラスの何人もが、あなたに好意を抱いている理由を再認識させられた。
ある放課後の教室。
「あのね、この前借りた本を返したいんだけど…」
どうやら内容が難しかったらしく、感想会という名の質問攻めを食らうことになった。
完璧だと思っていたキミにもこんな一面があるのか、と少し驚いてしまったが、
同時に愛おしくも感じていた。
「あのね、私、」
口をついて出た言葉だった。
自分が何を言ったかなんて覚えてもいない。
ただそこにあったのは、
夕陽のせいで頬が赤くなった私と、
今まで見たことのない表情を見せたあの人だった。