キンモクセイと暮らす
木の実と葉の色が気になる季節となれば、高い夕空の底で柔らかく香るのはキンモクセイです。
子どもの頃、いえ、白状すると恥ずかしながら、いい大人になるまで、キンモクセイの香りこそ知っていれど、存在を気に留めていませんでした。その香りは、私のなかで秋の澄んだ風にふくまれる、当たりまえの存在だったようです。
ところで、秋といえば読書です。次に読む本は何にしようかと考えながら歩いていると、近所の花屋さんにキンモクセイの枝物がありました。
迷うことなく、私は家にキンモクセイをお迎えしました。橙色が秋の夕映えらしくみえます。見た目もさることながら、やはり香りがいい。
この香りが懐かしく感じられるのはなぜでしょう。昔は正体も分からなかった香りなのに、旧友に出会ったような気持ちになります。子どもの頃、名前も知らずに友だちになれた、あの子に出会ったかのような温かさがあります。
懐かしい橙色の香りで思い出したのは、先日買った HAMPSTEAD のカモミールティーです。ロンドンで最初のオーガニック紅茶メーカーとのこと。パッケージが好みで、ついつい手にとってしまったものです。
ティーバッグの包装も秋めいてみえますね。カフェインレスだから夜の読書にもぴったりではありませんか。
キンモクセイの香りも、カモミールの香りも、どちらも穏やかでやさしいからか、ぶつからずに溶け合うようです。
カモミールティーの黄金色から秋の夕日を隠す雲の縁の輝きが思い起こされます。かつて夕雲が藍色に染まるまで入り浸った学校の図書室も、開け放たれた窓からキンモクセイが香っていたのでしょうか。
Un gourmand A PARIS は、フランスはブルターニュ地方で創業したマドレーヌケーキのメーカーで、こちらはクッキーです。これもまたパッケージに惹かれてキンモクセイと一緒の帰り道で買いました(10% OFFのシールが貼られていたのを撮影のために剥がしたのは秘密)。
クッキーにしては、ちょっと厚めの姿が可愛らしく思われます。もしも人だったら、名前を知らなくても友だちになれそうな雰囲気があります。
そうして揃った秋の読書のお供たち。キンモクセイの薫るなか、マドレーヌをそのままクッキーにしたかのように芳しいお菓子を含み、カモミールティーをいただきます。
仕事で忙しない日常から少しだけ離れて、他に誰もいないあの頃の図書室で、名前も知らないあの子と静かに本を読んでいる気持ちになります。
お忙しい日々を過ごされているみなさまも、キンモクセイをおうちに飾ってみてはいかがでしょうか? ふしぎと心穏やかになれますよ。
それではまた!