#13 酒と泪とこまちんと…第四話『タワーリング・インフェルノ』 昭和55年8月
【注意:お酒は二十歳になってから~】
こまちんが高校一年生の夏休みのある日…
中学時代の友人から週末、親が旅行で家に誰もいないから遊びに来ないか?
と、連絡をもらった。
断る理由など何も無く…
ただ、当時、所属していた高校の吹奏楽部がコンクール、コンサートと二大イベントを目前に控えて活気付いており、新入生が毎日の練習を休むにはそれなりに勇気のいる作業だった…
『先生、すいません。叔母が亡くなりまして…』
こまちん、楽団の指揮者も兼ねる顧問の先生に勇気の発言…
すでにこまちんは夏休みに入ってから、大阪大空襲で亡くなった母方の祖父を一旦蘇らせた後、胃癌で殺し…
当時、健在であった父方の祖母を急な入院の末、殺していた…
(ちなみにこの祖母100歳を超えるまで長生きした…)
『○○くんの家は不幸が続くねぇ…』
普段から静かな口調で冷静に話される社会科担当の顧問の先生の(嘘だよね~)と、聞こえてきそうな顔面右半分のぎこちない笑顔に(ウッソで~す!!)と、聞こえてしまいそうな満面の笑みで答えたこまちん…
分厚いツラの皮と毛のはえた心臓は、この頃からすでに活躍していた…
さて、円満にお休みをいただいたこまちん…
枚方は、穂谷川沿いにある集合団地に向かった…
昭和の高校一年生+夏休み+親不在=たちまち始まる不馴れな宴会
そう、ほとんど飲んだことの無いメンバーが揃っての危険な宴会が始まったのです。
金銭など必要以上に所持することのない花の高校一年生…
所持する小銭をかき集めて買い出しに走る。
団地内の商店街は酒屋もヤマザキパンも風呂屋もみんな同級生…
値切り倒して同級生共々持ち帰る。
当時、出たばかりのアルミ缶で出来たビールのミニ樽…
ビールを注ぐと意味無くピヨピヨ音が出たりする…
男ばかりの大した娯楽もない宴会…
行き着く先はやはり無意味な一気飲み…
『俺、酒飲んだら気持ち悪なんねん。これで、許してくれ…』と、何を思ったのか一人の連れは、これも当時、出たばかりの1・5リットルサイズのペットボトルに入った炭酸飲料の一気飲みを始める…
そっちのほうが気持ち悪いぞ…
限りある買出しの酒類は当然ながら、あっ、という間に底をつく…
初めての限界にチャレンジする機会を与えられた毛の生えた揃った少年たち…
『たらんなぁ~』
誰ともなしに友人宅を物色しだす…
大きなボトルに入った安い焼酎(当時、高級な焼酎なんて世間にはありませんでした…)これぞ安酒の代表格サントリーレッド、見たことも無い高級そうな洋酒、挙句は料理酒まで…
手当たり次第に飲みだす、12時を超えたグレムリンと化す少年たち…
戦い済んで夜明け前…
少年たちは、第二次大戦中に南方の海岸に置き去られ玉砕された日本陸軍の兵士のような有様になっていた…
一人は便器に顔を突っ込んで寝ている…
一人は玄関で靴を抱いて寝ている…
吐いたゲ■の上に寝っ転がっているつわものもいた…
こまちんは、安い焼酎と安いサントリーレッドのお陰で腰が立たなかった…
『お~い!焦げ臭いぞぉ~!!何か燃えてないかぁ~?』
腰の立たないこまちん…
妙に意識だけはハッキリしていた。
間もなく聞こえ出すけたたましいサイレン音と鐘の音…
燃えている…
どうやら近所が燃えている…
団地です。4階です。燃えているのは斜め下の3階です。
『お~い!火事やぞぉ~!!逃げな死ぬぞぉ~』
言いつつ腰が立たないこまちん…
『そやなぁ~。逃げなあかんなぁ~。』
『うん。そやそや逃げよ逃げよ…』
『よっしゃ~。逃げよかぁ~』
窓から舞い込む黒煙の中、逃げることに異を唱える人間は一人もいなかったが、その努力を見せる人間も一人もいなかった。
昼前…
火事騒ぎも収まり、ようやくぼつぼつと身動きが出来るようになった頃、部屋の惨状を目の当たりにする…
ある意味、火事より凄い状況がそこにはあった…
隣家の火事も小火騒ぎで収まったようでざわついていた周辺も何とか収まりが付いた頃、この家の主の同級生が部屋の惨状をぼ~っと見つめながらぼそりと言った…
『燃えてくれたら良かったのに…』
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