大阪市の神社と狛犬 ㉒住吉区 ①住吉大社(その9)~船玉神社の狛犬~
大阪市住吉区の地図と神社
大阪市には、現在24の行政区があります。住吉区は、大阪市の最南部に位置し、大和川を隔てた南は堺市になります。この辺りは、古代には「すみのえ」と呼ばれた海に面した地域で、海上安全の守護神として名高い住吉大社とともに栄えてきました。また、大阪と泉州・紀州を結ぶ紀州街道や熊野街道などの交通の要衝でもありました。
住吉区には由緒ある古い神社がいくつもありますが、まずは摂津国一之宮である住吉大社へお参りするところから始めたいと思います。大阪人にとっては「すみよっさん」と親しまれている神社です。今回は住吉大社の9回目(その9)になります。
住吉大社のすぐ前の道路には、阪堺線の「住吉鳥居前駅」があります。また、この道路を挟んで西側に南海本線「住吉大社駅」があり、交通の便に恵まれています。
住吉大社
■所在地 〒558-0045 大阪市住吉区住吉2-9-89
■主祭神 底筒男命、中筒男命、表筒男命、息長足姫命(神功皇后)
住吉大社には10対を超える狛犬が安置されている。正面の神門(幸寿門)の南の角に幸福門がある。この門の近くに摂社船玉神社が鎮座し、今回の狛犬9が安置されている。
船玉神社
船や飛行機の安全を守る神様
住吉大社の境内には、大海神社・志賀神社・船玉神社・若宮八幡宮の四社の摂社があるが、この中で石造狛犬を安置しているのは、大海神社と船玉神社の二社である。表参道の太鼓橋(反橋)を渡り、神門(幸寿門)の手前を右に折れると、池大雅筆の石灯籠や川端康成の「反橋」の石碑などがあり、左手に船玉神社の小さなお社が見える。
江戸時代に出版された「摂津名所図会」(1798)では、船玉社は第四本宮の正面に描かれているが、瑞垣内の拡張工事によって昭和45年(1970)に現在地に移築されたという。
神額には「舩玉神社」と書かれている。「船玉」の「玉」は「魂」であり、「船魂」とは船舶そのものの神霊のことである。「船玉」は船の守護神として、古くから信仰を集めてきた。
祭神は天鳥船命と猿田彦神の二神。「天鳥船」とは、高天原と葦原中国との間を、鳥のような速さで往来する神の乗り物を指す。猿田彦命は、境界にあって悪神・邪霊の侵入を遮る神でもあり、道路往来の守護神でもある。ここでは、航路往来の守護神として祀られている。
この神社で興味深いのは、航海の神であるにとどまらず、現在では航空の神様としても信仰されていることだ。社殿の扉には、日本古来の菱垣船や帆走船、上部には二機の飛行機が描かれており、全国的にも珍しい扉絵になっている。
狛犬9
■奉献年 文化十三子年三月吉日(1816)
■作者 不明
■材質 砂岩
■設置 摂社・船玉神社前
「浪華菱垣廻舩」奉納の狛犬
船玉神社の社殿の前には、像高70cm足らずの砂岩製の狛犬が安置されている。台座には次のような銘が刻まれている。
「文化十三子年」は西暦1816年に当たる。今から200年余り以前に奉納された狛犬は、さすがに損傷があるが、全盛期の浪速狛犬の姿を今に残してくれている。
台座正面の「浪華菱垣廻舩」の文字の後には、左右それぞれ5名ずつ、「小堀屋力蔵」以下10名の寄進者の名前が記されている。
菱垣廻船とは、江戸時代に、大坂などの上方と江戸の消費地を結んだ廻船(貨物船)の名称で、両舷に菱組みの格子を組んだ装飾をつけたことから、「菱垣」廻船と呼ばれた。最盛期には160隻ほどが就航していて、大坂からは、木綿、油、酒、しょうゆなどの日常生活必需物資を積んで江戸へ廻送した。
船玉神社の浪速狛犬は、海の神様住吉神をお祀りする住吉大社ならではの狛犬といえるだろう。