鳥取の未来につながる だから農業とテレワークの両立に挑戦!
——こんにちは。細田さんは國學院大學メディアnoteをご覧になったことはありますか?
はい。じつは私、以前テレビの制作会社で働いていたので、テレビ業界のことが書かれたnoteの記事を読んでいました。そこでバラエティプロデューサーの角田さんの記事を見つけ、おもしろく読ませていただきました。それと、私がファンである元日向坂48の宮田愛萌さんや『裏社会ジャーニー』などで知られる丸山ゴンザレスさんが國學院大學出身であることを知り「この毛色がまったく違う二人が同じ大学!」というおもしろさから、國學院大學に興味を持ちました。
——ありがとうございます! さっそくですが、細田さんが農家とテレワーカーの両立を目指すことになった理由を教えていただけますか?
そうですね、まず実家のことからお話させてください。私は鳥取出身で、実家は300年続く農家です。
文献で詳細は確認できませんが、実家に「参勤交代のときに御殿様が農家(うち)で水を飲んだ。休憩所になっていた」という話が伝わっていて、それが300年前とされています。農家としてはもっと前からやっていたかもしれません。
祖父の代からは梨に特化した果樹農家になりました。
しかし果樹農家の特性上、収穫時期が年1回ですから、収入が入るのも年1回なんです。
私は数年前まで農業とは関係ない仕事をしていて、家業を継ごうと思ったのが40歳を過ぎてからだったので、このまま年1回の収入でやっていくのは難しい、安定した現金収入が必要だろうと考えたときに、両立できる仕事としてテレワークが浮上したわけです(他にも理由はありますが、後でお話しましょう)。
——農業をやろう、家を継ごうと思ったのはなぜですか?
高校を出てからは、農業とはぜんぜん異なる業界で働いてきました。
300年以上続く農家でありながら、父は私に「継いでくれ」と言ったことは一度もありませんでした。好きな道を選べと言ってくれて、私も継ぐつもりはありませんでした。テレビが好きだったので、高校を卒業すると大阪のテレビ関係の専門学校に入ったんです。当時は就職氷河期で、東京のテレビ制作会社を受けましたが全滅。最初の就職先は出版社の営業代行のような事業をしている会社に決まりました。そこからいろいろ模索の時期があり、その後ようやくテレビの制作会社に入ることができました。
そしてプロデューサーになるまでキャリアを積んだのですが、当時はご存知の通り、この業界は寝る間もないほど忙しく、ついに体を壊しちゃったんです。2か月休業させてもらい、鳥取に帰ったんです。
——お忙しくて体が疲れていたんでしょうね。
だと思います。そして実家で休養しているときに、親が鳥取県の就職フェアが開かれているのを教えてくれて。「行くだけ行ってみたら?」というので、出かけていきました。そうしたら、鳥取にもメディアの仕事があることが分かったので「じゃあ鳥取でそういう仕事をしてもいいな」と思って、東京から引き揚げたんです。
——農家を継ごうと思ったのではなく、鳥取でもメディアのお仕事をしたんですね。
そうなんです。ただ、実家の農家を誰かが継いでくれないだろうかとは思っていました。鳥取での就職先は広告代理店ですが、同時に「ふるさと鳥取県定住機構」という組織の「とっとり暮らしアドバイザー」も務めていました。これは、IターンやUターンで鳥取に移住しようとしている方にアドバイスやサポートを行う仕事です。「鳥取で農業をやりたい」という方から相談を受けると、うちの果樹園を紹介したりもしていたんですが……。なかなかマッチングはうまくいかなかったです。
——そういう中でやっぱりご自分が実家を継ごうと思われたのはなぜですか?
今度は肝臓を壊してしまって、入院することになってしまったんです。そのとき、こういう仕事は限界かなと思って、初めて農業を継ぐことを考えたんです。肝臓の治療中、医師に「昔ならこういう症状の場合、サナトリウムでの療養をすすめます。鳥取は空気も水もいいですから、ここはサナトリウムのようなものですね」と言われたこともきっかけになりました。本当に水が良いのか調べたら、鳥取は地下の伏流水が豊かで、水道の蛇口をひねって出てくるのは、99%以上が伏流水なんだそうです。いわば天然のミネラルウォーターのようなものだというんです。
この自然を守って次の世代に渡していくには、農業を通じて里山保全に取り組んでいくことが、自分にできることなのかなと考えました。
——しかし、お父様のもとで農業を学ぶのではなく、農業大学校(※)へ入学したのはなぜですか? しかも学生寮で生活していますよね。
それには3つの理由があります。
1つは、農業ってほとんどが口頭伝承でやり方を伝えていて、スタンダードがないんです。父から学べば父のやり方は吸収できるけど、それはほとんど成功体験です。たとえば父に梨の木の剪定の仕方を聞いたら、「ここをだいたいこうやって、こういうところはこうするんだ」って感じで、なぜ、この木ではこの枝を剪定するか、なぜあの木ではこの形に剪定するかという理屈を知らないまま、見様見真似でやっていくことになると思うんです。それだと、自分が次の人にやり方を伝えるときに「これってどうしてこうやるんですか」と聞かれても、理屈を知らないからちゃんと伝えられないと思ったんですね。
一番オーソドックスな農業の知識を得るにはどうすればいいかと考えて、農業大学校に入ることを考えたんです。基本が分かれば「梨の木の剪定は●●センチがよい」といった教え方ができるだろうと。
——農業の”共通言語”をしっかり学ぼうということですね。2つ目は?
将来的に、自分の農家を法人化して、若い人を雇いたいと思っています。果樹の農家の場合、法人化された農家は少ないのです。だから、農業大学校で果樹のコースだった学生たちは、果樹農業と関係ない仕事に就くことが多いんですね。自分の家が法人になれば、一緒に勉強した果樹コースの学生や地域の若者に働く場を提供できると考えたんです。
あと、続けていってしまうと3つ目の理由は、単純に1年間学校で寮生活を送るとなんかおもしろそうなことが起こりそう! と思ったからです。
実際、自分のものではない、ヒョウ柄のブーメランパンツがクローゼットに紛れ込むという「事件」が起きます。
——(笑)この持ち主は誰だったんでしょうね。3つ目はともかく、1つ目と2つ目の理由の背景には、ご自分の農業のことだけじゃなく、地域の未来や農業の未来も見据えてのことのように思えますが。
その通りです。自分のことだけだったら、おそらく親の果樹園を継いで、今まで通りのやり方でやっていっても家族を養うことは可能だと思います。でも、私は今43歳ですから、農業を始めた時点で次世代のことも考えていかなければならないと思っていて。継いだからには300年以上続いた農家を、私の代で終わらせることはできないので、先を見ながらの取り組みです。
別に自分の血縁や子どもが継がなくてもいいんです。やりたいという意欲のある人が継いでくれればそれでいいと思っています。
——今は学校で農業の基礎を学びつつも、テレワークをしているわけですよね。
はい。学校が始まる前と、授業が終わったあとに仕事をしています。今仕事をしている会社のスタッフ全員がテレワーカーなので、子育て中だったり事情があったりで早朝や夜に会議を行っています。業種としては地方創生に関わるものなので「とっとり暮らしアドバイザー」の経験も活かせます。農業は地域産業なので、地方創生と大きな関わりがあります。その意味でも両立は意義があることだと考えています。
2024(令和6)年10月に農業大学校を修了予定なので、その後は農家となりますが、農業が仕事となってももちろんテレワークの仕事も続けます。
——農家となってしまうともっと忙しくなりそうですが、それでもテレワークは続けるのですね。
もちろんそのつもりです。経済的な安定ということもありますが、自分がやりたい農業を行うためにも、今のテレワークの仕事はとても重要なんです。
これからの農業を推測すると、水耕栽培の工場で作物を大量生産するような形が主になっていくでしょう。私の農業スタイルでは生産量では太刀打ちできません。しかし、たくさんの農家の農産品を取りまとめる農協に出荷することで、大量生産の農産物には対抗できると思います。
同時に、鳥取の梨のブランド力を上げて、今は西日本が中心となっている流通を東京にも伸ばしていきたいですね。
そのとき、テレワークの仕事が活きてきます。今の会社には地方創生に取り組む仲間が全国にいます。このネットワークを活かし「鳥取の梨はおいしい!」という情報を全国に届けることができるはずです。
さらにテレビ制作会社時代の経験を活かせば、鳥取の梨がおいしい理由などを、人々が興味を持つ形で発信していくことができるでしょう。
——今まで経験したことが全部集約されて活かされそうです。ちなみにnoteは今後どのように使っていく予定ですか?
今後もnoteに記事を書いていくつもりです。もともと書き始めたのは、ある人から「農業大学校に通ったり、農家でテレワーカーって絶対おもしろいことだから、書いておいたほうがいい」と言われたからで、内容にはあまり私自身の思いは入れないようにしています。「農業をやってみたいな」「農業って収入はどうなんだろう」など、農業への関心を持つ人に役立てられる情報を提供したいと考えています。読んだ人が「農業とテレワークって両立できるんだ、こんな方法があるんだ」と思ってもらえたらうれしいですね。
また、現在「日本農業技術検定1級」にチャレンジ中で、その勉強法についても全部開示していきます。
——すでに取得している2級のときも、勉強法を惜しみなく共有されていましたね。
はい。とにかく過去問題を繰り返し解くことから始め、「果樹栽培の基礎」の出題箇所全部に付箋を貼っていきました。これで出題される傾向が分かってくるんです。この方法は他の検定や試験の勉強法にも役立つかなと思って、全部開示しています。
農業をやるだけだったらこの検定を受ける必要はないんですよ。農業大学校でも受けている学生は少ないです。でもこれも、次の世代に農業のスタンダードを伝えるためには必要なことだと思ってがんばっています。
——貴重なお話ありがとうございました。10月以降もどんな試みをされていくのか、noteを楽しみにしています。
細田さんは以下の書籍でも紹介されています
取材・文:有川美紀子 編集:篠宮奈々子(DECO)
企画制作:國學院大學