アジア紀行~インドネシア・バリ島男3人漫遊編⑥~
火葬式の朝
8時前に起床。気持ちのいい朝だ。いよいよ大規模な火葬式の当日になった。もっと早く起きようと思っていたのに、よく眠ってしまった。
オープンテラスのレストランに朝食に出向くと、通りで大勢の人々の声がする。表に出ると、ルンブー(lembu)と呼ばれる牛型の棺や獅子型の棺が、太い竹を組んだ上に乗せられて、それを男たちが担いでいる。青い牛の棺には、魚の鰭のようなものがある。カースト(階級)によって棺の種類が異なるようだ。棺は火葬式の行われるモンキーフォレストのプラ・ダラム(Pura Dalam)まで運ばれる。プラ・ダラムは「死者の寺」という意味である。
まるで神輿を担ぐように賑やかだ。次から次へとやって来る。我々の泊まっているクブクの前は、ちょうどモンキーフォレストへの通り道になっている。聞くところによると、今回の葬儀では、棺の数は全部で53あるそうだ。ということは、53人の集団葬儀ということになる。
早々に朝食をすませてモンキーフォレストに向かう。セレモニーは10時から始まると聞いていたが、会場の広場には、すでに大勢の人が集まっている。赤い獅子や黒牛の棺がずらりと並んでいる。
祭壇の上にある白い布でくるまれたものは、掘り出された死者の骨か屍体の一部だろうか。正面の壁には、死者の名前が書いて貼ってある。お供え物もたくさんある。周囲には遺族らしい人々がいる。
前日泊まったウブド・ビューで働いていた男性を見つけたので、手を振って近寄ると、本人ではなくて、その弟だった。とてもよく似ているが、ヒゲがない。黒牛の棺の台座に腰掛けて話をする。赤い獅子の棺よりも黒牛のルンブーのほうが格が上だそうだ。
彼がこのような大きな葬儀を経験したのは、5年前の高校生の頃だったという。今回の葬儀も村中で1ヶ月以上前から準備をしてきたそうだ。
10時開始というのに、儀式はまだ始まりそうにない。人々は急ぐ様子もなく、日本の葬式のような沈んだ雰囲気はまったく感じられない。楽しんでいると言えば語弊があるだろうが、きっとどこか昂揚した気分があるのだろう。
太陽が高く昇ると一気に気温が上がる。日の当たる場所は暑いので、みんな日陰を求めている。すでにフィルム1本を撮り終えたので、新しいフィルムをとりに、一旦クブクに帰ることにする。
いよいよ始まる
1時間後にモンキーフォレストに戻ると、朝の倍ぐらいの人で埋まっていた。外国人観光客も大勢いる。11時頃から僧侶が唱えるお経のようなものが始まった。しばらくすると放送で、外国人は柵の外に出るように伝えられる。内部はやはり聖域なのだ。
ガムランの演奏が始まり、人々が53体の棺の前を順番に回る。スピーカーから流れる声は何を言っているのかわからないが、たぶん死者の名前を順に告げているのだろう。
棺とは別の一画に、たくさんの火葬台が並べてある。台の上に赤や金で飾られた4本の柱が立ち、その上に屋根がつくられている。柱には死者の名札が取り付けられている。台にはなぜか土がのせてある。
日陰のないところでじっと見ていると、たまらなく暑い。シャツに汗がしみ出すのがわかる。人々も日陰に移動している。時間が刻々と過ぎていく。
ルンブー、火葬台に乗る
昼を回り午後1時ごろ、やっと黒牛や赤い獅子の棺を火葬台に乗せる時がやって来た。死者の家族や親戚、隣人の男たちが、棺を担いで我々の前を通って、屋形の火葬台まで運んでいく。それぞれが狭い通路を重い棺を担いでいるので、安置するまでが一騒動だ。
火葬台に乗せられた棺は、倒れないようにしっかり固定される。側面に当たる所の2本の柱の間に絵が飾られる。モチーフはほとんどが地獄絵のようなもので、釜ゆでされている人物や悪鬼に刀で突かれている人物など、さまざまだ。
台座への設置が終わると、棺の背中の部分を開ける。この中に火葬するものを入れるのだ。白布で包まれたものやいろんな供え物を、頭上にのせたり抱えたりして人々が運んでくる。棺の周りを何度か回ってから、一つずつ丁寧に納めていく。体内に入れるものの中心はもちろん遺体だが、死後数年経っている場合が多いので、ほとんどが遺骨である。それから布やお金や食べ物、個人が大切にしていた宝物などを納める。女性は束ねてある髪をほどいて、棺の中に向かって髪を垂らし、体内に頭を入れる動作をする。
この後も、お供え物やいろいろなものが所狭しと棺の周りを埋めていく。柵の外にいた我々外国人もいつの間にか中に入って、バリの人々と混じって大混雑だ。
時計を見ると、午後2時半。暑くてほこりっぽい人混みにいると、かなりくたびれる。まだ火葬は始まりそうにない。いっしょに来ていたMくんとYの姿が見えない。昼ご飯もまだだが、どこかで休憩したいので、一旦モンキーフォレストの外に出る。
昨日の夕方に入ったCAFEに行くと、ここも人がいっぱいだ。注文したジュースとベーコンエッグが出てくるまで1時間近くも待たされた。儀式の進行状況が気がかりになる。5分で食べて店を出て、森へと急ぐ。
モンキーフォレストへの階段をのぼり、人混みを分けて行くと、前方は煙が立ちこめている。いよいよ始まったようだ。
この続きは次回に持ち越します・・・。
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