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2024年10月の俳句
神無月
全国の神々が出雲大社に集まって、諸国が「神無しになる月」と言われる「神無月」。江戸時代の川柳の句集である「誹風柳多留」には、次のような狛犬の句がある。
駒犬もねぶるやふなり神の留守
「神の留守」は俳句の世界でも初冬の季語で、陰暦十月には諸国の神々が出雲に集まるため、各地の神社にまつられている神がいなくなる。社前の狛犬も神様が留守の間は、守るべきものもなく、静かに眠っているようだというのである。
駒犬ハ膝もくづさぬ神の留守
こちらも「神の留守」を詠んだ句だが、こちらの狛犬はのんびりしていない。神の留守の間も、「膝もくづさず」律儀に神殿を守っている狛犬の真面目な姿が目に浮かぶ。ちょっと滑稽にも見える。
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古くから陰暦10月は「神のいない月」と言われてきたが、最近は「神な月」は「神の月」だとも言われている。
上代では、格助詞の「な」に、「まなかひ(目交ひ・眼間)」や「みなと(水な門・港)」のように連体修飾の「の」の意味があった。
2024年の旧暦カレンダーを見ると、旧暦10月1日は現在の11月1日になるようだ。二十四節気の「立冬」は、11月7日という。
この季節感のずれは、10月の下旬になってもいまだに「夏日」が続く状況では、ますます大きくなっている。
10月は各地の神社で祭礼が行われる。いわゆる「秋祭り」である。その意味でも「神の月」と考えると肯ける。
地元の伊射奈岐神社でも、10月13日に「太鼓御輿巡幸」の秋祭りが盛大に行われた。まさに「神の月」の祭りである。
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神の月祭り太鼓の勇ましき
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山田伊射奈岐神社の太鼓神輿巡幸は、吹田市の無形民俗文化財の第一号として登録された神事である。太鼓神輿を担ぐのは、山田にある5つの地区(上・中・下・別所・小川)の若手で構成する「担手」で、神輿には「乗子」と呼ばれる各地区の小学4年生の男子が乗る。
早朝の「担出し」から夜の「宮入り」まで、太鼓神輿は旧山田村の各地を練り歩く。「乗子」の子供たちは、この間いっさい地面にからだが触れてはいけないことになっている。
宮入りを終えた太鼓神輿は、神社に収められる。
宮入りを終えて神輿の静まれり
夜になっても神社の境内は賑やかだ。参道にずらりと並ぶ露店には、大勢の人が並んでいる。家族連れもいるが、中高生や若者が圧倒的に多い。
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伊射奈岐神社を出て、旧山田村の狭い道をたどって帰途につく。最近は新しく建った家が多いが、瓦屋根の旧家も所々に残っていて、神社の祭礼の日には、門の前に提灯を掲げる。太鼓神輿巡幸も終わり、夜も更けてきたからか、すでに提灯のあかりを落としている家もあった。
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祭礼の提灯消えて村静か
秋の風情
10月初旬。久しぶりに散髪をした。薬のせいで頭髪が抜けて寂しくなってきた。これまでなら、とうに散髪屋に行ってたはずだが、入退院の繰り返しだったので、行く機会を逸していた。
髪を切ってさっぱりした帰り、いつもよく通る道端で彼岸花を見つけた。まさに「発見」という言葉がぴったりする。なぜ、いつから、こんなところに?
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彼岸花いつからここにいるのやら
翌日、4年生の孫(SAYA)と近くの紫金山公園に行った。紫金山を中心にして周辺のエリアに広場がある。吉志部瓦窯跡や須恵器窯跡などの史跡も残っている。吹田市立博物館や吉志部神社もあり、楽しめる場所だ。
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公園で遊んでいると、向こうからひとりのお婆さんがやって来た。手に何か持っている。無言で、こちらに差し出した手に、ミルキーがのっている。「大阪のおばちゃん」は、いつも「あめちゃん」を持っているというけれど、「おばあちゃん」もそうなんだ。
2つもらって、SAYAと一つずつして口に入れる。「ミルキーはママの味」という懐かしいフレーズを思い出した。
天高くミルキーくれる老婆あり
10月8日は、二十四節気の「寒露」だった。昼間はまだ暑い日が続くが、暦だけは秋から冬へと急いでいる。
この日は前夜から降った雨のせいか、少し肌寒い朝を迎えた。中庭に出て見ると、雨粒が草の葉の上で丸く並んでいる。
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降り残る雨粒宿る寒露かな
夜の散歩に行くと、暗闇のどこかから金木犀の香りがする。足元ですだく虫の声も聞こえる。空を見上げると、少し膨らんだ半月が浮かんでいる。
半月の中天にあり虫の声
10月15日は十三夜だった。十五夜が中国から伝わった風習であるのに対して、十三夜は日本独自のものらしい。ちょうど栗や豆が収穫できる時期で、旬のものをお供えしてお月見をしたことから、「栗名月」や「豆名月」とも呼ばれる。
小夜更けて欠けたるぞよき十三夜
人生は長し短し十三夜
虫の声といえば、夜の散歩をしていると、街路樹の上で鳴いている虫がいる。「リーリーリー」と、大きな声で鳴く。気になったので調べると、「アオマツムシ」というらしい。日本在来の「マツムシ」とはまったく関係がなく、外来種だそうだ。
秋深し木の上で鳴く虫もあり
「カマキリ」が秋の季語だと知った。俳句ではよく「蟷螂」という言葉を使う。
朝、メダカに餌をやるためにベランダに出ると、水槽の浄水装置にカマキリがとまっていた。なぜこんなところにいるのか、まさかメダカを食べに来たわけではないだろう。捕まえると、威嚇するように鎌を振り上げる。庭に向かって逃がしてやると、羽を広げて少し飛んだあと着地した。
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蟷螂の斧のむなしく空を切り
この時期、二十四節気や七十二候を見ていると、いかにも寒々とした呼び名が並んでいる。先の「寒露」に続くのが10月23日の「霜降」だった。さすがにまだ霜の降りる季節ではないが、少し冷たい雨が降った。
翌日から、今月2回目になる化学療法。日曜日の衆議院選挙の日の体調がわからないので、期日前投票に出かける。
霜降や少し冷たき雨に濡れ
霜降の時期の七十二候には「霎時施」というのがある。「こさめときどきふる」と読むそうだ。いわゆる「時雨」をさす言葉らしい。今の時期に降るのは「秋時雨」と呼ばれる。
日曜日の衆議院選挙の結果が出た。案の定、自公過半数割れという厳しい内容だった。当然と言えば当然だけど、「裏金問題」など目先の問題だけで出た結果だとは思いたくない。もっと大事なことがいくらでもあるはずだ。それも踏まえた選挙結果であってほしい。
政権に厳しき朝や秋時雨
弱気
10月下旬に入った頃だった。高校時代のクラスのLINEに訃報が入った。10年近く病と闘ってきたMが亡くなったという。スマホを持つ手が震えた。目頭が熱くなった。自分が闘病生活に入って以来、時々Mのことを思いだしていた。秋になれば、西ノ京に住むMのもとを訪れたいと考えていた。
しかし遠出もままならず、連絡もとらないうちに、Mは逝ってしまった。
Mが亡くなったのは10月11日だったそうだ。この日は種田山頭火の忌日「一草忌」にあたる。漂泊の俳人山頭火が、晩年に四国の松山で暮らした庵の名前「一草庵」に由来している。
山頭火は膨大な数の俳句を残しているが、その中に次のような句がある。
もう逢へない顔と顔とでほゝゑむ
自分でも追悼の句を詠んだが、暗い悲しいだけになってしまう。Mとはもう会えないけど、彼の笑顔を覚えておきたい。
少し弱気になっている理由がもう一つある。薬の副作用だろうが、月末になって、前以上に足に力が入らなくなった。分厚い靴下をはいて冷えないようにしている。末梢神経を麻痺させる薬が抜けるまで数ヶ月はかかるそうだから、しばらく我慢が続くのだろう。
秋冷や神無き月の闇夜かな
11月1日が新月。月がかわれば、空の月もまた新しくなる。気持ちを新たにして今日を生きよう。
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