アジア紀行~タイ・アユタヤ遺跡②~
緑豊かな古都
アユタヤ歴史公園の東を流れるパサック川を渡って園内に入る。いきなり道がのぼり坂になる。王宮を中心としたアユタヤの町は、高台に築かれていたのだろうか。
暑さと勾配に耐えられず、しばらく自転車を押して歩く。
右手に、上部が崩れたままの煉瓦造りの寺院が見える。近づくと「ワット・クマンチャイ」と書かれている。
公園の中はよく整備されていて、緑が豊かだ。古い寺院はすべて煉瓦造りで、完全な形を保っているものはほとんどない。修復も進みつつあるようだが、歴史の流れを空気に感じる。バンコクのきらびやかな寺院を見た同じ目でアユタヤの寺々を見ると、どこか安心できるものがある。来てよかったと思う。
ワット・プララーム
アユタヤ歴史研究センターに立ち寄る。
その先を右折してしばらくすると、左手にトウモロコシかロケットのような形の塔堂がそびえ立っていた。同じ基壇の四隅にも仏塔がある。こちらは「ワット・プララーム」という名の寺院だった。
近くまで行くと、廃墟となった建物の跡や、破壊された仏像が目につく。
上の写真は、この寺院だったのかどうかはっきりしない。しかしビルマとの戦争で破壊された寺院跡がそのまま保存されていることがよくわかる。
ワット・プラシーサンペット
次に向かったところは、三つの仏塔が並び立っている寺院。名前は「ワット・プラシーサンペット」といい、アユタヤ朝の3人の王様の遺骨がそれぞれに納められているという。
突然、強い雨が降り出す。何とか雨宿りをするが、雨のしぶきが風に運ばれてくる。タイは熱帯性モンスーン気候で、8月は雨期のまっただ中。時折スコールがやってくる。しかしたいていの場合、それほど長くは続かない。雨は30分ほど降り続き、小止みになった。
再び自転車にまたがり、次の寺院をめざす。雨で道が悪くなってせいで、自転車の後輪が泥を跳ね上げる。フェンダーがついていないタイプだったので、シャツの背中が泥だらけになってしまった。
ワット・マハタート
「ワット・マハタート」は、アユタヤ遺跡の中でも特に知られた寺院である。「マハタート」とはブッダの遺骨や遺灰の意らしい。
この寺院には、かつてたくさんの石仏があったが、ビルマの侵攻によって、その首が落とされてしまった。仏教国であるビルマ(ミャンマー)が、同じ仏教国であったタイ・アユタヤの寺院を破壊し、仏の首を落としていったという事実は、戦争というものの理不尽さを見事に証明している。
ここには、首を落とされた仏が並び、一方では、落とされた首がガジュマルの根っこに絡め取られて歴史を眺めている。
しかし、いくつもの世紀を越えて、静かな笑みを絶やさずに座し続ける仏様もいらっしゃるのだ。
ワット・ラチャブラナ
ワット・マハタートと道路を挟んで北側に位置するのが、「ワット・ラチャブラナ」だ。この寺院の塔堂もトウモロコシ型で、遠くからもよく見える。
アユタヤ王朝第7代ナカリンタラーティラート王が崩御した後、王位継承をめぐって二人の子どもが争い、相打ちになって死んでしまった。そのため弟が王位につき、サームプラヤー王となった。サームプラヤー王は2人の兄を弔うため、火葬した場所にこの寺院を建立したという。
どの時代にも、血なまぐさい話がつきまとっているんですねえ。
次は、このアユタヤ遺跡でいちばん気になった寺院。
ワット・タンミカラート
「ワット・タンミカラート」は、アユタヤ王朝以前に建立されたと言われている古い寺院だ。
この寺院の最大の特徴は、仏塔の周囲をぐるりと獅子像が取り巻いていること。アユタヤ遺跡にはたくさんの寺院があるが、獅子がいるのはここだけだそうだ。
獅子は仏教の守護獣で、インドや中国でも仏像の台座に彫られていることがある。仏の台座は「獅子座」とも呼ばれる。バンコクの寺院や、お隣のカンボジアでも獅子像はよく見かけたが、このアユタヤで見つけたときは、正直興奮した。
仏塔の一辺に、コーナーの2頭を含めて14頭、全部で52頭の獅子が、外側を向いてぐるっと塔を囲んで護っている。破損したものも多いが、とても珍しい。
草を食べているような獅子の足下に、白い犬がいた。犬といえば、別の寺院遺跡でも見かけたね。
ワット・ロカヤスタ
「ワット・ロカヤスタ」は、ビルマとの戦争で破壊されて廃墟になったまま、今に至る寺院だ。しかし唯一この寺院で復元されたものがある。それが長さ28mに及ぶ涅槃釈迦像である。
復元されたのは1965年のことで、煉瓦と漆喰によって作られた。
全体像はこんな感じです。
〈写真〉 タイNavi https://thailand-navi.com/wat-lokaya-suttha
巨大な涅槃像を見終わったころ、また空からポツポツと雨粒が落ちてきた。本降りになる前にアユタヤ駅まで戻ろうと思って、自転車に乗る。
途中、小学生を満載したトラックが、ぼくの自転車を追い抜いていった。手を振ると、たくさんの小さな手がひらひらした。
アユタヤ駅でバンコクまでの切符を買うと、20バーツだった。行きは15バーツだったと言うと、駅員は「rapidだ」という。
30分以上遅れてやって来た列車はほぼ満席状態。行きはあんなにガラガラだったのに。なんとか席を確保する。
バンコク・フアランポーン駅までの停車駅は、確かに行きの半分以下だったが、バンコクに近づくにつれて停車している時間が長くなった。結局所要時間は行きよりも長かった。「rapid」の意味を問い直さなければいけないかも。
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