お米の魅力を伝えたい! 「ひとり広報」の挑戦がゆるやかに進行中
――アサヒパックについて教えてください。
アサヒパックは、大阪と東京に拠点を置く包装資材メーカーです。「米袋」をメインに取り扱っているほか、お米の販売促進グッズの制作や売り場の陳列提案なども手がけています。
――御社の商品カタログを読むと、米袋にもさまざまなデザインがあることが分かります。
弊社には、十名程度のデザイナーが在籍しているため、幅広い提案が可能です。定番のデザインからスタイリッシュなデザインまで多種多様で、生産者の方々からもご好評いただいています。ちなみに「こめぶくろ」ではなく「べいたい」と読むのが、我々の業界のならわしです。
――種類豊富だと、ついつい好みのパッケージに手が伸びてしまいそうです。
そういった消費者も少なくないと思います。国産米は味の平均点が高いので、スーパーマーケットなどで手軽に購入できるものも、どれもおいしくいただけます。となると、銘柄や品種による味の違いよりも、パッケージデザインの良し悪しが購入の決め手になるケースも出てくるでしょう。実際のところ、お米っぽくないデザインやキャラクーのイラストをあしらったデザインなどは、若い方々にアプローチする際にとても有効です。
――小林さんが米袋業界に飛びこんだ理由を教えてください。
もともと精密機器メーカーの営業職だったのですが、度重なる地方出張がしんどくなって転職を考えました。どうせ転職するなら“尖った企業”がいいと思い、2017年にアサヒパックへ。縁もゆかりもない業界でしたが、とくに迷いはありませんでした。日本の主要作物に関わる仕事は社会的にも意義があるし、間接的とはいえ、地域活性化に貢献できると考えました。
――米袋の提供を通じて生産者を支えることが、ひいては地域活性化につながると。
そうですね。私は千葉県の浦安市出身で田舎暮らしの経験はないのですが、前職を辞めたあたりから地域活性化に興味を持ちはじめました。
転職活動をする前に国内旅行を存分に楽しもうと、格安バスやレンタカーなどを使って各地を巡りました。土地土地の風景や味覚に触れ、そこで暮らす人々と交流を交わす――。思いがけない出会いに満ちた旅ではありましたが、どこか「町や村に元気がないなあ」と感じたのも事実です。その頃から、地域のためになにかできないかと漠然と考えるようになりました。
そもそも私は幼少時代から筋金入りのお米好きで、食卓に出されたスパゲティを見るなり「ごはんじゃなきゃイヤだ!」と、駄々をこねたこともあったそうです。私の母親が新潟県出身で、毎日おいしいお米を当たり前のように食べていたんですよね。こうしたお米に対する価値観が今の仕事にも通じています。
――そして現在、アサヒパックの広報を担当しているわけですね。
インサイドセールス(内勤営業)からキャリアをスタートさせ、2022年に広報を担当するようになりました。異動のきっかけは、社内で発行している広報誌「こめすけ」です。ひょんなことから、お客さまのインタビュー記事を任され、取材から執筆までの工程を一通り経験しました。
もちろん不安はありました。けれども、フタを開けてみたら社内外から好評で。会社が広報活動に注力していくタイミングとも重なり「小林ならそういうの得意そうだし、広報を任せてみては?」となったようです。得意もなにも広報活動は未経験。それでもよければ、と断りを入れたうえで、社内初となる「ひとり広報」が誕生しました。
――なりゆきで書くことになったとはいえ、noteにアップしている記事はどれも読みごたえ抜群です。とくに評判のいい記事を教えてください。
「Let’s!和ごはんプロジェクト メンバー企業様に会いに行ってみよう!」ですかね。「Let’s!和ごはんプロジェクト」とは、忙しい子育て世代に「和ごはん」を食べる機会を増やしてもらうおうと、農林水産省が官民連携で進めている取り組みです。noteにアップしている「メンバー企業様に会いに行ってみよう!」では、このプロジェクトに参画している企業の担当者にインタビューを行っています。
「メンバー企業様に会いに行ってみよう!」第1弾は、家電製品でおなじみのシャープ株式会社さん。第2弾は、株式会社毎日が発見が発行する『レタスクラブ』の編集長にご登場いただきました。
――いずれの記事からも現場の盛り上がりが伝わってきました。
両社ともにウェルカムな雰囲気でとても助かりました。弊社も2018年から、「Let’s!和ごはんプロジェクト」に参画しているので、その縁をフル活用したかたちになります。
弊社がプロジェクトに加わった理由は「米穀業界にもう一度活気を呼び戻す」という目標を掲げているからです。食糧自給率の低下や日本人の“お米離れ”など、業界が抱える課題はひとつやふたつではありません。なにか課題解決の糸口がつかめればと、プロジェクトに参画し、現在に至ります。
――参画企業の連携がプロジェクトの推進力につながるのかもしれませんね。
はい、そう願っています。参画企業は「お米」や「和ご飯」「米穀」などのキーワードでつながってはいるものの、他の業界のことは意外と知らないものです。先に挙げた二社の担当者の方々も米袋の話に興味津々でした。
たとえば、米袋って密封されているイメージがありませんか? ところが、米袋をよくよく見ると小さな穴が空いてるんですよ。どうしてかというと、通気用の穴がないと袋がパンパンになって、うまく積み重ねられなくなってしまうから。この話を異業種の方に話すと「へぇ! 知らなかった!」というリアクションが返ってきます。こうしたちょっとした関心から、新しい取り組みに派生する可能性も十分考えられます。
とくに盛り上がった話題は「消費者との向き合い方」です。各企業が自社製品やサービスを他社と差別化し、独自性を出す戦略をとっていますが、そういった企業のこだわりって消費者はあまり気にしていなかったりするんですよね。これは私も思い当たる節があるので、とても興味深く感じました。
――話は変わりますが、小林さんは昔から文章を書くのが得意だったんですか。
それがですね……作文は大の苦手だったんです。とくに小学生の頃の読書感想文が苦痛で、苦痛で……。課題図書を与えられても、当時の私からすれば押しつけにしか思えませんでした。読んでも頭に入ってこず、なにを書けばいいのかも分からない。頭をひねっても「おもしろかったです」以外の感想が浮かんでこないんです。
ただ、両親ともに“本の虫”で、私にもその素養があったのでしょうね。中学生に上がってから読書への抵抗感がやわらいでいきました。そのきっかけになったのが、授業がはじまる前の「朝読書」です。読書せざるを得ない状況だったので、せめて自分の興味がある分野を読もうと決めていました。それがプラスに転じて、いつしか読書が趣味のひとつになりました。
――思い出に残っている一冊はありますか。
マグロやクジラなどの知られざる生態を紹介した『マグロは時速160キロで泳ぐ:ふしぎな海の博物誌』(PHP研究所)です。小学生の頃から釣り好きで、海洋生物に興味があったこともありスルスルと読み進められました。自分の意志で選んだ本を読破できたのは、このときがはじめて。やがて「難しそうな本を読んでいたら格好よく見られるのではないか」と「新潮文庫の100冊」なんかにも手を出すようになり、ひとり優越感に浸っていました(笑)。
――ちょっとこじらせ気味の少年時代だったんですね。
いわゆる“中二病”というやつです。そこから村上春樹にハマり出し、自分のなかでの「おもしろい文章」が徐々に形づくられていきました。これまでを顧みると、読書で養われた語彙力や表現力がnoteをはじめとするアウトプットの源泉になっているのだと思います。
裏を返せば、読書によるインプットがなければ、アウトプットができなくなるということ。忙しさにかまけて読書を疎かにしていると言葉が浮かばなくなり、文章が書けなくなるんです。たとえが適当でないかもしれませんが、吸収した分だけ放出するスポンジのような性分なんだろうな、と。書き続けるためにはインプットを絶やさないことが大切なのだと気づきました。
――noteにある数々の記事は、インプットの賜物なんですね。
毎回、ヒイヒイ言いながら書いてますよ。言葉が出てこなくなったら、お気に入りの小説や漫画を読み返したりして。心が揺さぶられるプロセスを経て、モチベーションを上げていく感じです。
だからといって、noteの記事を通じてだれかを感動させたいとか、SNSでバズりたいとか考えているわけではありません。noteには、サラっと読める記事をアップするようにしています。読んでいただいた方が「へえ、こんな業界もあるんだ」と関心を持つきっかけになってほしいですね。
私自身も“ちょうどいい湯加減”の記事が好きで、noteでも一般の方が書いた旅行記なんかをよく読みます。展開はいたって“ふつう”で、大きなトラブルが起こるわけでもなく、ドラマチックな出会いがあるわけでもない。けど、それがいいんですよ。気楽に読める感じがちょっとした息抜きになるんです。
――最後に今後の展望を教えてください。
ありがたいことに、noteをきっかけにいくつかのメディアから取材のオファーをいただいています。國學院大學さんからの取材もそのひとつ。2022年からはじめた広報活動が少しずつ実を結びはじめている実感があります。この状況をピークと考えるのではなく、企業や生産者の方から「noteの記事でうちを紹介してほしい!」と逆オファーを受けるくらいになるまで頑張っていきたいです。
また、本年度中に、お米を取りまいている現状を伝え、魅力を発信する特設WEBサイトの開設を目指していますので、そちらもぜひ読んでいただきたいです。
――「さかなクン」ならぬ「米袋クン」のようにキャラ付けすれば、メディア露出がさらに増えるのでは。
いやあ、そこまで演じきるほどの覚悟はまだありません(笑)!
取材・文:名嘉山直哉 撮影:押尾健太郎 編集:篠宮奈々子(DECO) 企画制作:國學院大學