うずと自然のリズムと時刻表と②
■時刻表について
以前にも書いたように、私はうずしおクルーズの海務部で船の運航に関する仕事をしていました。そのなかの業務の1つに時刻表の作成があります。お客様がうずしおを見られる可能性を高めるために、うずしおが巻く時間と大きさを予測し、それに合わせて船を出港させているのです。
では、どうやって予測するのか。ここからはとてもマニアックな話になるのですが「つきとうずがつながっている」を実感できると思うので、頑張って読んでみてください。
説明を始めましょう。
■潮汐表について
うずしおクルーズの時刻表を作るためには、一般社団法人日本水路協会が毎年2月に発行している「潮汐表」を使います。これは海上保安庁が監修をしており、日本中の潮汐と潮流が1年間分記載されています。
潮汐とは、月と太陽の引力によって起きる、潮の満ち引きのこと
潮流とは、潮の満ち引きによっておこる海水の流れのこと
です。潮汐と潮流は日本のすべての地域で同じ時間に同じように起こっているわけではありません。潮汐表には74地点の港湾の潮汐と21地点の潮流の毎日の予測値が掲載されています。うずしおクルーズでは鳴門海峡の潮流のデータを利用しています。
それでは潮汐表をどのように読み解いていくのか。4月のデータを例にして、説明したいと思います。
■予測について
潮汐表を読み取り、うずしおについて予測していくなかで、重要なポイントが3つあります。
ポイント①
上の表(写真②)は、2024年4月の潮汐表です。表の上のほうを見てください。4月という表記のすぐ下に「転流時」と記載されています。この「転流時」とは、潮流が逆転する時間のことです。鳴門海峡の場合、潮流は2方向あります。
図中にある矢印のAとBはそれぞれ
A:太平洋側から瀬戸内海側への流れ
B:瀬戸内海から太平洋側への流れ
です。この2方向の流れは、6時間ごとに徐々に流れを変えながら入れ替わります。ちょうど入れ替わる「転流時」 は海面が凪になります。
ポイント②
4月の潮汐表を見ると「転流時」のすぐ横に「最強」と記載されています。これは、潮流が最も早くなる時間のことです。4月9日のデータを取り出して、詳しく見てみましょう
数字だけだと分かりにくいので書き足しています。4月9日(写真③)の中にある、左側の数字は「転流時」、真ん中の数字は「最強」、いちばん右の数字は「潮流の速さと向き」を表しています。
「潮流の速さと向き」に書かれている記号と数字には3つの意味があります。
ひとつめは数字について。数字が大きいほど潮流が速いことを意味します。
ふたつめは+と-について。これは潮流の向きを意味しています。+は図1で示したAの太平洋側から瀬戸内海側への流れ(北流)、-はBの瀬戸内海側から太平洋側への流れ(南流)です。
みっつめは+と-に「最強」の時間を組み合わせます。+の左隣にある時間が満潮時間、-が干潮時間を意味します。
つまり写真③からは「4月9日は00:14と12:24が干潮時間、6:22と18:38が満潮時間で潮流のとても速い日」ということが読み取れます。
さらにこれをグラフにして深堀りしてみましょう。
図2のグラフでは、縦軸は流れの速さ、横軸は時間を表しています。縦軸での+の向きは北流、-の向きは南流になります。さらに+側にある波線の頂点が満潮、-側にある波線の頂点が干潮を意味しています。このグラフで読み取れるのは、00:14の干潮時間に潮流が最も速くなり、段々弱まりながら3:23の「転流時」に凪になり、流れを南流から北流に変えてだんだん強まりながら、6:22の満潮時間に再び潮流が最も速くなることが分かります。その後も干潮→満潮→干潮と約6時間ごとに訪れ、1日4回流れの向きを変えます。
ポイント③
ここまで、潮汐表の読み取り方を見てきました。もうひとつのポイントとして、実際のうずしおの大きさがどのように変化しているかをグラフで見てみましょう。
図3では、縦軸はうずの大きさを、横軸は時間を表しています。
表の際に読み取った「転流時」と満潮と干潮の時間とうずしおの大きさの変化を照らし合わせてみると、うずしおは干潮の時間に最も大きくなり、そこからだんだん小さくなって「転流時」にうずは消え、そのあとまた、だんだん大きくなって満潮の時間に再び大きなうずを巻くことが読み取れます。
ここまで潮汐表をもとにして、潮汐・潮流とうずしおの関係性を見てきました。1日のうちでも満潮と干潮を繰り返していて、潮の流れも速くなったり遅くなったりを繰り返しています。それに合わせてうずしおも大きくなったり小さくなったりを繰り返しているということがおわかりいただけたでしょうか?ここからさらに深く読み取ってみるので
「潮流が速いと、うずが大きくなる」
この言葉を覚えておいてください。これからの説明のポイントとなります。
■潮汐表を比較してみよう
実は、うずしおは毎日同じ大きさなわけではありません。
1ヶ月の中でも大きくなったり小さくなったりしています。これは月の引力が潮の満ち引きに関係しているからです。うずしおを知る人の間では満月と新月の日に大きく巻き、半月の日に小さく巻くと言われています。これを確かめるために、別の2つの日の潮汐を見比べてみましょう。
上の2つの画像は、2024年4月2日と9日の潮汐表です。この2つの日の違いは月の状態が大きく関係しています。太字の2と9の下に丸い記号があります。この記号は月の状態を表していて、2日の左半分が白いのは半月(下弦の月)、9日の真っ黒いのは新月を意味しています。半月と新月でどのような違いがあるのか、見てみましょう。
図4のグラフでは、縦軸は潮の流れの速さ、横軸は時間を表しています。4月2日と4月9日のグラフを比較してみると干潮と満潮の時刻が逆とはいえ、うずしおが最も大きく巻くピークの時間は、4月2日が6:28、11:53、17:47、4月9日が0:14、6:22、12:24、18:38とほとんど同じです。注目してもらいたい違いは波線の大きさです。これは干潮時間と満潮時間の潮流のピークが新月の日の方が速く、半月の日の方が遅いことを意味しています。
さきほどの言葉を覚えているでしょうか?
「潮流が速いと、うずが大きくなる」
つまりうずしおは
「新月の日に大きく巻き、半月の日に小さく巻く」
ということが読み取れます。
さらに図4に水色の部分があります。これはうずしおクルーズの営業時間を示しています。この記事の最初に「お客様がうずしおを見られる可能性を高めるために、うずしおが巻く時間と大きさを予測し、それに合わせて船を出港させているのです。」と書きました。下のうずしおクルーズの時刻表を見てください。
小うずの日と大潮(大うず)の日の時刻表が全く違うことがおわかりいただけたでしょうか?2日の方はうずがあまり期待できない△が多いですし、9日の方はうずが期待できる◎が多いです。どちらのどの時間がおすすめか、ここまで読んでくださった方なら一目瞭然ですよね。ぜひうずしおを観潮される際は、うずしおクルーズの時刻表を参考にしながら自然のリズムに合わせた旅のスケジュールを組んでいただければと思います。
うずしおクルーズのホームページはこちら
【公式】うずしおクルーズ〜淡路島から鳴門の渦潮を体験〜
長々と説明してきました。最後まで読んでいただいた方、ありがとうございました。自然のリズムをてぬぐいの波線で表現したのは、この記事のグラフのイメージが元になっているからです。毎日同じように繰り返しているけれど、少しずつ違っていて、でも規則性があって、人の知識で予測ができる。そこに知性と美しさを感じたから、このてぬぐいの中央に描きました。てぬぐいのデザインはさらにここからうずの大きさと月の満ち欠けの関係性を読み解いたものになります。
それについては、また次の記事で!