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7月の俳句(2023)

文月晦日

今日で7月も終わる。
気候の変化の大きかった今月だが、いまはすっかり夏真っ盛りだ。
7月の陰暦名は「文月」。「ふみづき」とも「ふづき」ともいう。文月の語源は、短冊に歌や文字を書き、書道の上達を祈った七夕の行事に因む「文披月(ふみひらきづき・ふみひろげづき)」が転じたとする説が有力とされている。
また、稲穂が膨らむ月であることから、「穂含月(ほふみづき)」と呼んだことが語源であるという説もある。
いずれにしても、昔の風習や稲作と関わる名前が多い。

「晦日(みそか)」の読みは「三十日みそか」から来ている。陰暦の大の月は30日。「晦」の字を充てるのは、月のない「くらい」夜だからだ。
しかし、太陽暦の7月末の月は、半月を少し膨らませた形をしていた。

半月の残り隠して月終る


半夏生、そして七夕

「はんげつ」の音続きで「はんげしょう」を連想した。
夏至から11日目にあたる7月2日からの5日間を「半夏生はんげしょう」と呼んでいる。昔の人は、この頃までに田植えを終えたという。
半夏生が過ぎれば、二十四節気の「小暑」。「小」とはいうものの、すでに連日30度超えの真夏日が続く。関西が梅雨入りして早くもひと月以上が経ち、6月ほどの雨は降らなくなった。晴れた日は、庭の草木ものどが渇くようだ。

水撒きて蚊に喰はれたる小暑かな

今年の小暑の日は「七夕」だった。短冊や飾りをつける笹は、いつも私が用意する。といっても、近所はかつては竹藪がいっぱいあった場所で、今でもそこここに残っている。夜、小さな笹を1本、こっそりいただきに行く。

半夏生夜陰に笹をとりに行く

もうすぐ9歳になる孫が、このところ毎朝課題にしていることがある。新聞の「しつもん!ドラえもん」を切り取って貼り付け、わからない言葉を調べることと、百人一首から毎日一首選んで書き留め、暗記することである。

昨日は大伴家持の歌だった。

かささぎの 渡せる橋に おく霜の 白きを見れば 夜ぞ更けにける

もちろんこれは「冬」の歌だが、その背景には、七夕の天の川の風景がある・・・とあらためて知った。
「かささぎの渡せる橋」とは、七夕の日、織姫と彦星を逢わせるため、たくさんのかささぎが翼を連ねて天の川に橋をつくったという伝説によるもので、「霜」はここでは「天上に散らばる星」のたとえである。
だから家持は、地面に降りた「霜」を見て詠んだのではなく、冬の夜空にちりばめられた星を見てこの歌を詠んだのですね。

七夕や淡き浪漫の幾星霜


ある日の夜、子どもたちが家で綿菓子を作って持ってきてくれた。作ったときはフワフワと膨らんでいるが、持ってくる途中で半分くらいの大きさまでしぼんでしまう。砂糖の甘さが懐かしい。

綿菓子の溶けて消えたり宵の雨


7月11日

六月飛雪

7月11日、朝日新聞の天声人語に、「6月に雪が飛ぶ」という記事が載った。「六月飛雪」というそうだ。『竇娥冤とうがえん』という元曲が出典で、冤罪で処刑された女性が、「処刑された自分の血は旗に飛び移り、真夏に雪が降り、楚州に三年間干ばつが続く」と言い残したことによる。その後、彼女の言葉は現実になった。
この日の朝刊のトップは、袴田事件の検察が再審で有罪を立証すると発表した記事だった。天声人語氏は、それを受けて「六月飛雪」の記事を書く。

罪なきに六月飛雪天も泣く

大阪も京都も、この日も無慈悲な炎天だった。


炎天の京都

この日、京都市京セラ美術館「ルーヴル美術館展 愛を描く」という展覧会をみてきた。ルーブルには38万点を超える美術品が収蔵されている。その中から国外に持ってきて展覧会を開くには、テーマを絞るしかない。ということで、今回の展覧会のテーマは「愛」。

♥ルーブルには愛がある♥

LOUVREに秘めたる愛や古都の夏


かつては展覧会場での撮影はまず不可能だったが、最近は少しずつ許容されるようになってきた。今回の「ルーブル美術館展」では、最終展示室のみ撮影可だった。
ところが、・・・この日はスマホを家に忘れて出てきてしまったのだ。もう作品の印象を目に焼き付けるしかない。

梅雨晴れやスマホなき身の軽さかな

冷房の効いた美術館を出ると、外はクラクラするような真昼の炎天だった。平安神宮への参道で蚤の市が開かれていて、たくさんのテントが張られている。

炎天に揺らぐ昭和の蚤の市

地下鉄で四条駅に移動する。地上に出ると、あちこちで山鉾建てが行われていた。この数日で23基の山鉾が組み立てられる。7月の京都は祇園祭一色である。

鉾建ての縄目うるはし京の夏


蝉・せみ・セミ・・・

夏休み。一日が蝉の鳴き声で始まる。ほとんどがクマゼミで、アブラゼミも混じっている。早朝から鳴きだした蝉の声がしずまるのが10時頃。気温や日差しによって、鳴く時間帯が決まるようだ。午後になるとクマゼミはほとんど鳴かないが、アブラゼミは時々鳴いている。

地面から地上に現れた蝉の幼虫は、近くの木や草にのぼり、やがて成虫になって飛び立っていく。

手の届かないくらい高い梢までよじのぼる幼虫もいれば、地面のすぐそばで早々と羽化を始めるものもいる。

蝉柄のぱかりと開きて主のなき

早朝の水撒く空に蝉の声

地上に現れた幼虫が、すべて無事に羽化して成虫になるとは限らない。枝にしがみつく蝉柄の中には、まだエメラルド色の体を残したまま力尽きたものも見かける。

一方、生を全うしたものも、遠からずして死を迎える。

一匹の蝉仰向きて居り送り盆

夏蝉の烏に喰はれ静まりぬ

道路の向こうの木の枝にカラスが一羽止まっていた。一匹の蝉がせわしなく鳴いている、と思うと、そのカラスがあっという間に蝉を嘴でとらえた。
ジジジジジ・・・
ひとしきり大きな鳴き声が聞こえたが、すぐに静かになった。

蝉採りも、孫の日課である。毎日飽きもせず、虫かごを肩に掛けて出かける。カブトムシを持って帰ってきたこともあった。蝉は逃がしてやるが、カブトムシは飼育箱で飼うことになった。

ミニトマト人より先に食ふカブト


梅雨明け

7月中旬から、大阪ではほとんど雨が降らなくなった。しかし九州や東北では、線状降水帯が発生して大きな被害が出ている。
24日、関西の梅雨明けが宣言された。子供たちはすでに夏休みに入り、本格的な夏がやって来た。

桃の実の落ち始めたり梅雨の明け

庭の片隅にあるハマユウが花をつけた。長細い大きな蕾をつけた茎がぐんぐん伸びてきて、破裂するように花開いた。

浜木綿の蕾はじけて夏盛る

浜木綿に波の音聴く昼下がり

梅雨が明けたこの7月24日は、芥川龍之介の忌日「河童忌」だった。書架に並んだ本の中から、芥川の背表紙をさがす。

河童忌や古き栞の文庫本


カブトムシ死す

毎朝メダカに餌をやり、カブトムシの飼育箱を確認する。カブトムシは土の中に潜っていることが多い。しかしこの朝、カブトムシは脚を縮めた姿で土の上でじっとしていた。二度と動かないという姿勢で・・・。
昆虫好きの孫が、お墓を作るという。花を一輪飾る。

兜虫土に還りて花一輪


明日から8月。月が替わるからといって、何が変わるというわけではないが、気持ちの奥のあたりをキュッと締めて、新しい朝を迎えたい。



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