KokugoNote #36 図書室の話②
皆さん、こんばんは!元気にしていますか?
好天に恵まれながらも思い切って遠出できない状況にもやもやしている人も多いかと思いますが、毎日の報道にあるように、2週間おきの自粛要請が複数回続いていることから、今後も長期戦が予想されます。学校公式サイトを確認しながら、動静を見極めるようにしてください。予定はまた大きく変わる可能性があります。(東京オリンピックの延期が決定した途端に感染者数が増加したように、影響力のある出来事が発生したら、社会の流れが変わることが多々あります。大人の事情でなのかどうか解りませんが、いろいろあるのかもしれません)
家にいる時間が多いこういう時にこそ、普段、父ちゃんや母ちゃんがしている家事に取り組んでみましょう。先生も毎朝、洗濯機を回して、パンパン叩いて干して、同時に味噌汁を作り、ハムエッグを作り、さらに一品副菜を用意して、食後も食器などを洗ってから学校へ向かっています。皆さんの父ちゃん母ちゃんも、1時間程度のうちに上の家事以外にも、お弁当を作ったり、二度寝する皆さんを追い出したり、あれこれをされるのでしょう。「快適な生活」のためにしなくてはいけないことの一端を、すでに担(にな)っている人もいると思いますが、そうでない人も多くいると思います。常々口にしているように、いつまでも子どものままではいられないので、家族のためにできることを少しずつ増やしていきましょう。
今までTake&Take&Take…と多くのものを受け取ってきた家族関係から少しずつGiveを増やしていくのです。大人になるというのは、Give&Give&Give…を重ねていくことです。あれもこれも一度にすることはできないので、ひとつずつ得意になっていくしか方法を模索するのです。先生は、料理から始めました。作り置きのできる調理からです。副菜は多くあっても困ることはないので、動画や本で勉強しました。SNSで料理アカウントは多数あり、様々なレシピが掲載されているものです。何か始めることで開ける世界があります。皆さんは何を世界にGiveしますか?
さて、本題です。図書館は、ひとつのことを始めるときに、総合的な知識を与えてくれる場所です。先生は料理のことを先ほど話しましたが、動画やSNSに上げる人たちも様々な本などで勉強してきたはずです。(インターネット以前の世界では誰もがそうしてきました。)図書館と言えば、この話を思い出します。昨年、『ニューヨーク公共図書館』https://bit.ly/2Upm2zQ という映画が上映されました。1911年に鉄鋼王と呼ばれたアンドリュー・カーネギーによって建造された図書館群(本館と92の分館)の裏側を描いた作品です。アメリカも日本もそうですが、1910年代と言えば、誰もが学校へ通える訳ではなく、勉強しようにもできなかったのですが、この図書館は、誰に対しても開放され、無料で利用できたのです。少しでも解らないことがあれば図書館へ行き、司書さんに相談し、文字を学び、本を読めるように、人々は学んできたのです。公共の利益のために生涯にわたって学び続ける場を提供することで、民主主義を根付かせようとした人々の、国の在り方をそこに見て取ることができます。
※興味のある人は、アレクシ・ド・トクヴィルが1831年に9ヶ月間、アメリカを旅して著した体験記『アメリカのデモクラシー』(岩波文庫)を読むと良いと思います。現在のアメリカ大統領、トランプさんが選挙で旋風を巻き起こした時に、数々のメディアでトクヴィルのことが引用されていました。こちらの記事は、良くまとまっていると思います。https://bit.ly/3dydtKi
話を戻しますね。「学校の一斉読書」と言えば、朝の読書などで小説ばかり読んでいるイメージが根強いので、図書館というのは主に文芸書と図鑑や百科事典ばかりではないかという印象を持っている人が多いかもしれませんが、もちろんそのようなことはありません。
一般に、公立図書館などでは、利用する人々の幅があまりに広いので、まずは活字に慣れ親しむ児童書から教養を扱う文芸書が約半数以上を占めています。小中学校の図書室は、基本的に授業カリキュラム(教育課程)に準ずるように図書を揃(そろ)えていますが、不読率(1か月に読書0冊の割合)を回避するために、ライトノベルなども含めた流行の小説が多かったりします。
ですが、高校の図書室になると、教科書の内容を一歩進んで深く学ぶことを求められるので、①授業内容に関連した図書、②教養や芸術に関する図書、③新書(文庫より縦長の図書・事実に基づいて考察を深めたものが多い)、④進路に関する図書、⑤部活動に関わる図書、⑥時事問題を扱った図書などが中心になります。本校は、社会科学系の学部が中心の大学を併設していますので、大学での理解を深めてくれるであろう入門編の図書も多く揃えています。何分、小さな図書室なので、図書室担当者の嗜好がどうしても反映されてしまいやすくなりますが、個人の一存で購入を決定するのではなく、偏りを是正するために多くの皆さんの声も反映しています。
自分はどのような本を読めばよいのか解らない、読みたい本がないのだという声もよく聞かれることです。誰かにとっておもしろいと感じるものが番人受けする訳でもないので、勧められて読んでみたけれどもつまらなかったということは多々あります。けれども、それが「経験」だし、それが「人生」というものですよ。何度も何度もチャレンジして、残念な結果を繰り返して、その中で数回、ヒットできれば、成功したと言えるのです。
バッターボックスに入ると毎回ホームランを打つ選手は世界中、探したって誰ひとりとしていません。空振りだったり、フライを打ち上げたり、送りバントを失敗したりしていても、諦めずに練習することで、タイムリーヒットを打ったり、満塁ホームランで逆転したりする機会に恵まれるのです。野球と違うのは、読書の場合、自分の進むべき道が一本見えさえすれば、それで良いのです。一度のヒットが自分の人生を開いてくれます。何をすれば満足するのかが解るようになります。その後、自分が多くの労力と時間とお金を費やしても、全く気にならないものが何かを知ることができるからです。専門家というのは、そうやって夢中になっているうちにいつの間にか歳を重ねている人々のことです。
学校の先生もそれぞれの教科の専門家です。例えば、先生は国語が専門なので、皆さんよりも多くの時代の作品を読んでいますし、文章作成技術に関する本についても個人ロッカーに50冊程度を入れています。皆さんの成長過程を支える教育業界についても、最新のことを勉強しています。仕事だからというよりは、毎日、考えるのが好きだからです。とは言うものの、もともと教育に関心を持っていた訳ではありません。高校生の頃に仲の良かった映画好きの友人から勧められた本がきっかけでした。東京大学の総長まで勤められた方ですが、学問のおもしろさを知ったのはここがスタート地点でした。蓮實重彦(はすみ しげひこ)さんの『反=日本語論』です。2009年にちくま学芸文庫から出版されているので、興味のある人はぜひ手に取ってみてください。この話は長くなるので、またの機会に。
長々と書き綴ってしまいましたが、一冊の本が人生を大きく変えてしまうことは往々(おうおう)にしてよくあるのです。今は新型コロナウィルスの感染予防のために休館にしている図書館も多いと思うので、なかなか足を運べないと思いますが、書店に行く機会があったり、Webで注文できたりするのであれば、ぜひ先に上げた2冊、トクヴィル、蓮實さんの本を読んでみてください。今は難しいかもしれませんが、大学受験勉強を終えて読み直したら、おぉー、そうだったのかー!とおもしろさが解るかもしれません。たくさん勉強して、歴史や考え方、枠組み、構造など全体が見えるようになったら、理解は深まっていくのです。それまで諦めずに練習して、バッターボックスに立ち続けることです。図書室も皆さんを支えますし、一緒に努力していくつもりです。
では、良い週末を!
皆さんが今まで利用してきた図書室・図書館はそういう傾向にあったのかもしれません。
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