見出し画像

小説|聞こえない鐘の音

 とある国では長く戦争が続いていました。多くの人が戦い、傷を負い、涙を流しました。なぜこれほど苦しまないといけないのか。敵も味方もなく、誰もが同じことを思っていました。

 時は流れ、戦争を始めた王様は病で倒れます。代わりに就いた王様は心やさしい人でした。すぐさま戦争をやめ、国は平和になりました。王様は言います。「二度と戦争が起こらぬよう、平和をたたえる鐘を鳴らし続けよう」

 毎日、昼夜をとわず、鐘は鳴り続けます。人々は平和を喜び、穏やかな生活を心から楽しみました。鐘のおかげで、平和は長く続きました。何週間も、何か月も、何年も、何十年間も鐘は国中に響き渡りました。

 やがて、人々は鳴り響く鐘の音を気にとめなくなりました。生まれたときから鳴っているので、慣れてしまったのです。それでも鐘は鳴り続けます。次に人々が耳をすませるのは、鐘の音が止まったときかもしれません。






ショートショート No.26

いただいたサポートで牛乳を買って金曜夜に一杯やります。