『MIU404』と『ラストマイル』と私
※『アンナチュラル』、『MIU404』、『ラストマイル』の微ネタバレを含みます。
『MIU404』放送当時、私は受験生だった。
ずっと目標だった県大会に行ける切符は、あの感染症流行でただの紙切れとなった。そして、気付けば休校が決まり、友人に会えなくなって気分は今までにないくらい落ち込んだ。人生のどん底という言葉がぴったりだった。
そんな中で、来年の3月に後悔のないような結果をつかみ取れるように勉強しろと言われても、到底できなかった。今落ち込んでいるのに、未来のために頑張るなんて無理だった。
学校が再開して中間テストも終わり、少しずつ学校生活が戻ってきていても空元気だった。そんなときのある日、母がドラマを見ていた。
「綾野剛と星野源。そういえば、CMでドラマが始まると言っていたけど、もう放送していたのか」
お風呂から上がって寝る前に勉強しようと思ったが、なんだか乗り気にならなくて一緒にソファに座って横で見た。
夕焼けと少し陰った富士山とパトカーの赤いランプ。そして、手錠をかけられた男が頭を下げる。
加々見が逮捕されるシーンでぐっと惹きつけられた。ストーリーにも、展開の速さにも、演者の演技にも惹きつけられたが、何よりもキャラクターたちが私たちと同じ世界で生きているように錯覚する演出と映像美に惹きつけられた。
3話からは毎週リアタイをし、土日に1回、平日に1回復習をする、1話を計3回見るという生活が始まった。ただ不確定な将来のために勉強をする日々が、『MIU404』を見ることをご褒美に勉強に励む生活になった。
『MIU404』がなかったら、私は潰れていたと思う。放送が終わってからも、メモリアルブックにメロンパン号のキャラバン、円盤の発売が生きがいだった。
何とか志望校に合格し、大学生活を送りながら続編が出ないかと待ち続けていると、去年の12月に『ラストマイル』の公開のニュースが飛び込んできた。そして、年が明けた今年の4月には『アンナチュラル』と『MIU404』の世界線と同じ、「シェアード・ユニバース」として『ラストマイル』が描かれると続報を知った。寝起きにその知らせを見たときは一気に目が覚め、今までにないくらい嬉しかった。
本当に待ち続けて良かった。伊吹の言ったとおり、「生きてりゃあ何回でも勝つチャンスがある!」だと思った。何に勝つのかは分かんないけれども。
そして今日、待ちに待った『ラストマイル』を鑑賞してきた。期待以上に遥かに最高な映画で、爆弾よりももっと重く、これからじっくり考えたい大切なものが届いた。抱えきれないけれども、誰かと話して少しずつ開封していきたい荷物だった。
映画を鑑賞後に思ったことを少し、振り返ろうと思う。
まず、「便利さは誰かの働きによって成り立っている」というメッセージにはっとさせられた。気付いているつもりでも、本当に理解できていたかと聞かれれば、そうではなかった。恥ずかしながら、自分のために働いてくれている、と実感できたときにしか感謝していなかった。
そして、「この社会では、目には映らないたくさんの人たちがバトンを繋いでいる」ことにも気が付いた。誰かが働いてくれているからこそ、今の生活は成り立っていることを改めて実感し、目の前の人だけでなく、社会を支えている・担っているすべての人々に感謝の言葉を述べたいと思った。
この映画を観た後にふと自分のことを振り返ってみると、最近は来年から社会人として働き始めることに漠然とした不安を抱いていたと感じた。
社会に出ても、役に立たないかもしれないという自分への過小評価と、働いている姿をしっかりと描くことができていないことが不安に繋がっていたと思う。
でも、『ラストマイル』を観たことで、それは違うと断言できる。
中堂さんに「許されるように、生きろ」と言われた白井くんは、六郎の元に医療品を届けていた。
高校生のときに虚偽通報事件を起こして捕まった勝俣は、4機捜となって陣馬さんとコンビを組み、事件の解決に挑んでいた。
ミコトと東海林、六郎、中堂さんが白井くんの自殺を止めたことが、伊吹と志摩が勝俣を捕まえたことがスイッチとなり、二人の人生を「正しい道に戻し」た。彼らが無我夢中で仕事を全うした結果、白井くんと勝俣にバトンが渡され、そのバトンをいろんな人に繋いでいるのだと思う。
模試や共通テストの前にトイレで「生きてりゃあ何回でも勝つチャンスがある!」とつぶやいていて自分を鼓舞していた私も、野木先生や塚原監督、新井Pからのバトンを渡されたのだと思う。だからこそ、今までがむしゃらに前を向いて、時に立ち止まったり、後ろを振り返ったりして歩けたのだと思う。多分、社会に出たとしても変わらないはずだ。
人間は間違うし、見たいものだけを見るし、人は神にはなれない。
でも、誰かの心を動かしたり、一人ではできないことも誰かと一緒に声を上げれば叶えられることもたくさんある。
うずくまりそうになったときに、また『アンナチュラル』、『MIU404』、そして『ラストマイル』の登場人物たちを思い出して立ち上がりたいと思う。
最後に、野木先生、塚原監督、新井Pをはじめとする制作陣の方々、このような最高な映画を作っていただき、ありがとうございました。
今まで生きてきたことに対するご褒美のような映画でした。