調書判決の代読は不可(というか、調書判決に「代読」という概念はない。)
民事訴訟において、A裁判官が審理し、口頭弁論を終結した後、判決言渡しまでの間に裁判官がBに交替した場合、判決言渡し時のB裁判官が、A裁判官の作成による判決書を代読することがある。
この場合、判決をしているのは代読をしているB裁判官ではなく判決書を書き上げたA裁判官なので、直接主義(民訴法249①「判決は、その基本となる口頭弁論に関与した裁判官がする。」)には反しないとされる。
民訴規157①「判決書には、判決をした裁判官が署名押印しなければならない。」にいうところの「判決をした」というのは、「判決書を作成した」という意味なのだろう。
しかし、調書判決(民訴法254)の場合は、判決をしているのはB裁判官なので、調書判決の代読はできないことになる(より正確には、調書は判決をした後に書記官が作るので、裁判官による代読という概念も当てはまらない。)。
それにもかかわらず、B裁判官が、判決を言い渡してしまったらどうなるか。
この場合、原告は、請求の全部認容判決を得ているので、本来控訴はできないはずだが、この場合は、判決の誤りを正すために控訴できると判示したのが、最高裁の令和5年3月24日判決。
第1回口頭弁論期日に被告が欠席し、答弁書も出さない場合において、その後判決期日までの間に裁判官が交替したときは、
①A裁判官が判決書を作成し、B裁判官が代読する。
②B裁判官が弁論を再開して改めて被告を呼び出し、それでも被告が欠席したときは、B裁判官が判決する(調書判決でも判決書に基づく判決でもどちらでもよい。)。
という選択になりそうだ。
ちなみに、上記最高裁判決の事例は、「事件が一人の裁判官により審理された」場合のもの。
では、三人の裁判官により審理された後、裁判官が一人だけ交替したときは、弁論を再開しなければならないのだろうか。
判決書による場合は、評議さえまとまっていれば、署名しなくていいとされている(民訴規157②「合議体の裁判官が判決書に署名押印することに支障があるときは、他の裁判官が判決書にその事由を付記して署名押印しなければならない。」)。
調書判決の場合は、どうなのだろうか。
また、そもそも、調書判決の事例の中で、同様の瑕疵がある例はほかにもないのだろうか。調書判決になるような事例では、裁判官の名前にあまり意識がいかず、判決を記載した調書の裁判官名を確認することもあまりないように感じる。
この事例の原告代理人は、注意深かったと言えるのではないか。