大阪市の神社と狛犬 ⑯天王寺区 ⑥久保神社~完成された姿で端座する青銅製狛犬~
大阪市天王寺区の地図と神社
大阪市には、現在24の行政区があります。天王寺区は大阪市の中南部に位置し、区域の大半は南北にのびる上町台地上にあります。区名は、聖徳太子建立の日本最古の官営寺院である四天王寺に由来します。区内には約200の社寺があるほか、名所旧跡も多く、歴史と伝統の息づく町といえます。
天王寺区には、神社が11社あります。そのうちの1社は、生野区にある弥栄神社の御旅所です。
今回参拝する久保神社は、四天王寺七宮の一つで、願成就宮と言われています。最寄り駅のJR環状線寺田町駅から、北へ徒歩で10分ほどの場所に鎮座します。
久保神社
■所在地 〒543-0043 大阪市天王寺区勝山2-5-14
■主祭神 天照大御神
■由緒 聖徳太子が四天王寺創建の際に建立した四天王寺七宮の一つで、社名は、かつてこの辺りが窪地であったことに由来するのか。旧久保村の産土神である。明治40年(1907)に生野国分の村社稲生神社と熊野大神宮を合祀したことから、相殿神として熊野大神(速素盞男尊・伊邪那岐尊・伊邪那美尊)と宇賀御霊神をお祀りする。
神社の南側の正面鳥居以外に、西側と東南角にも鳥居がある。正面鳥居から参拝すると、拝殿前に置かれた青銅製の狛犬が目に入る。この久保神社で天王寺区6社目だが、ここまで3社に青銅製狛犬があった。
狛犬1
■奉献年 昭和十年十一月(1935)
■作者 原型 伊藤保齋 鋳造 伊藤鋳造所
■材質 青銅製
■設置 拝殿前
昭和10年(1935)奉納の青銅製狛犬。原型を作成した伊藤保齋という人物も、狛犬の鋳造を行った伊藤鋳造所も、今となっては不明である。
堂々とした安定感のある立派な狛犬である。太くつり上がった眉と後方に靡くような耳、顔の周りで大きく渦を巻いて盛り上がる毛並みも太い流れ毛も力強い。尻尾もたくさんの巻毛の上に毛房が炎のように立ち上がる。
胸に飾りの付いた帯をつけているのは、宋風獅子の影響が感じられる。
バランス、落ち着いた迫力、技量、どれをとっても素晴らしい青銅製狛犬である。
狛犬2
■奉献年 平成十一年三月吉日(1999)修復
■作者 不明
■材質 花崗岩
■設置 境内東南鳥居前
久保神社には、境内の東南角にも鳥居があり、平成の新しい狛犬が安置されている。狛犬の第一台座には「平成十一年三月吉日修復」という文字が彫られている。「修復」の意味がよくわからない。その下の「奉獻」と記された台石以下は古いもので、先代の狛犬が坐していたのだろう。「修復」とは狛犬の代替わりをいうのだろうか。
古い台座の紀年銘は「文化十三年 丙子十一月」と読める。200年前の浪速狛犬はどこへ行ってしまったのだろうか。『狛犬の研究ー大阪府の狛犬ー』(奈良文化財同好会)によると、先代の狛犬は「大坂橫堀 西川屋五良兵衛」の作という。台座のどこかに石工銘があるようだが、見逃してしまった。平成の初め頃には阿形の損傷がひどく、吽形のみのなっていたらしい。
狛犬3
■奉献年 平成十一年五月吉日(1999)修復
■作者 不明
■材質 花崗岩
■設置 境内社(方除神社・白龍神社)前
境内社の方除神社・白龍神社の前にも平成の新しい狛犬が置かれている。
台座はこちらも先代のものを利用していて、「文政元寅年八月吉日」の文字がある。文政の浪速狛犬も平成の初め頃まではあったようだが、新しい狛犬と代替わりしたあと、処分されたのだろうか。神社のどこかに保管されていればよいのだが・・・。