『日本の地方議会』(中公新書で学ぶ現代日本の政治⑤)

 これまでのノートでは国政や一般的な制度論などを勉強してきましたが、今回は地方自治について『日本の地方議会 都市のジレンマ、消滅危機の町村』(辻陽、2019年)をもとに学びたいと思います。日本の地方自治については日本国憲法第8章に規定されており、細かい規則は地方自治法などに詳しいわけですが、本書は身近な例に触れながらこれら法律の要所を確認しつつ、その改善点を著者が指摘していくスタイルになっています。

地方議会の基本事項

(1)議会運営
 地方議会では定例会もしくは臨時会を開催することが地方自治法で定められています。招集するのは原則として首長ですが、首長が議員や議長の招集請求に応じなかった場合には、議長が臨時会を招集することができます。ほとんどすべての自治体は定例会を1年度あたり4回(概ね6月・9月・12月・3月)とする条例を定めています。これに加えて通年議会も可能で、2017年末で814市区のうち31市区が開催しています。
 また、議会には条例により常任委員会(政策分野ごとの調査や議案審議に与する)、特別委員会(議員定数の決定など議会の議決によって付議された案件の審議に与する)、議会運営委員会を設置することができます。議員は複数の委員会に所属することが可能です。議会は、議事を取り仕切る議長・副議長を議員の中から選出し、任期は当該議員の任期としていますが、慣行として1、2年で交代する例が多いようです。
 また、法律上の規定はないものの、議会においては同志的集団としての会派を形成する慣行があり、これを基礎に委員会の議員配分があったり、また議会での代表質問があったりします(議員個別の質問は一般質問という)。会派は基本的には一枚岩で、議案の議決において会派内で賛否が割れることは稀のようです。

(2)選挙制度
 一般的な選挙制度や国政選挙については第1回のノートにて確認したとおりで、地方選挙についてもこれを踏まえれば十分理解することができると思います。
 まず、統一地方選挙が西暦を4で割って3余る年の4月に実施されます(対象外の地方自治体もあります)。最近では2019年4月に執行されました。
 次に、選挙制度について概して言えることは、地方選挙では比例代表制は導入されておらず、自治体の規模に応じて小選挙区ないしは中選挙区が採用されているということです。自治体の規模は、都市部または非都市部の都道府県議会、特別区(東京23区)、政令市、その他の市町村議会にカテゴライズできます。そして、上から下にいくほど、政党化の度合いが下がり、高齢化し、兼業者が増え(つまり職業としての議員ではなく名誉職としての議員という色合いが強まる)、女性の割合が下がり、無投票当選が増える傾向があります。
 具体的に、都道府県議会選挙からみてみます。現行の公職選挙法によれば、議員定数と選挙区は条例により定められ、選挙区を構成するのは市や特別区、行政区(政令市の場合)、町、村の基礎自治体になります。そして、議員1名あたりの人口を算出し、その過半数を占めたものを1選挙区とします。ここで1つの基礎自治体でこの数に達しない場合は隣接する基礎自治体を合わせることになります。したがって、定数が少なく基礎自治体の数が多ければ選挙区は小選挙区(定数1に対して記名数1)になりますが、逆に定数が多く基礎自治体の数が少なければ選挙区は中選挙区(定数2以上に対して記名数1)になります。そうすると、各都道府県で基礎自治体の数も定数も異なるので、選挙制度はバラバラにならざるを得ません。なお、2015年の段階では小選挙区となった選挙区が4割で最も多くなっています。また、定数1の小選挙区では自民党系議員が7〜8割と圧倒的強さを誇り、定数が3より多くなると公明党や共産党といったいわゆる大衆政党(支持者を党員として組織化して安定した支持を維持する体制をとる政党)が議席を獲得するようになってきます。こうして、議会は自民党系が過半数を占めることになります。
 次に、政令市議会選挙についてみます。政令市の選挙区は行政区を単位としますが、定数に対して行政区の数が少ないことから小選挙区は存在していません。1選挙区における定数は最小で2、最大で20にもなります。中選挙区は多党化の効果を生みますので、政令市議会選挙において自民党一強という状況は見られません。また、複数定数に対して記名数1という状況では誰に投票するかを判断するための情報コストが極めて大きくなります。有権者は候補者の個人的つながりや地縁などを手掛かりに選ぶので候補者が何党であるかは関係なくなり、無所属議員が多くなる傾向にあります。
 政令市を除く市区町村議会選挙では、当該自治体を1選挙区にする大選挙区制が採用されています。つまり、1選挙区における定数は当該自治体の議員定数と同じで、定数が1桁のこともあれば、50にもなることもあります。これも多党化を促すといえます。また、地方では有権者は候補者を個人的なつながりや地縁などで選ぶので無所属議員の割合が一層増え、政党化が進んでいない傾向にあります。

(3)首長と議会の関係
 首長(地方自治体の長)と議員はそれぞれ異なる選挙によって住民により直接選出される二元代表制になっています。形式としては大統領制と同じで、アメリカと同じように首長の所属政党と議会の多数派政党が同じか別かという問題も生じます。首長選挙と議会選挙が同じタイミングで行われるとこれが同じになり議会が首長の追認機関のようになり存在感が希薄化する一方で(統一政府)、選挙がずれるとこれが別になって首長の対抗勢力としての議会という構図が明確化します(分割政府)。首長と議会のバトルはしばしば顕在化し、盛んに報道されることになります。

 その議会の権限ですが、首長の権限と比べると弱く、最終的に議会が首長をコントロールしきれないといえます。いくつかのポイントを挙げてみます。
 まず、予算についてです。概して、予算配分への影響力行使は議員活動の最大の関心事といえます。地元の要請に応えるために街灯を立てるためにはそのための予算計上が必要で、これが実現できなければ次期当選は脅かされるでしょう。ただし、予算の作成と発議は首長にのみ認められており、議会は首長の予算提出権を侵害しない範囲でしかこれに修正を求めることはできません。そこで議会は議会での会派質問や一般質問、また予算要望を首長に提出することで働きかけます。その結果として、自らの希望が予算案に反映されていればそれでよく、あとは所属政党に関係なく首長を支持するために与党陣営に入る相乗りが一般的になっています。つまり、国政レベルでは与野党の関係であっても、地方レベルでは行政の効率化を促進する観点から与野党が協働関係にあるということは珍しくないのです。
 次に、条例についてみてみます。条例については憲法94条に規定がありますが、これは法令に違反しない範囲で自治体は独自のルールを定めることができるというもので、地方行政において非常に重要な役割を果たすものです。条例の制定、改正、廃止に関する発議は、首長と議会の両方が可能です(議員による発議は議員定数の12分の1の賛成・発議により可能)。これを議決するのは議会であって、出席議員の過半数の議決で成立しますが、そのあと首長が議案の再議を要請すれば、同じ内容について出席議員の3分の2以上の議決がなければ廃案になります(ただし、条例の制定、改廃および予算に関するもの以外は出席議員の過半数で再度可決すれば成立する)。このように議決のハードルが上がるので、議会に3分の1以上の親首長派がいれば首長は議会の決定を覆すことが可能になります。これが強く効いてくるようです。
 首長には専決処分が認められているということもあります。これは、緊急を要し議会招集の時間がない、または議会が議決を保留し続けている場合に首長が議会に代わって案件を処理することができるというものです。首長は議会に事後承認を求め、否認されれば必要な措置をとることが定められています。このように究極的な判断を首長が下せるのならば議会の存在意義が危ぶまれるということです。ただし、現行法では通年議会を開くことが可能なので、首長が議会を開く時間がないといって専決処分を下すというルートは防ぐことが可能になりました。
 一方、議会は任意に首長の不信任を議決することができます。そのためには、議員の3分の2以上が出席し、そのうちの4分の3が賛成する必要があります。不信任決議を受けた場合のみ、首長は議会を解散できます。そして、再び成立した議会でも過半数の賛成で不信任が議決されれば、首長は失職します。ただし、議会解散は議員にとってもリスクなので、単に首長憎しというだけで不信任決議が採択されるということはないようです。
 これに加えて、議会には地方自治法100条に定めがあることから百条調査権と呼ばれる首長や行政職員に対する調査権限があります。これは当該人物を議会への出頭、また記録の提出を求めるもので、正当な理由なくこれらを拒否した場合には刑罰の対象となります。ただし、百条調査権の行使例は、1999年4月から2016年3月末までで12件とそう多くはないようです。

 強い首長権限に対して議会が果たすべき役割として監視機能が重要で、議会の場での質問を通して、行政部に問題点を指摘し、改善を促すことが期待されます。そのためには、議員は地域の問題に常に向き合い、そのための資金も十分に交付されるべきだと考えられます。

地方議会の改革

 1990年代から今日にかけて、政府は日本国憲法に定められた地方自治の実現に向けて法改正を続けています。また、自治体の側からも、地方自治改革を続けています。
 大雑把にまとめれば、国レベルでの地方改革は、国の権限を地方に移譲するということです。これらは、関連法をパッケージにして改正していくかたちで実現されてきていて、最近では第9次一括法が施行されました。また、国の関心は選挙制度改革であり、これはまだ議論中の問題であるようですが、地方選挙における政党の活動を活性化させるための比例代表制の導入や、国政選挙との制度の一致を図り、政党の役割を地方レベルから強化していくという方向です。ここでは国と地方のリンケージということに関心が置かれています。一方、地方レベルでの改革はより内政的といえます。情報公開や住民参加を促進して地方政治を活性化しつつ、議会では議員が専門的な知見を踏まえて政策討議を充実させること、また首長に対する統制を強化することが志向されています。
 こうした方向性の違いがあるなかで、その両者を認める多様性が必要であり、上からの画一した制度設計ではなく、現場の議員が自らの自治体の状況に応じて、好ましい制度改革を進めることを認めることが必要だとされます。

今回は以上です。拝読毎度ありがとうございます。

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