第三話 『コテンシ』
すると、ガラガラ…と玄関が空き、なんとなく聴き覚えのある声がした。
「こんにちは〜。納品だよー」
現れたのは真っ青なおかっぱ頭に黄色く光る輪っかを乗せ、背中に羽根の生えた小さなこどもだった。
「あ、ソルくん!ありがとう。そこに置いておいて。今取りにいくから」
そういうと、店主は陳列されていたヘビの目を取り、入口へ向かった。
「やぁ、ソルくん、いつもありがとうね。ところでコレ、新作なんだけど試しにつけてみない?…」
"ソルくん"と呼ばれたその子は、話を聞いてるのか聞いてないのか、店主越しに店の奥を覗き込む。
「あれ、接客中だった?ごめんね。…あ、スライドの子…ふふ」
目が合うと何故か笑われた。
…スライドの子?
ー『それ、スライドじゃなくて手前に引くんだよ』
「あ!思い出した!!入口で助けてくれた人!!」
「え、なに、2人知り合いなの??」
店主が驚いたように尋ねる。
「いえ、入口で…入り方が分からなくて困っていたら声をかけてくれたんです。通りでなんとなく聴き覚えのある声」
「こんにちは。ボクはsol。コテンシだよ」
そう言って頭の輪っかと背中の羽根をみせる。
「ボクはこのお店に薬草や毒草、魔法道具の素材の納品をしているよ。今後このお店に来た時は顔を合わせることになるだろうから、よろしくね!あ、コマンドラもこんにちは」
そう言ってソルは店主の肩の上のコマンドラと握手をしている。
当の店主は早く喋りたそうにうずうずしている。
「さて、挨拶は済んだかな?コレ、新作なんだけど、試してくれないかな!この子が興味を持ってくれたからぜひ紹介したいんだよ」
店主がコテンシのソルに何かお願いしている。
「え!新作できたの??やるやる〜!実験台歓迎!!」
ソルの嬉しそうな反応に店主は少し膨れっ面で答える。
「もう、商品としては完成してるから実験じゃないよ。お試し、したいでしょ?」
「したいしたい〜」
どうやら交渉は成立したようだ。
先ほどの『henshin no eyes』なるものをソルくんが使って見せてくれるらしい。
「ふーん、これはブローチになってるんだ。それじゃあお気に入りの帽子につけて三つ目にしよ〜。うん、やっぱ可愛いー。さぁ、開け!henshin no eyes!」
ブローチをつけた帽子を被ると、みるみるうちに見た目が変化していった。瞳孔は縦長に、頬には鱗が、舌も長く先割れになっているようだ。
「ほう、見た目が変わるタイプか」
店主は納得したように呟くと、説明を付け加える。
「とまぁ、このように、見た目が変わる場合もあるし、見た目は変わらず効果だけ発揮することもある。ソルくん、なにか心境の変化はないかい?」
「なんとなく、いつもより頭が冴えてるきがする。ところで、この魔道具試したら、なんか喉が乾いて来ちゃったな…変身してるから魔力も結構使ってるし…。楽しいから全然いいんだけど、何か飲みものが欲しいなぁ。ボク、魔力の回復にはちょっと高いけど、○○(ブランド)の☆☆☆☆って飲み物が効果的で…」
「分かったよ!試してくれたお礼に、それをご馳走させて。ソルくん、少しの間だけお店任せてもいいかな。すぐ帰ってくるけどね!じゃあ、よろしく!」
そう言って店主は出て行ってしまった。
私、居るんだけどな…。お客、なんだけどな…。
ソルくんは信頼されてるんだな。
そう思ったのも束の間、ソルの驚いた、嬉しそうな声が聞こえた。
「わ〜、やった。ラッキー!!アレ、いつもは頼んでも買ってくれないのに。『嗜好品にしては高すぎる!他のものでも魔力の補給は出来るでしょ!』って。ヘビは賢くて交渉術に長けてるって話もあるけど、本当にそうなんだ!!」
…恐るべし魔道具の力。
つづく。
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