大学生になりたての人に送っていた言葉たち その5
注:この文章の経緯についてはその0をごらんください。その4の続きです。
前回,高校と大学の勉強には「範囲が決まっていないこと」「教える人が『教育』の訓練を受けていないこと」の二つの違いがあるという話をしました。今回は「じゃあ,どうしたらいいの?何に気をつけたらいいの?」という点について話を進めたいと思います。
傾向と対策:「100点を目指さない」
まずは,完璧を目指して頑張りすぎない,ということです。これは特に,高校までの勉強をよく頑張ってきて,評定4.5オーバーみたいな人に声を大にして言いたいです。そういう人は,先生の話をきちんと聞いて,板書もちゃんととって,課された宿題もしっかりこなしてきたのでしょう。高校までは大体の先生が「真面目にやりさえすればちゃんとこなせる,理解できる」ことを想定して授業してくれます。でも,大学の先生はそうとは限りません。わからない講義も終わらない課題もあります。そのときに自信喪失して「自分はダメだ」とか思ってしまったらもったいないのです。学生の努力不足だけが原因ではないのですから。「ここまではわかったけど,ここから先は何を言っているかわからなかった」「課題1と2はできたけど,3はわからなかった」が認識できたら収穫あり。できなかったことだけじゃなくて,わかったこと,できるようになったことをちゃんと数えましょう。そして,途中まで頑張った課題は完璧じゃなくても期限までに提出しましょう。時々,完全にできなかったから課題を提出しない,という学生がいます。そのプライドは成長の邪魔になります。今の自分の実力ではここまで,ということを認めて提出しましょう。私は学生に「あなたのプライドより納期が大事です」って言っちゃってました。
全てを完璧にこなせる学生はいないし,学生のためになる完全な講義を毎回展開できる教員もいません。それでも学べるし成長はできます。向上心と呼べるものを超えて自分に不満を持ったり,教員に過剰に期待したりするのは色々無駄かな,と思います。これからの人生,「説明が上手な人からしか学ばない」という態度ではなかなか渡っていけません。どんな人からも,何かしらの情報を引き出すことが必要になります。大学の教員は,少なくとも講義の内容に学生よりも長い時間,多くの労力をかけて取り組んできた人です。学べることがないはずないです。与えられるのを待つのではなく,こちらから取りに行く気持ちで講義に臨んでもらえれば,学生側にも教員側にもメリットがあります。
傾向と対策:「話の幹をつかむ」
大学の先生の話を全部理解できなかったとしても,「何についてのべているのか」「重要なことはなんなのか」をつかむことは大切です。大学の特に初年時の講義で語られることはその学問の基礎の部分,今後の知識を増やすための土台になるところです。高校までに学んできたこと,今までに持っている知識とどのようにつながるのか,今後どのような話題に発展するのかに注意して聞いてほしいです。枝葉を理解できなくてもまあ気にしない,「幹」がどこにあるのかを見つけましょう。新しい勉強を始める時に,最初に「幹」を持てるかどうかでその後の知識のつき方の速度が変わります。本当に何も知らない時は,どんな情報を浴びても何も残りませんが,自分の中に幹があると身の回りの出来事,本で読んだこと,ネットで見たことなどの情報が引っかかって自分の知識になっていくのです。独学ではなくて大学に来て勉強することの意味はそこ,つまり講義を聞くことで最初に幹を作れることにあると思います。
高校での勉強をしっかりしてきた人は,よく耕されたふかふかの土壌を持っていることでしょう。きっと深く根を下ろした丈夫な幹を立てることができると思います。
傾向と対策:「気づきを大事にする」
とはいえ,よくわからない話を興味を持って聞き続けるのは難しいことです。そういうときは,自分の中に起こった引っかかりを拾ってメモしておきましょう(次回ノートの取り方でも取り上げます)。この言葉は繰り返し出てきたな,前の先生の話とちょっと違うな,この前のニュースの話題かな,ここは何を言ってるか,意味わからんな,などなど。「幹」をもとに考える癖がついてくると気づきがたくさん出てくるようになると思います。ただ,気にしないでいると自分に気づきがあったことに気づけません。ぜひ意識してみてください。
傾向と対策(理系向けの番外編):「とにかく手を動かす」
餅大では文系の学生を教えていたのでこの話はしていませんでしたが,私の専門は物理なので理系の学生向けに。
学部によるとは思いますが,大学に入って数学,物理などの科目が「微積分」「統計」「線形代数」「力学」「電磁気学」などと細かくなってその全部で今まで見たことのない記号や言葉が出てきて面食らっちゃう人,購入した教科書の中身が呪文すぎて途方にくれる人,いると思います。これを解消するにはとにかく例題を解いてみることです。眺めるだけじゃダメで,ちゃんと計算します。例題の解法が詳しく出ている教科書なら,その解法を書き写してもいいから自分で計算してみます(心を込めれば「写経」でも勉強になります)。もし,教科書の例題が何を言っているかわからないレベルだったら,一段簡単なものを図書館などで借りてくると良いでしょう。何十問もやる必要はないので,1,2問,式変形をていねいに追って解けば,考え方や言葉の使い方に慣れていきます。
物理の人は計算することをよく「手を動かす」と表現します。計算は頭でするものではなくて手でするものなのです。手が新しい概念を覚えていく感覚です。楽器の演奏や運動に近い感覚かもしれません。数学や物理の勉強は一種の技術なので反復練習が必要なのです。理系の学部ではたくさん宿題,課題が出されると思いますが,それは「訓練しなさいよ」という意味です。あと,特に女子学生に多いのが「わかんない,わかんない」と口に出しながら勉強するタイプの人。これは自分でできなくなる暗示をかけながら勉強しているようなものなのでやめた方がいいと思いますよ。。。
色々偉そうに,断定口調で書きました。これも一教員のたわごとですから,全て正しいと思わなくて良いです。一つの意見として自分の参考になりそうなことを取り入れてもらえたらと思います。
次回から章が変わり,大学で学ぶ時のスキル「スタディスキルズ」について取り上げたいと思います。