チームプレーの難しさも喜びも、全部この仕事が教えてくれた
株式会社 JALグランドサービス
鈴木隼人さん
航空整備士の兄に影響を受け、中学生で空港の仕事に興味を持った鈴木隼人(すずきはやと)さん。子どもの頃からチームスポーツが好きだったことから、チームで仕事ができるグランドハンドリング(以下、グラハン)の道を選びました。
限られた時間の中で周りと連携し、業務を遂行しなければいけないグラハンの仕事の難しさに「できる気がしない」と落ち込んだことも。しかし、そんな鈴木さんを勇気づけてくれたのもまたチームメンバーの力でした。
■グラハンを選んだのは、「大人になってもチームプレーができる」から
--- 鈴木さんのお仕事について教えてください。
グラハンとしてJALグランドサービスに入社して今年で入社6年目。入社以来、羽田空港にある国内ランプサービス部で飛行機の誘導や荷物の積み下ろしといった離着陸に必要な作業を担当しています。
--- グラハンの仕事に興味を持つようになったきっかけは?
僕には6歳年上の兄がいて、航空整備の仕事に就いているんです。その影響から、中学生頃には「将来は航空業界で働きたいな」と思っていました。具体的に進路を決める段階で、グラハンという業務があることを知りました。
グラハンは、飛行機を安全に、定刻通り離発着させるのに欠かせない業務です。そして、限られた時間でさまざまな業務を行うこの仕事はとにかくチームワークが大切。
僕は中学ではバスケ、高校ではラグビーとずっとチームスポーツをしていたこともあり、「グラハンなら大人になってからもチームプレーができるのか!」と興味を持つようになりました。グラハンに従事している人の中には、僕のようにチームスポーツをしていた人が大勢いるんですよ。
--- JALグランドサービスに入社するまでの経緯を教えてください。
僕は高校生の時点でグラハンの仕事に就こうと決めていたので、卒業後は航空関連の専門学校に進学しました。JALグランドサービスへの入社を決めたのは、一度経営破綻を経験している会社だからですね。
--- 経営破綻をしている会社だから?その理由だと、どちらかというと避ける要因になりそうですが……。
どん底から這い上がっているからこそ、本質的な強さを持った会社なんじゃないかと思ったんです。実際、徹底的に経営状況や会社の体制を見直して株式再上場を果たしていますし。そういう強さを持つ会社で働けたら僕自身も成長できるんじゃないかと思い、入社を決めました。
■貨物の搬送場所を間違えたり、駐機場で飛行機を待たせたり……失敗ばかりの日々
--- グラハンは常に時間との戦いで、ハードワークなイメージがあります。1日の流れを教えてください。
基本的にシフト制で、時間はまちまちですが、5時頃から15時頃までの早番勤務、15時から23時頃までの遅番勤務などがあります。
勤務時間中は頭も体も使うので忙しいですが、飛行機は1日に飛ぶ便が決まっているので、残業はほとんどありません。そのため、プライベートの時間はかなり取りやすいと思います!僕はスポーツが好きなので、早番のときは仕事終わりにジムに行ったり、地元のタッチラグビーチームに参加したりしています。
--- 仕事とプライベートのバランスが取りやすいのは嬉しいですね。この仕事のどんなところにやりがいを感じますか?
やっぱり、チームワークを感じられる瞬間は気持ちいいですね。たとえば、飛行機の出発間際は本当に忙しいです。飛行機を誘導するマーシャリング業務、手荷物や貨物の搭降載、飛行機のドアの開け閉め、搭乗橋(ボーディングブリッジ)の接続などを3〜4人のチームで行わなければいけません。
もちろん指示を出す人もいるのですが、作業時間が限られているから指示待ちでは間に合わないことも多いんです。「あの人は今この作業をしているから、僕がこれをやったら効率がいいな」など、メンバー全員で状況を読み合いながら、能動的に動く必要があります。
メンバーの息をぴったり合わせて、無事に定刻通り飛行機を送り出したときの達成感はすごいです!
--- たしかに、チームスポーツに通じるところがありそうです。しかし、チームプレーの中で能力を発揮できるようになるまでには、苦労することも多かったのではないでしょうか。
最初は失敗ばかりでした。貨物の搬送場所を間違えたり、配置人数を間違えて作業に時間がかかったり。飛行機は定刻通りに到着しているのに、グラハンの作業がスムーズにいかなかった結果、お客さまを駐機場でお待たせしてしまったこともあります。
グラハンの仕事は、ちょっとしたミスで定時運航に影響を与えてしまうこともあります。その限られた時間の中で、自分だけでなく周りの状況も正確に判断しなければいけません。それが本当に難しくて、「できる気がしない」と何度も落ち込みました。
--- その苦しい時期は、どのように乗り越えたのでしょう。
「自分だけで悩む必要はないんだ」と思えるようになったから、ですかね。困ったことがあったら、先輩に聞くようにしていました。僕があまりにもたくさん質問をするので、「すぐに聞きすぎだ!」と注意されることもありましたけど(笑)
でも、なんだかんだ言いながらフォローしてくれる先輩ばかりで、本当に助けられました。チームの連携がうまくできなくて悩んでいたけど、そんな僕を助けてくれたのもチームの力だったんですよね。
--- グラハンの業務をするには、100個以上の関連資格をとらなければならないそうですね。資格取得は大変でしたか。
ドアの開け閉めにも資格が必要なほど、グラハンの資格は細分化されているんですよ。それくらい、グラハンの仕事は資格の数でできる仕事の幅が変わってきます。ただ、資格は入社後に少しずつとっていくので、取得自体はそこまで大変ではないと思います。大変なのは、資格が増えてきてからですね。
資格が増える分できる仕事も増えているはずなのに、指示をされないと自分が今何をすべきか、どこに行くべきかがわからないこともあり、資格が増えれば増えるほど、資格を活かせていない自分が嫌で苦しくなりました。
でも、それを助けてくれたのもチームの力なんです。自信が持てるまで、資格を取ったばかりの僕に業務を任せてくれました。また、短期間で経験が積めるように、他チームの業務にも携われるよう配慮してくれたこともありました。チームにサポートしてもらいながら少しずつ経験を積むことで、業務を楽しむ余裕がでてきましたね。
今では業務の幅が広がるのが嬉しくて、もっと資格を取得したいと思っています(笑)。
■自衛隊や看護師からの転職も。グラハンはいつからでも目指せる
--- 入社して6年目と資格も増えて仕事の幅も広がった現在、改めてグラハンの仕事をどう思いますか。
当たり前のことかもしれませんが、グラハンは日々の信頼の積み重ねが大切な仕事です。縁の下の力持ちとして、安全に、定刻に飛行機を送り出すのが僕たちの役割。
ただ、仕事に慣れてきた2、3年目頃は、やりがいを見いだせなくなっていた時期もありました。僕たちグラハンは、お客さまと直接お話しすることはほとんどありません。それに、直接売り上げにつながっているか分かりづらく、成果が見えづらいので、「僕の仕事は、誰かの役に立っているのだろうか」と悩んだこともありました。
でも、資格を取得し業務の幅が少しずつ広がったり、指示を出して現場をコントロールする機会が増えたりすることで「僕たちが当たり前のことを積み重ねてきたからこそ、お客さまの信頼に繋がっているんだ」と、この仕事に誇りが持てるようになりました。お盆や年末年始といった繁忙期に定刻通り飛行機を見送れたときは、最高に気持ちいいですよ(笑)。
--- この仕事をしていて嬉しかったことはありますか。
子ども向けのイベントで、グラハンの仕事の紹介をすることがあるんですよ。そのときに、「グラハン知っているよ!」と言ってくれる子どもたちがいて。普段お客さまと直接関わる機会が少ない分、こういったお声をいただけるのは本当に嬉しいですね。
--- 最後に、グラハンに興味がある方に向けて、メッセージをいただけますか。
飛行機は、一人で飛ばすことはできません。僕たちグラハンを含め、グランドスタッフ、整備士、CA、パイロットなど、色々な職種の人たちが力を合わせて運航しています。その中でもグラハンは、様々な職種の人とコミュニケーションを取る機会が多い。また、飛行機の一番近くで働ける仕事でもあります。
飛行機が好きな人はもちろん、チーム一丸となって同じゴールを目指したい人にもやりがいを感じられる仕事だと思います。
ときどき、「専門卒や経験者じゃないとグラハンにはなれないのか?」と聞かれることがあるのですが、そんなことはありません!知識や経験は、入社してからいくらでも身につけられます。
それより大切なのは、チームプレーができるコミュニケーション力です。実際に、僕の同僚にも自衛官や看護師など、全くの未経験からキャリアチェンジしてきた人も多いんですよ。
興味があれば、ぜひチャレンジしてみてほしいです!
(2023年5月取材)
(文:仲奈々、写真:大橋政昭)
★今回のインタビュー記事はいかがでしたか?
空港でのお仕事には、他にも様々なものがあります。
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