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#5 酒と泪とこまちんと…第一話『蟹と共に去りぬ』 平成2年頃

【注意:お酒は二十歳になってから!】 

こまちんが東京でお仕事をしていた頃の話。 

東京駅の東側、八重洲界隈の居酒屋で、当時仕事をしていた勤務先の忘年会が開かれた。

『美少年』という名のその居酒屋は、熊本の清酒『美少年』と海鮮料理や鍋物を売りにしたお店。 

当日は二階の座敷を貸し切りにして、30名ほどの人数で行われた。 

宴もたけなわとなり課長の挨拶となった。
これがまた長かった。(酔っていたので単に話を聞くのが嫌だったのかもしれませんが…)

『こまちん!飲みまぁ~す!』(←ココ、ホワイトベースから前屈みに飛び出すガンダム操縦のアムロ調で…)

いきなり右手を挙げ課長の話を遮りながらおもむろに立ち上がるこまちん。 

課長の話に倦んでいた課員達が同調する。 
『お~!こまちん飲め飲め~♪』 
『行け、行け~!』 

両脇の後輩達がおごそかな手つきでお銚子を持ち、コップに注ごうとする手を一旦振り切り、目の前の刺身盛りの大皿に残るつまを片手で払いのけ『これにつげ…』(完全に目が据わっているこまちん…)

乗りで遠慮なく酒を注ぎ込む後輩達…
あっという間に空になる5本の二合徳利… 

話を遮られ苦笑いの課長が冷たい眼で『どうぞ…』(飲めるものなら飲んでごらんよ…と、いった感じで…)

『よっしゃぁ~!』掛け声とともに直径50センチほどの大皿を両手で煽るこまちん…
大笑いしながら声援を送る課員達…
皿の傾きが45度を越えた頃、声援は沈黙に変わる…

『おらぁ~!』一升近い酒をきっちり飲み干し、大皿を裏返しにして頭の上に掲げるこまちん。 

『いやぁ~、お見事、お見事…じゃぁ、来年もよろしくお願いしますよ…』課員の歓声とともに仕方なく話を纏める課長… 

課長の恒例、内容の無い長い話を勇気と知恵で乗りきったこまちん…
ここで見事に記憶が無くなる。 


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ふっと、この世に戻ったとき…
こまちんは電車の中…
何気なくすれ違うオレンジ色の車両を見て我に返り、あわてて電車を降りる。

辺りの風景に異様な雰囲気を感じホームを見渡す。(ここは誰?わたしは何処?)

『武蔵小金井…』なんで?
小岩に帰らなきゃいけないんだけどなぁ~
黄色い電車で…(大阪駅からの距離感で言うと茨木に帰ろうと思って気付いたら三ノ宮…ってとこでしょうか…武蔵小金井は、当時、何にも無い寂しいところでしたが…)

へべれけ状態で駅のベンチに腰掛けるこまちん…

ふと右手に大きな白いビニール袋を持っていることに気付き中を開けてみると、大きな蟹が三杯こちらを見上げて笑ってる… 

『ノワッ!なんじゃこりゃぁ~』 

われ酔い潰れて/蟹とたはむる

とか、洒落てる場合ではない…

ロングコートの内ポケットが妙に重たいことに気付き探ってみると…

二合徳利が一本。 

しかも中身入り… 

『う~ん…わからん…』 

とりあえず徳利から一口… 
『酒だ…』 

蟹の足を一本… 
『カニだ…』 

思い出しても美少年でのイッキ飲み以降のことは思い付かず、時計を見ればちょうど日付が変わったところ。 

仕方がないので、手帳を取り出しホームの赤電話で現在地に一番近いと思われる三鷹に住む一人暮しの友人宅を呼び出す…

『一緒にカニ食べよっかぁ~♪』 


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翌日、失われた記憶を取り戻すために方々へ電話をかけまくるこまちん…

一人の後輩が『あっ、どうもご馳走さまでしたぁ~』との挨拶。 

『いやいや、ハハハ…』(奢ったのか…俺…)

『いゃぁ、しかし凄かったですねぇ~、あのカニ…全部食べましたぁ~?』(知っている…コイツは俺の知らない俺を知っている…)

ここから先は後輩の回顧録 

―――いやぁ~、まさか年末の八重洲口に軽トラックの松葉ガニ売りがいるとは思いませんでしたけど、一匹2500円のカニ、三匹2500円にしちゃうんだから関西の人は凄いですねぇ~。これはほんまに松葉ガニか?から始まって、二匹買うからまけろやぁ~って言って…四千、いや三千でさんざんやり取りしたあげくに三千円にしちゃって、その上さらに試食用のを一匹つけさせて、最後に500円釣りよこせって…露店商の親父さんお客さんのおかげで人だかり出来たから、何も言わずに帰って下さいっつって最後に泣きながら500円渡したときにわぁ~、も~ぅ感動しちゃいましたぁ~――― 


それってほとんど詐欺か恐喝じゃねえか…
しかも一切覚えていないとは…

また、危険な自分を再認識してしまい、何気に凹むこまちんであった。

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