佐藤栄作首相退陣会見の内容
1972年6月17日の佐藤栄作首相退陣会見の内容は日本経済新聞1972年6月17日夕刊によると以下の通り。
一、テレビは真実を伝えてくれると思うので、ここで国民に直接呼びかけるので聞いてほしい。このやり方が親しみが持てる。なつかしさを感じられる。
一、けさも自民党の衆、参両院議員諸君に私の心境を端的に言った。七年半、国民のみなさんの支持があったが、新しいリーダーをつくってくれるよう申し上げた。在任中ずいぶんといろんな問題が起きた。その間、みなさんから変わらない支持をいただいた。最近、各所から投書をもらっている。国民のみなさんから「佐藤はまだやることがある」と鞭撻、叱声を受けている。しかしすでに長い間国民の悲願であった沖縄が帰って来た。この機会にやめたい。新しいリーダーの登場が望ましいと思っている。浅学菲才の私が大過なく首相の重責を果たすことができたのは、みなさんのあたたかい支援と鞭達のたまものだ。
一、政治を志す者で国益を思わない者は一人としてない。国民のため、よりよき政治を推進している。しかしなかなか思うようにできないのが政治の現実だ。またタイミングがむずかしい。タイミングをはずすと思うようにはいかない。「佐藤政治はわかりにくい」とか「佐藤政治は待ち政治だ」という批判を受けたことは承知している。前もって話しておけばいいのだが。それができない。一国の宰相が孤独だといわれるゆえんだ。自分で機会をつくるのが宰相の責務だ。この点これまで誤りなきを期してきた。タイミングを遅らせているのではないかとしばしば言われがちだがいま言ったような心境で政治をしたことを理解してほしい。
一、日米の友好関係がなければアジアの平和もないというのが私の信念だ。このため日米関係友好の維持、増強に最大の努力を払ってきた。米国追随と言われような、自主的に友好親善関係を維持してきた。日本の安全は安保条約によって守られている。
一、また中国との友好親善、国交正常化を図ることは大事なことだ。しかし日本はサンフランシスコ条約ののち、日華平和条約を結び、友好親善を続けている。国連における中国の代表権が中華人民共和国となり、仲よくするのが何よりも大切であり、友好親善、国交正常化をやりたいと思っていた。
一、北方領土についても最大限の努力をしないとならない。日ソ平和条約は国交を決定することにつながる。先日、イワノフ漁業相と安全操業問題を話し合ったが、むずかしい問題だ。しかし希望はもてる。誠心誠意、胸襟を開いて話し合いをするならば妥結できると思う。
一、世界は五極構造化し、国際情勢は難しくなったが、根本を見極めなければならない。日米関係の維持は佐藤政治の根幹であった。いましばらくは日米関係、安保体制が維持されるが、未来永ごうまで揺るぎないものとはいかない。