地域プロモーションが画一化してしまう理由

 「ゆるキャラ」が流行すれば、どの地域もこぞってゆるキャラを使ったプロモーションを打ち出し、「ネモフィラ」や「芝桜」が流行すれば自分の地域にも植えようと躍起になる。
 地方自治体の地域プロモーションは他の地域を「視察」し、先進地事例として同じことを真似をし他の地域と足並みをそろえた展開をしてしまうことで失敗をしてしまう事例が数多くある。
 筆者自身、広告代理店という立場で複数の地域のプロモーションを担当しており、このような現状を間近に観てきた。地域プロモーションが失敗してしまう理由は、筆者が務めているような広告代理店のように、他の地域で成功している事例を横展開してしまい、それを知らない自治体が受け入れてしまうということも一理あるのではないかと考える。
 だが今回、ふるさと納税日本一になった平戸市の元地方公務員、黒瀬啓介氏と日本各地の自治体と深い信頼関係を築いており、外から地域創生に携わっている株式会社WHEREの平林和樹氏にインタビューを実施する中で、この問題は想像以上に根深く一言では解決できない複合的な理由が多く存在していることが分かった。

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黒瀬啓介(くろせ・けいすけ)
2000年から長崎県平戸市役所に入庁。
 平戸市教育委員会生涯学習課を経て、5年間広報を担当。2008年には、
長崎県広報コンクール広報の部で5年連続で最優秀賞を受賞、さらに全国広報コンクール広報の部(市部)」で6席受賞。その後は、税務課住民税係や企画課協働まちづくり班を経て2012年からは移住定住推進業務と婚活事業、ふるさと納税を担当。
ふるさと納税担当になってからは寄付者ファーストと独自のマーケティングの視点により、2014年に寄付金額日本一を達成。2016年7月から株式会社トラストバンクに1年9ヶ月出向し、2018年4月より平戸市財務部、企画財政課で主査を務める。2019年3月に平戸市役所を退職し、フリーランスとして独立。7月からは東京を拠点に活動している。

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平林和樹(ひらばやし・かずき)
株式会社WHERE 代表取締役。
大学卒業後、ぢヤフー株式会社に入社後、アドテクノロジーエンジニアとして全社MVP、特許を獲得したのち、退職。海外での生活、20社以上の中小企業のITコンサルティング、株式会社CRAZYでの活動を経て、株式会社WHEREを2015年10月に創業。コネクション0から3年で30以上の自治体との取引実績を獲得。自社運営する地域コミュニティメディアLOCAL LETTERでは約400記事を配信しており、全国各地の自治体と取引があるほか、経済産業省の「地域未来牽引企業」にも選出。

性悪説で動く市役所ーリセットされる組織文化ー

 「リセットする組織文化になっているからだと思います。」
画一化するプロモーションの理由として両氏が上げた理由がこのテーマであった。
市役所は、癒着や不正を防止するため、一つの部署に3年〜5年キャリアを積んだら異動させるというのが暗黙のルールとなっている。金融業界などでもよく聞く話である。性悪説で動いていることで、確かに癒着や不正を起こさない仕組み作りはできる。ただ、職員の立場からすると別の課題が出てくる。
配属された初年度は、右も左もわからない他業種から転職してきた状態。
何もわからなければ、専門的な業者に委託をしようという発想になる。
そこで、広告代理店が登場する。「広告代理店が、他市町村では効果がない横展開している提案をしていたとしても、それが判断できるノウハウを持った人が自治体にはいないため、結果、広告代理店に食い物にされてしまいます。結果、本来であればアンマッチな事業が成立してしまうこともあるんです。」元平戸市職員である、黒瀬氏はそう語る。
 また、「議会の人のノウハウがないケースもあります。」株式会社WHERE代表の平林氏は語る。行政の予算編成の流れとしては、各局・課で新年度に実施をしたい事業の予算を要求する。そして財政局の調整が入り、市長が予算案として決定をする。こうして作られた「行政の監査部門」である議会で審議をされて、議決される。「予算を議会で通すときに、議会に人もノウハウがないケースが多いです。そうなると話を通すときに、この自治体はこういうやりかたでこんな効果がでた、と他の自治体の実例を使うことになります。」(平林氏)
 また、予算はなかなか通らないのが現状である。
 「市の財政局としては、去年100万だったら今年は90万と、まず削るところから始める。削られないといけないというものが財政局から刷り込みを受けるんです。そうすると、新しい何かを企画するというという発想もないし、企画書の勉強やマーケティングを勉強する発想もあまりありません。」(黒瀬氏)

粒度を大きく捉え、平等性を重んじる傾向

 両氏が共通して述べていた理由の二つ目が、自治体はセグメントを切らず広く人を捉え、平等を重んじているという点である。
「プロモーションは本来尖らせることが大切ですが、行政としてはまちのプロモーションは平等にプロモーションをしないといけない。そうなると、丸くなり伝わりづらくなってしまいます。」(平林氏)
そう語る平林氏は、ニホンカワウソをモチーフにしたゆるキャラ「しんじょう君」で有名な高知県須崎市のプロモーション動画(https://www.youtube.com/watch?v=ZwknYCD_jus)を制作した実績を持つ。
実際、プロモーション動画を作る上で気をつけたことはなにか。
「ストーリーに気をつけました。日本も海外もしんじょう君で盛り上がっていいるけれど、街全体を伝える動画を作りたいというオーダーを受けました。一社を尖らせる動画であればとても簡単だけれども、街全体をどう尖らせるかということに力を入れました。」(平林氏)
須崎市は魚と土佐包丁、漁船にも必ず乗るほどまちに根付く醤油屋さんがある。この三本をメイン構成とし、動画を作ったそうだ。
 また公務員の視点からだと、黒瀬氏はこう語る。
「行政自体が多様性を認めていない部分があります。行政は多様性がない民族で、「今までにない」といったことに対してアンテナが低すぎる傾向にあります。」(黒瀬氏)
「市民」などとビックワードで捉え、「市民」以上に詳しいセグメントで切ることはしない。
「例えば、移住してくる人は地域のニッチな部分で感心を持ち来てくれることが多いと思います。ただ、実際プロモーションをするときは、どこの地域でも同じような「おいしいご飯」や「ほどよい田舎」を訴求してしまう傾向にあります。」(黒瀬氏)

暮らしの多様化+人員適正化計画=公務員の余白を奪う

 元公務員の視点から黒瀬氏が理由として上げたのは、社会の変化による地方公務員の仕事量の変化である。
平成の市町村合併により、市町村では職員数の適正化が求められるようになり、
全国では20年間で55万人も職員数が減っている。平戸市でも平成18年度は685名いた職員が、平成24年では614人と70名近くが6年間で削減されたそうだ。これにより、一人一人の負荷が多くなる。それに加え、暮らしの多様化が上げられる。そうすると、行政がカバーしなければならない課題が次々と出てくる。
「頑張れば頑張るほどきついだけという状態になっていきます。頑張ったところで、給料があがるわけでもない。そうなるとクリエイティブなところにかける余裕というものが全くなくなります。」(黒瀬氏)
また、余白がなくなると情報収集の場も少なくなる。
「都内の公務員は、人に出会うチャンスがあるので勉強の場として整っていると思いますが、地方は、人と出会うところから苦労するので、知識を入れる場所がなく小さい自治体のルールの中でしか活動ができていない印象です。」(黒瀬氏)
その中でも成果を出す公務員も多くいる。そういう公務員の特徴としては疲弊した市役所の中でも、労を惜しまず自分に投資をして情報交換をし、アウトプットすることができるそうだ。
実際、黒瀬氏がふるさと納税で日本一になった理由も、ふるさと納税の「寄付者ファースト」で「手間をとにかくかけた」とのことだった。どこの自治体でもやらないようなことを、手間を惜しまずに徹底してやり続けたことにある。

広告代理店は地域への理解度が高くない

日本全国様々な地域と関わっている平林氏からは、「広告代理店は外の視点は強が、中の視点が弱い」ということも要因の一つであるという話があった。
広告代理店で勤務している筆者にとっては耳の痛い話だが、事実である。
「例えば、先ほどの須崎市の話で言えば、関わっている人がどれだけ、土佐包丁や漁業の歴史を話せるかというところもあると思います。」(平林氏)
例えば、先ほど例に出てきた須崎市の場合だと、醤油自体は別の市町村から仕入れているそうだ。仕入れた醤油の味付けを須崎市で行なっており、その味付けの方法として、オーナーが一つ一つ舐めて、「甘口」「辛口」など分類をしているそうだ。
「こういった背景が、プロモーション動画で出ているかと言われたらそうでもないと思います。ただ、こういったことを知っているかどうかで信頼関係も変わってくると思います。」(平林氏)

このように、様々な観点から地域プロモーションが画一化してしまう理由をみてきた。
では、地域がオリジナリティを持ったプロモーションをするには何か必要なのか。

自分の地域を俯瞰し「自分ごと化」する

 黒瀬氏の話と平林氏の話の中では「比較」という言葉が共通に出てきた。
「何もないのによく来たね。」旅行や出張で地方にいったとき、一度は地元の人からそんな言葉を聞いたことがあるかもしれない。「地方の人は、他の地域と比較をせず、卑屈になってしまいます。」と黒瀬氏は言う。
「自分の街の良さ俯瞰できていない。中にいて、自分のまちはどこが素敵かというところがみえていません。自分が住んでいる拠点にずっといるので他の地域と比べようがありません」そう、黒瀬氏は言葉を続けた。
「東京でハードに働いていて、島にいくと、島の良さを感じることができます。発展途上国に行ったら、荷物を置いておいても取られない日本って豊かだな、と感じたりできるのは、比較をしているからだと思います。」平林のインタビューの中でもそういった言葉が出てきた。
インタビュー中に黒瀬氏が見せてくれたのは、平戸の高校生に意識調査を実施しまとめた資料だった。意識調査を行うにあたり予算が下りなかったため、黒瀬氏と数人でアンケート項目の策定から、実施・回収・分析まで行ったそうだ。
そして、そのアンケートを結果は想像を絶するものだった。
「将来平戸市に住みたいですか?」その質問に対して残酷にも半数以上が「住みたくない」と回答した。この結果にはまだ続きがある。保護者にも同様に子供に住んで欲しいと思うか、という質問をしたのだが、保護者の回答もどうように半数以上が住んで欲しくない、と答えた。
「親がそもそも平戸はだめだといっている。少なからず親の刷り込みも影響しているはずです。そうなると、子供の過ごし方も変わって「田舎は嫌だ」と思う。そう思い、外に出て仕事・結婚をすれば平戸に戻るタイミングが失われてしまいます。」(黒瀬氏)
このように、「地域に向き合うタイミング」がなくなってしまうのだ。
 そんな状況もあり、今の自治体プロモーションは観光客など、外に発信をするのではなく、住んでいる人向けのインナー向きのプロモーションが増えてきているそうだ。
 プロモーションの評価の高い事例として、奈良県生駒市がある。
例えば、いこまち宣伝部という市民PRチームを平成27年から立ち上げている。これは、生駒で暮らす住んでいる人目線で、まちの魅力を発掘・編集してまち内外に伝えるというもの。いこまち宣伝部に選ばれると、ライターやフォトグラファーの講座も受けることができ、取材をすることでまちのことみんな好きになる。また、任期も1年で終わるため、宣伝部に属していた人が増え、口コミのようにみんなが地域のことを好きになるといった「地域を自分ごと化」して捉える人が増えていく仕組みが成り立っている。
 確かに、黒瀬氏自身も入庁当初は今のように「本気」な人ではなかったそうだが、広報担当になり、地域の人に取材をするようになってから地域のことが好きになったそうだ。黒瀬氏の言葉でいうのであれば、「LIKEがLOVEに変わる瞬間」である。
 このように、地域のことを少しずつ「自分ごと化」して捉えてもらう仕組み作りを行うことが大切である、と黒瀬氏は語る。黒瀬氏自身も、この課題を解決する方法として、平戸市で高校生向けのキャリア教育を実施し子供のうちから地域に向き合うきっかけ作りを行っている。

ビジョンを明確にする

 「地域のビジョンを解像度を上げて明確にする必要があると思います。プロモーションは誰に何を届けるかを考えるときに、軸がないと難しいです。そしてビジョンを共有するには、トップの指針が必要です。」
平林氏はそう語る。
「例えば、福岡市はスタートアップに力を入れているをとてもわかりやすくプロモーションしています。」(平林氏)
 これは、福岡県福岡市の市長、高島宗一郎氏の押し出す戦略である。もちろん、中小企業の支援も行っているが、表向きに出てくるイメージはスタートアップである。このように、市長といったトップがビジョンをどういう風に作るかということで変わってくるという。
「また、今までは人が生まれて育つところが一緒でした。移動手段も引越しも楽になり、変わりつつある今、どういう風に暮らす地域を選ぶかというと、ビジョンでしか差別化できないのではないかと考えます。」(平林氏)
「例えば大学や民間企業と一緒に商品開発をやりましょう、と連携をしても、
聞く度量もない人が多いので、実際に商品開発する気もなく、連携することがゴールになってしまっている。このように、本質が抜け落ちていることもあるというのが現状だと思います。」(黒瀬氏)
このように、まずはトップが「ビジョン」を明確にしておく。そして、それを遂行していく職員や関係者はそのビジョンの本質を忘れることなく、常に目的意識を持つ必要がある。

 今回、地域の中にいる人の目線から元地方公務員の黒瀬氏、外から俯瞰している人の目線から(株)WHERE 代表、平林氏にインタビューを行った。
今回両氏の話を聞いている中で、根深い様々な課題が出てきたが、何より重要なことは、「一人一人の意識改革」と「どれだけ本気でとりくめか」であると強く感じた。言葉にすると簡単であるが、これを行うのが一番難しい。「人は正しいことでは動かない。楽しいことのその先に正しいことがある。」インタビューの中で黒瀬氏が話してくれた言葉が印象に残る。
 例えば、地球温暖化だからと言われても人は動かない。自分が行なっていたことが実はCO2を排出しているんだよ、と言われたほうが「自分ごと化」できる。
そしてそれをどれだけの熱量で捉え、取り組めるか。
 まずは、自分の地域のことをどれだけ知っているかを考えてほしい。そして、自分ごとをして少しでも関心を持ってくれたら、これほど嬉しいことはない。


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