#2 もぐらのはなし 昭和47年1月
こまちんが小学校1年生の冬休みのことです。
当時、こまちんは大阪市内の団地に住んでいました。
市内といっても外れのほうで近くに駅もなく、集合団地を外れると田園地帯がひろがり、田んぼの向こうには大和川が流れている…
そんなところでした。(その頃の大和川は工場の汚水等で日本一汚い川として有名でしたが…)
みなさんは子供のころ、お正月には何をして遊びましたか?
―――お正月には凧あげて~コマをまわして遊びましょう~♪―――
こまちんが子供の頃は、まさにこの歌のとおりでした。
稲刈りが終わった田んぼは、冬の間、稲藁を積み上げた状態で放置されており、自由に子供たちが遊べたものです。
そこで鬼ごっこをしたり、凧をあげたり、積み上げた稲藁の上から飛び降りたり(これは、見つかるとお百姓さんにこっぴどく叱られましたが…)
凧も今のようなビニール製ではなくて四角ややっこ型の紙製でした。(”飛べ~飛べ~天まで飛べぇ~”のゲイラカイトっていうヒューストンから来た凧が一世を風靡したのはこの数年後だったと思います。)
お正月も三ヶ日が過ぎ、冬休みも終わりにさしかかった頃、いつものように近所の子供たちと田んぼの中を駆けずり回っていると、一人の子が田んぼのあぜに10円玉サイズの小さな穴を見つけます。
―――「これ、なんやろ?」「ん~?ヘビの穴ちゃう?」「ヘビおるかな?」―――
好奇心旺盛な小学生集団、当然、そこらで木切れを見つけてきて破壊活動が始まります。
あっ、という間にどんどん崩されていく田んぼのあぜ。(さすがにそれは、アカンやろ…と、今なら思いますが…)
あぜを崩しながらその穴を掘り進むうちに小学生たちのあいだに「これは、ヘビの穴ではない!」という思いがつのります。
穴は延々と続いているのです。穴の途中には、雑草の白い根を細かく張り巡らした場所や分岐点などもあり、「これは、ひょっとして?」と、子供たちの心にひとつの生き物がイメージされます。
『もぐら!』
これは絶対!もぐらだっ!!
その姿を古ぼけた図鑑でしか見たことのない子供たち…
テンションはイッキに跳ね上がります。
さらにあぜを崩しまくる、狂気と化した子供たち…
やがてカラスが鳴いて夕暮れ時、慣れない肉体労働に精も根も尽き果てようとした頃、既に掘り崩したあぜをまだ穴があると勘違いして飛び出すもぐらを発見っ!!
すかさず駆け寄り捕まえるこまちん!
こまちん、生まれて初めての『もぐら、げぇぇぇぇ~~~っとぉ~っ!!』
大急ぎで家に帰り、空っぽの金魚鉢を持ち出し、もぐらを入れ、田んぼの土を被せる。
親にバレるとまた捨てられる(これは、また、別の機会にお話しますが、親から、いきもの持参での帰宅を固く禁じられていました…)ため、団地の共同自転車置場の奥にこっそり隠す。
日本中で、もぐらを飼っている小学生なんて、まずいないだろう…。
何て凄いんだオレ…(心の中でほくそ笑むこまちん…)
翌朝、もぐらの名前は何にしようか?とか…
餌はミミズかな?とか…
いろいろなことを考えながら、いそいそと自転車置場に向かい、金魚鉢を逆さにしてみると…
もぐら死んでた…
え″~っ?なんでなんで~?
―――こまちん、虫しか飼ったことなかったのね。だから、カブト虫の幼虫の要領で、もぐら入れて土入れたのね。それって、そのまんまお墓なのね。つまり、もぐらは土被されて圧死したのね。―――
チーン(合掌
【もぐらを飼う時の注意事項】
みなさん、もぐらを飼う時は、土を入れてからもぐらを土の上に置きましょう。