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アジア紀行~カンボジア・アンコール遺跡の旅⑤~
アンコール・トム
午前中にトンレサップ湖に行った日の午後、再びアンコール遺跡へ向かう。昨日訪れたアンコール・ワットのさらに北側に、広大なアンコール・トムがある。アンコール・トムとは「大きな都」という意味だ。
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この都を完成させたのは、カンボジア王国アンコール朝の王、ジャヤヴァルマン7世である。12世紀末から13世紀初めにかけて建造されたアンコール・トムは、周囲12kmの環濠と高さ8mの城壁に囲まれ、内部にはたくさんの寺院があった。
現地でもらった上の地図ではわからないが、アンコール・ワットの西側の道を北へ行くと、左右に大きな木々が生い茂る気持ちのいい並木道が続く。やがて正面に立派な城門が見えてくる。南大門である。観光用の象が今でも歩いて通る。
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その手前の環濠に架かる橋の両側には、7つ頭のナーガで綱引きをするたくさんの巨像の列がある。神々と阿修羅が蛇の胴体を抱えて左右に対峙している。これはヒンドゥー教の天地創造神話に登場する乳海攪拌の場面である。アンコール・ワットの回廊壁画にもあった。
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橋を渡りきると、目の前にアンコール・トムの南の城門である南大門がそびえている。高さは23mもあり、上部には東西南北をにらむ四面の菩薩像がある。門の入口の幅は象が通れるように造られている。
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城門の左右には、3頭の象の上にインドラ神が乗り、門衛の役割を果たしている。
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橋と城門だけでも見どころ満載だ。なかなか前に進めない。しかし、城門の内部には、もっとすごい世界があるのだろう。
バイヨン寺院
南大門をくぐると、静かな森の中の道という雰囲気の一本道が北へ続く。この道の突き当たりに大きな寺院がある。バイヨン寺院だ。地図を見ると、アンコール・トムの中央、東西南北の城門からの道が交わる位置にこの寺院があることがわかる。
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バイヨン(Bayon)は、ヒンドゥー教と仏教が混交した寺院で、クメール語では「バヨン」の方が近い。baは「美しい」という意味、yonは「塔」の意味を持つ。美しい菩薩の人面塔が林立する不思議な寺院である。
やがて木々の向こうにバイヨン寺院が姿を現した。アンコール・ワットほどには修復が進んでいないのか、石材が散乱している。高さ43mの中央祠堂を中心としてたくさんの人面塔が立ち、周囲に二重の回廊を巡らせているという。上空から見ることができればその形も分かるのだろうが、第一回廊の天井は崩れたままだし、寺院の全体像がまったく見えてこない。
バイヨン寺院の周辺と第一回廊
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シンハとナーガ
ナーガは、インド神話に起源を持つ蛇神である。釈迦が悟りを開く時に守護したとされ、仏教に龍王として取り入れられて、仏法の守護神となっている。原型はコブラのようだが、頭が7つある形で造られることが多い。
一方シンハは、獅子の霊獣である。日本の狛犬とルーツは同じだ。カンボジアの国章にも描かれており、「王」を象徴するシンボルでもある。
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私が訪れた2000年は、アンコール遺跡の修復がまだまだ進んでいませんでした。寺院建築もそうですが、シンハやナーガのような石造霊獣も破損しているものがほとんどでした。
その後、2012年から「バイヨン寺院外回廊のナーガ・シンハ彫像修復プロジェクト」が始まり、81体のナーガ像と22体のシンハ像、そして外回廊全体の欄干(ナーガの胴体)の修復が行われました。このプロジェクトは、同時に遺跡修復人材の育成も兼ねていました。プロジェクトが終了したのは2020年のことです。
今ではもっと整ったバイヨン寺院を見ることができるでしょうね。
林立する仏塔
外側の第一回廊の東門から中に入る。バイヨン寺院の中は、さらに迷路のような回廊が続く。第二回廊の壁面にも浮彫がある。まだまだ修復の途中で、山積みされた石材の表面に逆さになった女神像のレリーフがあったりする。何度も階段を上り下りしながら回廊の内側を歩く。
中央祠堂を囲むようにして、四面菩薩顔のたくさんの仏塔が林立している。
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懐かしいお顔
アンコール・ワットは遠くから眺める姿が美しい。しかしバイヨン寺院は巨大な四面の菩薩と対面する瞬間が最高に魅力的である。
この巨大な顔には見覚えがある。これは法隆寺夢殿の救世観音像のお顔である。飛鳥の止利仏師が心を込めて造った仏の顔がこのカンボジアにある。分厚い唇も杏仁形の目も、どこか懐かしい。
上層への階段を上ると、突然目の前に巨大な菩薩の顔が現れる。中央祠堂とそれを囲む塔の四面に彫られた顔は50面を超えるという。その一つ一つが微妙に異なる笑みを浮かべている。石材の組み合わせ方や、長い年月と風雨による破損や、太陽や雲がつくる陰影など、さまざまな要素が菩薩の顔の表情に変化を与えている。
ワクワクしながら巨大な菩薩面を巡り歩く。あっという間に時間が過ぎていく。午後の強い日差しと暑さで頭がボーッとなっていく。現実から遠く隔たったクメールの世界をさまよっているようだ。
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迷路のような通路を歩いていると、前方の部屋に人がいた。白い僧衣を身につけた僧侶である。仏が安置されているのだろうか。仏具で飾られているようだ。邪魔をしてはいけないので、別の通路に折れる。
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美しいレリーフ・彫刻
回廊の壁面などに美しいレリーフがある。アンコールワットのものよりこちらのほうが、はっきりと彫られているような気がする。
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なにげなく放置されている石材にも彫刻が施されている。一つ一つが貴重な文化財だ。
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バイクタクシーのキーさんとの約束は午後5時半。ここに着いたのが3時頃だったから、いつの間にか2時間以上経っている。半日でも一日でも見飽きることはない。
日が西に傾き、暑さが少しましになった。心残りだが、そろそろ戻らなければいけない。雨季とはいうものの、まだ雨に遭っていないのはラッキーかもしれない。
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