#8 高校一年生の春のはなし 昭和55年4月末
こまちんは、中学生時代をひらパー兄さんで有名な大阪府枚方市で過ごし、高校一年から同じ大阪府下でも非常に地味な柏原市というところに引っ越しました。
【注】当時、柏原市にも西日本最古の遊園地と探偵ナイトスクープに紹介された『玉手山遊園地』というのがあったんですが、これもまた地味な遊園地で…
つまり、高校一年からは中学時代と違う学区になった訳です。
自宅から一番近い地元の公立高校に通い始めたこまちん…
当然、校内には一人も友人がいません。
とにかく毎日暇で…
何かクラブ活動でもすればよかったのですが、何となく入学からの1か月をぼんやり過ごしていたように思います。
中学時代、ビートルズにはまり、友人と下手なロックバンドをしていたこまちん…
音楽教室の前を通るたびに聴こえてくるとても残念なホテルカリフォルニアに、どうしようかと迷いつつ、知り合いのいない状態で扉を開くことを躊躇していました。(酒でも入れば大胆になれるんだけど…)
そんなある日、同じクラスの前の席に座っているいがぐり頭の見るからに善良そうな男の子が放課後に音楽教室に入って行くのを見かけます。
この子だったら話しかけられそうだと思ったこまちん…
『なぁなぁ、クラブ見学行きたいんやけど…』
『あ~ん?ええでぇ~♪』
何の屈託も無くあくびのように答えるいがぐり君
その放課後、一緒に音楽教室へ
『なぁんかぁ~、見学したいらしいんですけど…』
丁寧ながらもやはりあくびのように紹介して下さるいがぐり君…
『お~っ!そうかぁ~♪珍しいなぁ、この時期に。』
4月も末となり、どこのクラブも新入生の勧誘が終わった頃、ひょっこり現れた入部希望者をさりげない笑顔で迎えるとても二つ歳上だけとは思えない恰幅の良い紳士的な当時の部長…
トロンボーンを片手に優しく語りかける…
『楽器は、何やってた?』
『ベースです…』
『……?』
少し気になる間の後…
『ちょっと、これ吹いてみるか?』
何気に差し出すトロンボーン…
実物を見るのが初めてのトロンボーンを間近に見て驚くこまちん…
もの珍しさも加わって早速手を出す。
『フーッ!フーッ!!』
文字通り素直に吹くこまちん…
『これ壊れてますよ…』
『君、初めてか?これは、唇を振るわす音で鳴らすんや。ブーッって唇振るわしてみ。』
ブーッ♪ブーッ♪
『うわっ!鳴ったぁ~!』
吹いて音の出る楽器はハーモニカとリコーダーしか知らなかったこまちん…
急発展したベッドタウンにあった枚方の中学校には吹奏楽部もなかった…
初めての体験に身も心も舞い上がる…
『ベースやっとったんやったら、ヘ音記号読めるなぁ~、これ吹いてみ。』
突然、差し出される見たこともない大きなラッパ…
『チューバゆうんや、この人が教えてくれるからな。』
更に増える登場人物…
差し出されたでかいラッパより二回りほど小型の楽器を片手に体も部長より二回りほど小柄な先輩…
にこやかな笑顔と甲高い声で話しかける…
『まぁ~、ほんなら、まず吹いてみぃよし』
ブォ~~~~ン♪
『お~っ!凄いなぁ~!それっ!!べーやでぇ~っ!初めてでその音出せるやつはなっかなかおらんでぇ~!!』
えっ?そうなん?
【注釈】チューバは、ピストンを押さえずに吹けば「B♭(べー)」か「F(エフ)」しか出ない楽器です。
そんなことも当然知らないこまちん…
更に舞い上がる…
部員全員が揃って合奏練習が始まり、見学するこまちん…
この時点でやっととんでもない過ちを犯していたことに気付く…(もっとはよ、気付けよ!)
――違うっ!限りなく親しみを感じたヒヨコのようなイーグルスの人たちではない!ーー
高校の軽音楽部はブラスが付くんだと勝手に勘違いしていたこまちん…
まさか、本当にブラスだけのバンドだとは…(吹奏楽なんで当然、木管楽器も入っていましたが…)
半分浮かした腰を上げる決断も付かないまま全体練習が終了する。
――終わったら、ちゃんと言おう部長も優しそうだし、きっと笑って許してくれる。正直に言おう「すいません。勘違いしていました。」とーー
全員が起立状態で部長が話し出す。
『今日は、また、一年生が見学に来てくれています。え~っと名前何やったかな?』
『○○です。』
『はい。○○君です。えっ~っと、もう入ってくれるんやね?』
――えっ?今?返事せなあかんの?いや、終わって正直に話したいことがあるんですけどーー
『いや、あの…後じゃ駄目ですか?』
『いや、今だったら、みんな揃ってるし、みんな祝福してくれるよ。』
若干、高校3年生にしてとても心優しい気配りの出来る貫禄のある部長…
多人数での脅しとしか感じない、ついこないだまで中学生だった気弱なこまちん…
『いや…あ、あのっ、あのっ…よ、よろしくお願いします…』
パチ、パチ、パチ・・・
結局、こまちんは、そのまま卒業までこの吹奏楽部でチューバを吹くことになるのですが、そのいきさつは、また、別の機会に…