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アジア紀行~ベトナム・ホーチミン②~

ホーチミン2日目の朝

7時に起床。明け方にまた猛烈な雨が降っていたが、今はもう止んでいる。今日一日の天候が気にかかるが、これだけはなるようにしかならない。
朝一番の仕事は、ベトナム航空のオフィスに出向いて、飛行機のリコンファームをすること。この頃は、まだこのリコンファームが重要だった。以前、インドネシアのスラウェシ島に行ったとき、ウジュンパンダン(現在のマカッサル)の空港で帰りのリコンファームをしたら、飛行機の席がとれていないことが判明して大変だった。それ以来、リコンファームには常に恐怖心がつきまとう。
今回は、「ホーチミン~フエ」の往復便のみ確定できた。日本への帰国便は後日らしい。

ホテル前のグエンフエ通りを1ブロックほど歩くと、ホーチミン人民委員会庁舎の建物がある。かつてのサイゴン市庁舎で、フレンチコロニアル様式の優雅な建造物だ。建物正面前の公園には「建国の父」ホー・チ・ミンのブロンズ像が設置されている。

ホーチミン人民委員会庁舎とホー・チ・ミン像 Wikipediaより

建物の前の階段に腰を下ろして休憩していると、軍服のような服装の男性に注意された。ここに座っていてはいけないらしい。しかたがないので立ち上がって、公園に向かって歩く。

バイクタクシーのニャンさん

歩いていると、観光客だとわかるのか、シクロの若者が声をかけてくる。「シクロ」というのは、前輪2輪後輪1輪の自転車タクシーだ。興味がないので、すぐに断る。今度はバイクの男性が日本語で話しかけてくる。こんなところで日本語を耳にするとは思ってもいなかったので、少し話をしてみる。彼はノートを見せたり、自分の写真が載っていると言って、「るるぶ」を見せて、自分は「ぼったくらないバイクドライバー」であることを、しきりに宣伝する。

「るるぶ」に乗っていたバイクタクシーのニャンさんの写真

彼は自分のことを「ニャンさん」と紹介する。
PHAN  VĂN  NHÂN
これが彼の本名だ。お姉さんが日本人と結婚して奈良に住んでいるという。彼もホーチミンの日本企業の工場で働いた経験があるそうだ。もっとも、どこまでが本当かはわからない。この数年はバイクタクシーの仕事をするようになって、日本語を耳で覚えたそうだ。
その熱心さと日本語のうまさに負けて、「ぼったくらない」善良ドライバーであるという彼の言葉を信じ、1時間2ドルの契約で、「ニャンさん」のバイタクでホーチミン市内観光に出ることになった。

バイタクでホーチミン市内観光

最初に向かったのは、サイゴン大聖堂。別名聖マリア教会だ。宿泊先のアジアン・ホテルからも近い。ここはカトリックの教会として、フランス植民地時代の19世紀末に建設された。高さ約60mにも及ぶ二つの尖塔が美しい。教会の前の聖母マリア像は、1959年に設置されたもの。

次に向かったのは、戦争証跡博物館。ベトナム戦争の歴史を記憶に残す博物館だ。敷地内にはベトナム戦争で使用された戦闘機や戦車が野外展示されている。

入館料10,000ドンを支払って中に入る。展示室は6つあって、写真を中心にベトナム戦争の記録がびっしりと並べられている。ロバート・キャパや、沢田教一、石川文洋など、有名な写真家の作品もあった。枯葉剤の犠牲になった人々の写真や、ホルマリン漬けにされた胎児などもあり、戦争の残酷さや悲惨さを、包み隠さず示そうとする圧倒的な力のようなものを感じた。

観客の中には外国人も多く、アメリカ人らしい年輩の人も見かける。みんなどんな思いで、この展示を眺めているのだろうか。
心にずっしりとくる重い内容だったが、目をそらせてはいけないと思った。1時間あまり見学して建物の外に出ると、ニャンさんがバイクのそばで待っていた。

次の目的地は「ティエンハウ寺」という中国寺院。チョロンという中国人街にある。「ティエンハウ」とは、福建系華僑の多くが信仰する航海安全の守り神「天后聖母」のことだ。このあたりまで来ると、ホーチミンの町の様子がすっかり違ってくる。台湾や香港の下町に似ている。

お寺の中に入ると、外部の喧噪がうそのような静かな空間がそこにあった。渦巻き型の線香がずらりと吊るされていて、独特の香りと煙が漂っている。

ベトナム人の多くは、民間宗教を信仰しているか無宗教かだという。仏教や道教を信じる人もそれほど多くはない。このティエンハウ寺に参拝するのも、ほとんどが中国人である。

表に出ると、子どもが近寄ってきて、手に握りしめた何かを買ってくれと言ってきた。ニャンさんに聞くと、宝くじだそうだ。ニャンさんは「当たらないよ」と言って、子どもを追い返した。この日の夜のことだが、そのニャンさんが、ポケットから宝くじを出して、当選番号と見比べていた。ベトナム人はみんな、宝くじが好きらしい。

このチョロン地区には、ビンタイ市場という巨大な卸売り市場がある。周辺のバイクの混雑は相当なものだ。

ニャンさんの案内で、市場の中を少し歩いた。2階建てで中庭を囲んで、ぎっしりと店が詰まっている。その迫力に最初から圧倒される。落ち着いて見るには、時間がかかりそうだ。
落ち着かない理由がもう一つあった。この日の午後からの予定である。ニャンさんのバイタクは昼で切り上げて、ツーリストの「シンカフェ」(現在は「シン・ツーリスト」)に行くつもりだった。シンカフェで、メコンデルタ・ツアーを申し込もうと考えていた。
そんな雰囲気を察したのか、なんとニャンさんが、午後からミトーへのメコンデルタ・ツアーをしないかと提案してきたのだ。
これは迷うところだ。
さてどうなったのかは、次回のお楽しみに。



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